ナミテントウとは「テントウムシ」と呼ばれる昆虫の一種です。平野~山地まで非常に広い地域に分布しており、日本では北海道~九州・南西諸島と、ほぼ全国で見られます。「ナミテントウ(並天道)」という名前は、テントウムシのなかでも特に多く見られる種類のため、「並みに見られる」という意味で名づけられました。体長4.7mm~8.2mmと、大きさには個体差があります。
ナミテントウの生態として、特に特徴的なのが冬になると集団で冬眠・越冬することです。家屋の壁の間や窓サッシの隙間など、寒風を避けられる場所に集団で入り込み、冬を越します。集団で越冬するのは、少しでも生存確率を上げるためといわれています。一度越冬した場所には、翌年以降も越冬のためにやってくる傾向が強いです。
ナミテントウは幼虫成虫共に肉食性です。おもにアブラムシを食べます。特に幼虫は食欲旺盛で、アブラムシがいない場合は、身近にいるほかの昆虫やサナギを食べてしまいます。ナミテントウは体長が小さく愛らしい印象がありますが、実際は攻撃性が高く獰猛(どうもう)な昆虫です。場合によっては共食いします。しかし、アブラムシは害虫と見なされているため、一般的には益虫として扱われています。
ナミテントウは身の危険を感じると、関節から悪臭と苦味を持つ黄色い体液を出します。悪臭と苦味で敵を撃退するのです。しかも黄色い体液は、一度付着するとシミになって容易に取れません。うっかり触ると手に付着してしまい、取り去るまで悪臭と黄色いシミに悩まされるでしょう。ナミテントウに触れるときは危機感を持たれないように、そっと優しく扱いましょう。
ナミテントウには、テントウムシのなかでも特に体色や模様のバリエーションが豊富という特徴があります。なかには別種類のテントウムシの模様と似ているために間違われる、といったことも多いです。なお、ナミテントウの模様のパターンは、バリエーションによって4種類に分類されています。
二紋型は、名前のとおり2つの斑紋が特徴です。ナミテントウは全国各地に分布していますが、二紋型の個体は、特に西日本で見られる傾向があります。黒地に赤の斑紋が一般的ですが、黄色またはオレンジ色の斑紋を持つ個体もいます。斑紋の形状は丸形や楕円形のほか、角ばった形もあるなど、意外とバリエーションが豊富であることも大きな特徴といえるでしょう。
四紋型は黒地に4つの斑紋が特徴です。西日本に多く分布しています。黒地に赤、もしくはオレンジ色の斑紋が一般的ですが、斑紋の形状には個体差があります。斑紋の一部または全部が変形するなど、同じ種類とは思えないほど模様のバリエーションが豊富です。
斑紋型とは、4つ以上の斑紋を持つナミテントウのことです。色や斑紋の大きさや形状のバリエーションが豊富で、北海道や東北などの東日本に多く分布しています。斑紋の大きさには個体差があり、斑紋が大き過ぎて、つながって見える種類もあります。色は黒地に赤、またはオレンジ色の斑紋が一般的です。しかし斑紋の大きさによっては、黒地がほとんど見えない個体も存在します。
斑紋型のナミテントウは、草食性テントウムシのニジュウヤホシテントウに似ているものが多く、間違われることがあります。両種の違いは幼虫の姿です。ニジュウヤホシテントウの幼虫は、体中にトゲが生えていますが、ナミテントウの幼虫にトゲはありません。成虫の違いは素早さです。肉食性のナミテントウはエサを探して動き回りますが、草食性のニジュウヤホシテントウは葉の上にとどまっています。
紅型ナミテントウとは、下地の色が黒ではなく、赤や黄色になっている種類です。赤または黄色い下地に黒い斑紋を持つのが一般的ですが、斑紋がない、あるいは非常に薄い個体もあります。作物の葉を食い荒らすため、害虫とされる草食性テントウムシに色や模様が似ている個体もあり、間違われて駆除されることも多いです。
紅型に分類される種類のなかでも、黄色一色の個体はキイロテントウと間違われることが多いです。キイロテントウは本州~南西諸島に分布しています。幼虫も成虫も菌食性で、うどんこ病菌を食べます。体長3.5mm~5.1mmと、大きさはナミテントウよりも小さいです。両種の違いは頭部にあります。キイロテントウの頭部は白地に黒い斑紋、ナミテントウの頭部は黒地に白い斑紋が特徴です。
和名 | ナナホシテントウ(七星天道、七星瓢虫) |
分布地域 | 日本全国(北海道~沖縄)の平地~低山地と広く分布 |
体長 | 5mm~9mm |
おもなエサ | アブラムシ(幼虫・成虫共通) |
ナナホシテントウは、ナミテントウと並ぶテントウムシの代表格です。大きさはナミテントウよりもやや大きめで、赤地に7つの黒斑紋という特徴から「ナナホシテントウ」と名づけられました。北海道~沖縄と日本全国に分布し、ナミテントウと同じく肉食性で、幼虫、成虫共にアブラムシやハダニをおもなエサとしています。活動期間は春~秋ですが、暑さに弱いため真夏はほとんど活動していません。
ナナホシテントウとナミテントウは肉食性で、アブラムシをエサとする点は同じです。しかし体の模様に個体差があるナミテントウに対して、ナナホシテントウは赤地に7つの斑紋で固定されています。幼虫も見た目は似ていますが、体の模様が少し違います。ナナホシテントウは模様が離れていますが、ナミテントウの模様はつながっている状態です。
和名 | フタホシテントウ(二星天道) |
分布地域 | 日本全国(北海道~九州・五島列島) |
体長 | 1.8mm~2.5mm |
おもなエサ | カイガラムシ類とアブラムシ類(幼虫・成虫共通) |
フタホシテントウは黒地に2つの斑紋が特徴のテントウムシです。幼虫・成虫共に肉食性で、害虫のカイガラムシやアブラムシを食べます。ナミテントウのほか、ヒメアカホシテントウというテントウムシに間違われることが多いです。しかし両種は大きさが違います。体長4mm~5mmのヒメアカホシテントウに対して、フタホシテントウは1.8mm~2.5mmと小さいです。
フタホシテントウは二紋型ナミテントウと模様が似ていますが、ナミテントウとは大きさが違います。フタホシテントウは2mm前後、ナミテントウは4mm~8mmと、総じてフタホシテントウよりも大きく、見分けるのは容易です。また、フタホシテントウの斑紋は数も大きさも固定されていますが、ナミテントウは二紋型でも斑紋の大きさや形に個体差があります。
和名 | クリサキテントウ(栗崎天道) |
分布地域 | 日本全国(本州~沖縄)、松林に多く分布 |
体長 | 5mm~8mm |
おもなエサ | マツオオアブラムシ |
クリサキテントウは日本(本州~沖縄)のほか、台湾や中国などにも分布しているテントウムシの仲間です。ナミテントウが平野~山地と生息範囲が広いのに対して、クリサキテントウはアカマツやクロマツなどの松類につくマツオオアブラムシをエサとするため、松林に特化しています。ただし、飼育している個体は、普通のアブラムシでも問題なく食べます。
クリサキテントウの成虫は、大きさも模様もナミテントウに似ています。専門家でも見分けが難しいほどです。両種の見分け方は、鞘翅(しょうし)という部分にあります。ナミテントウは鞘翅にヒダがある種とない種がありますが、クリサキテントウにはありません。そのため、ヒダがある種は「ナミテントウ」と断定できます。一方、幼虫は体の模様がまったく違い、見分けるのは容易です。
ナミテントウは「生物農薬」として期待されている昆虫です。生物農薬とは別名を天敵製剤といい、農作物に何らかの被害を与える病害虫を駆除することができる生物を指します。ナミテントウやナナホシテントウなどの肉食性のテントウムシは、害虫をエサにしている種類が多いため、生物農薬にうってつけの昆虫といえるでしょう。ナミテントウがおもなエサとする害虫は2種類です。
アブラムシは植物の養分を吸い取る「吸汁性害虫」の代表格です。植物の新芽などの若く柔らかい部分を好み、口針を差し込んで植物の汁液を吸い取り、株を衰弱させます。吸汁して植物を弱らせるうえに、排泄物はすす病を誘発し、ときにウイルス病を媒介するなど病気の原因にもなる非常に厄介な害虫です。発生時期は4月~11月、特に4月~6月と9月~10月に大量発生します。
ナミテントウ以外のアブラムシの天敵として有名なのは、ハエの仲間のヒラタアブの幼虫です。成虫は花粉や花の蜜を食べますが、幼虫はアブラムシをエサとして成長します。ほかにもコレマンアブラバチやギフアブラバチなどの寄生バチも天敵といえるでしょう。アブラバチ系の寄生バチは、アブラムシの体に卵を産み付ける昆虫です。宿主にされたアブラムシは養分を奪われ、やがて死に至ります。
ハダニはアブラムシと並ぶ吸汁性害虫の代表格です。体長0.3mm~0.5mmと非常に小さく、葉の裏に発生し、吸汁して葉を枯らしてしまいます。クモのような白い糸をはき、風にのってさまざまな場所へ移動するため、根絶するのが非常に難しいという厄介な害虫です。しかし水気に弱いため、葉水で防除できます。
ナミテントウ以外のハダニの天敵は、ヒメハナカメムシ、カブリダニ、クサカゲロウ、ハダニアザミウマなどです。ハダニは大量発生すると駆除が難しいため、これらの天敵を生物農薬として使用することがあります。
ナミテントウは一般的には、害虫を食べる益虫とされていますが、場合によっては害虫と見なされることもあります。越冬時のナミテントウは害虫と見なされる場合が少なくありません。ナミテントウは集団で越冬しますが、その際、家屋の壁の隙間などに集まるため、見る人に不快感を与えます。刺激や危機を察知すると、悪臭のある黄色い体液を出す特徴も嫌われる原因です。
海外では「テントウムシ汚染」による被害が報告されています。テントウムシ汚染とは、テントウムシがついたり、黄色い体液が付着したりしたブドウの実でワインを作ると、ワインの味が変わってしまう現象のことです。テントウムシが大量発生した場合は、ワインの品質低下につながってしまいます。日本ではあまり報告されていませんが、注意が必要な現象です。
出典:写真AC