いもち病は稲に発症する病気です。稲作においていもち病は恐るべき存在で、感染が拡大すると米の収量に大きく影響を及ぼします。
いもち病に感染すると、稲全体のさまざまな箇所に症状があらわれます。葉にタバコの焼け跡のような斑点がついて黄化する「葉いもち」、稲の節が黄色や黒色に変色する「節いもち」、稲穂が変色する「穂いもち」などと発症する部位によって名前は変わりますが、すべて同じ病気です。いもち病に感染した稲は成育が阻害され、枯れてしまったり、米の収穫量が減ったりします。
いもち病の初期症状は斑点の出現です。いもち病は稲の部位を問わず、かつ植え付け初期~収穫時期まですべての時期で発生するリスクがあるため、日々の観察によっていかに早くいもち病を発見するかが重要です。
いもち病の原因はカビの一種であるイネいもち病菌(学名:Pyricularia oryzae)です。イネいもち病菌が稲に感染すると、その場所から斑点があらわれはじめます。カビなので、風や雨によって田んぼ全体に広がりやすく感染力は強大です。
いもち病の厄介なところは、植え付けから収穫まですべての期間において発生するリスクが付きまとう点です。特に発生しやすい条件は20~25℃、高湿度の環境です。湿度の上がるシトシトとした雨が続くときは注意しましょう。
いもち病は稲作期間である5~10月まですべての時期で発生しますが、特に雨が多く梅雨時期と秋雨前線が活発になる9月ごろが発生のピークです。また、これに限らず、夏の晴れ間が少なく気温が上がらずに日照不足が続くと夏にも発生します。理由は、夏の日照不足が稲の生育を遅らせ、強い苗が育たないためです。
いもち病が発生しやすい代表的な植物は稲です。稲の品種によっていもち病への抵抗性は異なり、コシヒカリやササニシキはいもち病への抵抗性がかなり低いことが知られています。コシヒカリは日本人に愛され続ける稲の品種であり、いもち病の大規模発生は生活に大きな影響を与えるといえるでしょう。
稲作の歴史はいもち病との戦いの歴史ともいえるほどです。日本におけるいもち病に関する記述は1704年にはすでに登場しており、いもち病が大凶作の原因となることもありました。令和の時代においても、いもち病と人との戦いは続いており、いもち病抵抗性品種の作出や感染の仕組みの研究などさまざまな分野のプロフェッショナルが日々研究を進めています。
ボタニ子
葉いもちは症状がわかりやすく、発見しやすいでしょう。葉に焦げたような斑点があらわれ、そのまま対策を打たないとどんどんと感染が拡大します。葉いもちの発生をいち早く察知し、対策をとることで穂への感染を食い止められるため、葉いもちの発見は非常に重要です。
いい機会だから覚えよう。向かって右下、青い籾が正常な籾。真ん中〜左奥まで全体的に広がる、ピンク〜赤色に見える籾が穂いもち病に冒された病変稲。集団で発生すると田んぼ全体がピンク色に見えるそうだ。米農家最大の敵であるいもち病とはこういう病気です。覚えておくように。 pic.twitter.com/wSO6Ur0YK4
— すぽぽ@私は帰ってきた (@Iwatekko6969) September 5, 2018
出稲(しゅっすい:穂が出ること)がはじまると、穂いもちがあわられます。田んぼ全体を見回すと、ところどころ白やピンク色の穂が見られるのが初期症状です。感染した穂は籾の中に米が作られずスカスカになってしまいます。
田んぼそばの雑草(メヒシバ?)に派手にいもち病出てる。今年は稲作には厳しいのかもなあ。 pic.twitter.com/hck98Xnnpg
— 奥山雄大(茨城県在住関西人) (@yokuyama) July 12, 2019
道端に生える雑草メヒシバにもいもち病は感染します。こういった雑草の感染が見られたら、田んぼにもいもち病が広まる恐れがあるといえるので、警戒する基準にするとよいでしょう。
生まれて初めて現物を見ました。
— のと栄能ファーム (@notoeinofarm) July 17, 2020
いもち病…(´;ω;`) pic.twitter.com/ygVRZy48aQ
いもち病は感染が拡大すると、制御することは困難です。いもち病の対策は「発生させないこと」が大切なため、予防方法を実践するのが肝要です。
いもち病の原因菌が種籾(たねもみ)に付着したまま冬を越すと、翌年の発生原因となります。あらかじめ無病種子を使えば初期の発生を抑えられるでしょう。
古くからある「塩水選」という方法は健康な種籾を見つける手段として有効です。塩水に種籾をつけると、健康なものは沈み、弱いものは浮くため、発芽率をあげられます。また、いもち病にかかっている種籾も塩水に浮く傾向があるので、この時点で菌を取り除けるのもメリットでしょう。塩水選を終えた種籾に薬剤をいれて消毒すれば無病種子になります。
いもち病に抵抗性を持つ品種は開発され続けています。抵抗性の高い品種を選択することは予防に有効でしょう。
カビの胞子が飛ぶことでいもち病の感染は広まるので、風通しをよくすることは感染予防に有効です。苗と苗の間隔を十分にとること、田んぼのあぜ道の雑草を定期的に刈り取ることを心掛けましょう。
前年刈り取った稲わらなどを処分せず田んぼに放置しておくと、それが菌の温床・発生源となります。焼却したり、土に埋めたりして適切に処分しましょう。補充用の置き苗は風通しが悪く、幼く抵抗性も弱いので、いもち病に感染するリスクが高くなります。菌の温床とならないように置き苗の放置は避けましょう。
いもち病は窒素過多の環境で発生しやすくなることがわかっています。稲作に使用する窒素分は適量の使用が望ましいでしょう。
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ベントレートはベノミルを有効成分とした、カビが引き起こす病気に有効な農薬です。いもち病の予防、治療どちらにも効果があります。水に溶かして使用しますが、少量で効果があるため薬剤による稲の汚れが少なく済むのも魅力でしょう。
おすすめ度 | ★★★☆☆ |
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容量 | 100g |
【トヨチュー】木酢液スプレー
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木酢液は、農薬をできるだけ使いたくない人たちから人気です。木酢液は希釈して、種の消毒や育苗時に使用することが多く、初期のいもち病感染予防剤として使用されます。
おすすめ度 | ★★★☆☆ |
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容量 | 900mL |
繰り返しになりますが、いもち病は予防が何より重要です。一度感染が発生すると「周囲2kmを枯らす」といわれるほど強い感染力を持つからです。葉いもちが多く発生すると、それだけ穂いもちの発生も増加し、結果として米の収量が大きく落ち込みます。葉いもちの段階で発見し、適切な治療をとり、感染を食い止めましょう。
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トップジンはチオファネートメチルが有効成分の農薬です。蔓延してしまった葉いもちに対しても効果的で、予防剤として使用することもできるので使い勝手のよい薬剤といえるでしょう。
おすすめ度 | ★★★☆☆ |
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容量 | 250g |
適切な薬剤の使用により、いもち病の感染を予防・治療してきた日本の稲作ですが、2000年頃から薬剤への耐性をもった菌が出現し、問題となっています。同じ薬剤を繰り返し使用していると菌が耐性を獲得しやすいため、成分の違う薬剤の併用を心掛けましょう。
いもち病を防ぐために有効な手段は?
田んぼに菌を持ち込まないこと、感染を広げないことです。健康な種、苗を使用し、感染の恐れがある去年の稲わらなどをそのままにせずクリーンな環境づくりを心がけましょう。結果としてほかの病気の防止にもつながります。
紋枯病との見分け方は?
いもち病以外の稲を脅かす病気として、紋枯病があります。紋枯病もいもち病のように斑点が出ることが特徴ですが、苗の水際部分から地上部に向かって感染を広がるのがいもち病との違いです。根の近い部分に斑点や枯れが発生している場合は紋枯病を疑いましょう。
夏の暑さにも負けない新品種が開発されています。いもち病をはじめとした病気にも強い新品種について解説した記事はこちらです。