青枯病はトマトやナスなど野菜に多くみられる病気で、葉が水分がなくなったように萎れ(しおれ)ます。病気の進行が早く、葉や茎の色の変化がないまま全体が元気をなくすため、青枯れといわれています。青枯状態から病気が進行すると下葉から枯れ上がり、枯死してしまいますが、これは根からの水分が行き渡らないことが原因です。
青枯病はひとつの株の発病に留まらず、次々と近くの個体に伝染する恐るべき病気です。感染した個体の根から病原菌が広がり周辺の株に感染します。また、芽かきや摘芯などの作業によって、ハサミについた病原菌がほかの個体に移り地上部から伝染することもあります。ひどく青枯病菌で土壌が汚染されると、数年以上そこで同じ作物が栽培できません。
青枯病の初期症状は水分を失ったように、葉の先端が萎縮します。夏場の暑い時期に発生し、朝夕に回復するため一時的な水不足と勘違いしやすいです。しかし、7~10日後に葉が萎れる部分が広がり青枯状態となります。
青枯病はRalstonia solanacearum(ラルストニア・ソラナセアラム)という細菌という土壌細菌が原因で発病します。この細菌は土壌水分中を泳ぐことが可能で、酸素や栄養を確保するために植物の根の周りに集まります。気温が高くなると数が増え、植物体についた傷口から侵入することが発病の経路です。
青枯病は多湿で高温の条件を好むため、排水性の悪い土壌で発生しやすいです。湿った土のなかでは、青枯病菌は長く生存でき、寄生する機会をうかがっています。また、同じ作物を作り続ける畑で発生が多くなるのは、特定の野菜を宿主とする病原菌が増殖し続け、微生物の生態系が偏ってしまうためです。
青枯病は高温性菌で、温度が高い時期に発生しやすいです。細菌の増殖が最も進む温度が35~37℃のため、外気温より5~15℃高いビニールハウスはこの病気の発生に気を付けてください。植物が発病する温度は20℃からで、25~30℃になると発病が頻発しやすくなりますが、40℃以上の高温や10℃以下の低温条件下では死滅するため発病が少なくなります。
日本ではナス科のトマト、ナス、ピーマン、ジャガイモ、タバコを中心に発生しています。そのほかにも、インゲン、キュウリ、ダイコン、ダリアなど世界全体で200種類以上の作物が病気にかかる注意すべき細菌病です。また青枯病菌には遺伝子型の異なる複数の系統が存在し、それぞれ宿主とする作物が異なります。
夏に雨が多い日本では、トマトやミニトマトの発病がよくみられます。トマトで青枯病が発生すると、葉や果実に病気の症状が出ずに、株全体が萎れます。「トマト萎凋(いちょう)病」も株の葉が萎れる病気ですが、下の葉から黄色くなる点や株が枯死するまでに時間がかかる点などで見分けることが可能です。
ピーマンでの青枯病はトマトと同様に、茎頂部の葉が緑色のまま萎れます。2~3日は萎れと回復を繰り返しますが、温度が高いと枯死するまでの期間が短いです。発病した個体の地際近くの茎を切断すると、維管束が茶色に変色しており、白い液体が染みでています。
ナスは暑い時期に発病し、葉が緑色のまま萎れ1週間程度で枯死します。低温期にもハサミなどを通して発症しますが、その場合は進行がとてもゆっくりであり、すぐには枯死しません。ナスの葉が萎れる病気はほかに、青枯病が発生しない低温期に発生する「ナス茎えそ細菌病」や、茎の地際部が褐変する「ナス茎腐細菌病」があるので安易に青枯病と判断しないことが大事です。
ナス科のジャガイモも青枯病にかかりやすいです。日本では九州を中心とした西南暖地で多く発生がみられ、ほかの野菜同様に急激な葉の萎れがおこります。また、茎の一部である塊茎(食べる部分)にも病徴があらわれ、実の内部周辺の維管束部分がひどく褐変します。
ダリヤやキクなどの青枯病はほかの作物と同様に、葉の色が緑色のまま萎れ出し、しばらくすると全体が枯死します。キクでは根が茶色に変色し簡単に抜けてしまい、茎の地面近くでは暗褐色の病徴が見られます。葉が萎れる病気はほかにもありますが、黄変するケースが多いので見分け方は簡単です。
青枯病は一度発生させてしまうと、土壌中に長く生息し次の作物の栽培に影響するため、発生させないことを主眼に置いた予防方法が重要です。
病気を予防する対策として、土作りは基本です。青枯病菌は水分の多い土壌を好むため、草やきゅう肥由来の有機物を多く投入し、排水性が高い土作りを目指しましょう。さらに、土壌改良は土中の微生物多様性を高めるため、青枯病菌の増殖を防ぐ効果もあります。
青枯病菌は土のなかでは長く生息できるため、なるべくほかの畑に入った靴から土を自分の畑に持ち込まないよう注意が必要です。また近くで発病した畑があれば、雨水の経路についても確認してください。ほかにも、ハサミなどの道具を介して伝染することもあるため、1列ごとに消毒したり、地面に落としたものはきちんと消毒したりするとよいでしょう。
青枯病の効果的な予防対策として、青枯病にかかる作物を同じ場所で栽培することは避けてください。青枯病菌には寄生しやすい作物があるため、同じ作物を栽培し続けると発生のリスクが高まるからです。露地でナスやトマトを栽培するときは、去年栽培していた場所にはトウモロコシや枝豆など青枯病にかからない野菜を栽培するとよいです。
トマトやナス、ピーマンには青枯病にかかりにくい抵抗性品種があります。この抵抗性品種を台木にして接ぎ木をすることで、青枯病菌の発生を抑えられます。抵抗性品種の使用は青枯病対策として安定的な効果を出しますが、土壌中のカルシウム成分が少なくなると抵抗性品種でも発病することがあるので油断は禁物です。
ネマトリンエース
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青枯病の予防としては、ネコブセンチュウなどのセンチュウ対策が効果的です。理由としては、センチュウが多く発生している圃場(ほじょう)では、根の食害が多発し青枯病菌が侵入しやすくなるからです。農薬「ネマトリンエース」は多くのナス科野菜に適用があり、土壌に混和するだけでセンチュウの駆除ができます。
主な作物 | 根菜類、キク類 |
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毒性 | 普通物 |
タイプ | 細粒剤 |
主成分 | ホスチアゼート |
青枯病は一度発病してしまうと治療できる農薬がないため、難病として扱われています。治療の方法はありませんが、発病したときに注意するべきことがあります。その管理手法や効果的な資材について知っておきましょう。
青枯病の症状が見られた場合は、すぐに被害作物を抜き取りましょう。抜き取ったあとに、石灰をまいて土壌を消毒すれば被害を最小限に留められます。また、抜き取った作物や枯死した被害残物は土壌中にすき込んだり、外に放置したりしないでください。虫が媒介となり感染を広げる原因になるためです。
青枯病が一度発生した圃場では作物を傷つけないことが大事です。青枯病菌は傷から侵入するため、苗を定植するときや草刈りをするときは注意をしてください。
青枯病が発生した畑では、太陽の熱を活用した対策をとることで次作への被害を抑えられます。この理由は青枯病が40℃以上の熱で死滅するからです。特にハウス栽培において有効な対策で、10aあたりに米ぬか1~2tもしくは生わら2~3kgを石灰窒素100~150kgと散布し、水をまいたあとに全面をマルチで覆ってください。これによって、地表温度を60℃以上の高温にします。
この方法を太陽熱消毒といい、2週間~1カ月程度の期間ハウスを密閉することになります。
青枯病が発生した畑を消毒し次の作物が栽培できるよう、クロルピクリン製品という薬剤を使用した防除方法があります。クロリピクリンは、太陽熱消毒以上に土壌30cm深くまで青枯病菌を含む土壌病害虫を駆除します。とても効果的な薬剤ですが、ガス性が高く目に催涙性を伴う刺激があるため、取扱いには注意が必要です。
青枯病にかかっているか、どんな見分け方をしたらよいですか?
葉っぱの色が変わらないまま、萎れたら青枯病の可能性が高いです。被害植物の茎を水に浸して白い液体が出てくれば、青枯病にかかっていると判断してよいでしょう。
青枯病にかかったら治すことはできますか?
青枯病にかかると治療できません。また、菌は地中深くでも生き、土壌を薬剤で消毒しても完全に駆除することは困難です。そのため原因菌の繁殖を抑え、青枯病を発病させない管理が重要です。
日本ではどんな作物が青枯れ病にかかるの?
これまでに、次の20科38種で確認されています。
科 | |
ナス科 | ジャガイモ、タバコ、ナス、トマト、ピーマン |
キク科 | シュンギク、ジニア、ヒマワリ、ダリア、オオキンケイギク、キク、マーガレット、マリーゴールド |
マメ科 | インゲンマメ、ソラマメ、ラッカセイ |
アブラナ科 | ダイコン、カブ |
ウリ科 | カボチャ、キュウリ、ツルレイシ |
バラ科 | イチゴ |
バショウ科 | ストレリチア |
シソ科 | シソ |
アマ科 | アマ |
アオイ科 | ケナフ |
ゴマ科 | ゴマ |
トウダイグサ科 | ヒマ |
ショウガ科 | ショウガ、ミョウガ、クルクマ |
イソマツ科 | スターチス |
セリ科 | アシタバ |
ツリフネソウ科 | インバチェンス |
リンドウ科 | トルコギキョウ |
ベンケイソウ科 | カランコエ |
キンポウゲ科 | デルフィニュウム |
スベリヒユ科 | ポーチュラカ(ハナスベリヒユ) |
傷の多くは人の作業でついたものや根が伸びるときに自然についたもの、コガネムシやセンチュウなどの虫の食害が原因によってついたものです。