梅という植物
梅の分類はバラ科サクラ属。モモやスモモなどと同じ核果類です。落葉小高木で、高さは5~10m。白や濃いピンクといった可憐な花は人々の心を惹きつけ、梅の実は食用または薬用として日本各地で栽培されてきました。別名「春告草(はるつげくさ)」や「花の兄」などとも呼ばれ、冬が終わりと春の始まりを告げ他の花に先駆けて咲く植物であることで知られています。
梅の歴史
日本にある梅は、古くから日本に自生していたという説と、奈良時代より前に遣唐使が薬木として中国(湖北省・四川省)から日本に持ち帰ったという中国伝来の説があります。日本の風土に合っている梅は、平安時代に広く普及し江戸時代には梅の実を利用するための栽培が始まります。昭和30年代に入ると梅酒としての需要が増えたため全国各地で優良品種の選抜や育成が進みました。
日本人にとって梅は昔から身近な存在だった
天平時代(729年~749年)には既に家紋として梅の図柄が使われており、現在は100種類以上にもおよぶ梅の家紋が存在しています。また日本の伝統色にも梅にまつわるものが複数あります。紅梅色(こうばいいろ)、灰梅(はいうめ)、梅鼠(うめねず)など繊細なニュアンスの色合いは、日本人の美的センスを磨いてきました。昔から日本人の目を癒していた梅の花は、万葉集をはじめ歌にもしばしば登場します。
春されば まづ咲く宿の 梅の花 独りみつつや 春日暮さむ
東風吹(こちふ)かば 匂ひおこせよ 梅の花 あるじなしとて 春な忘れそ
梅の実の収穫時期と活用法
花のシーズンを楽しんだあとに、実を収穫、調理することも梅の魅力の一つです。5月下旬~6月にかけて収穫され、スーパーなどでも梅の実が出回ります。毎年この時期に梅干しを手作りされる方も多いです。使用する梅の品種や塩や氷砂糖の分量を調整、にがりの有無で仕上がりが変わるため、梅干しや梅漬けのバリエーションは非常に豊富です。
小さく若い果実には要注意!
木に成ったばかりの若い果実を種ごと食べることは控えたほうがよいでしょう。特に小さなお子様には注意が必要な場合があります。梅の実は、収穫適期になったものを干したり漬けたりして正しく処理し楽しむようにしましょう。(理由は以下)
梅の種や果肉には、種を守るため「青酸配糖体」という糖と青酸が結合した物質がある。青酸は、人間の体内に入ると呼吸困難や目まいなど深刻な影響を与えるんだ。でも、青梅に含まれる量はごくわずか。『白雪姫』に出てくる毒入りリンゴのように、一口かじると倒れてしまうなんてことはないよ。ピンポン玉ほどの青梅だったら、成人で約300個、子どもなら100個ほど食べないと深刻な影響は出ない。
梅の品種と適した環境
梅の開花時期に適した環境
梅の花がより美しく咲くには、適した環境である必要があります。日本のほぼ全土に梅が分布していることから、比較的栽培しやすく日本の土にもなじみの深い植物だとわかります。具体的には、気象条件が年平均13~15℃開花期に-8℃以下にならない環境が適しています。土に対する適応性は広いですが、浅根性のため耕土が深く、排水のよい壌土や砂壌土がおすすめです。
梅の種類は300種類以上ある?
一口に梅といっても、樹によってさまざまな色や、花弁の形をしています。それもそのはず、梅の品種はなんと現在300種類以上あります。江戸時代にたくさんの品種の育成・改良が行われたことに加え、各地の環境条件に適応して成立した地方品種が多く存在しています。そのため品種によって開花時期の早晩や、花粉の量、樹姿などに違いがあります。
梅の分類
分類として、花の観賞を楽しむための「花梅(はなうめ)」と実の収穫を目的とする「実梅(みうめ)」があります。花梅にはさらに細かい系統分けがされており、「野梅系(やばいけい)」「紅梅系(こうばいけい)」「豊後系(ぶんごけい)」の3系からさらに9性まで分類されます。違いを知っていると、観梅もより充実したものになりそうです。
梅の開花時期
梅の花、見頃の時期
梅の花の見頃が何月か、大体予測がつくでしょうか。一般的には、1月下旬~5月下旬と言われています。開花期は品種やその年の気候によって多少の変動があります。例えば、同じ関東地方のなかであっても地域によって開花のシーズンは1月下旬~3月下旬まで開きがあります。遠方の梅の花を見に行く際は、訪れる地域の開花の季節が何月頃なのかあらかじめ調べておくことを特におすすめします。また複数の品種が植樹されているスポットでは、品種ごとの開花時期のずれも生じるため、より長く可憐な花々を楽しめます。
桜のように、梅にも開花前線がある?
毎年桜の時期になると、ニュースなどでは開花予報が発表されますよね。同じように、梅にも「梅前線」があることをご存知ですか?寒い中で春の訪れを知らせる梅の花は、1月下旬~5月上旬まで約3ヶ月間かけて徐々に日本列島を北上します。なので何月のいつ頃咲くのか、年によってばらつきがありますが、傾向としては高温の年、多照の年には開花時期が早まり、激しく乾燥した年、気温の低下が著しい年は遅くなります。その年の気象状況から割り出された梅前線を確認して、ぜひ満開の梅の花を楽しんでください。
北海道での梅開花は5月、関東では初夏の陽気
5月といえば関東地方をはじめ暖かい地域では季節が春から夏へ切り替わる頃。ところが日本で最も北に位置する北海道では、梅の開花が5月以降になります。さらに北海道では梅の栽培に不適合な気象条件の地域もあるため、梅の花をみたことがないという方も多いそうです。そして、驚くことに桜の開花前線では、シーズンが4月下旬~5月中旬になります。地域によっては梅と桜が同時に開花し、豪華な共演が楽しむことができるのです。
梅の花が美しいおすすめスポット!
茨城県偕楽園
梅の名所として知られている偕楽園。関東地方、茨城県水戸市にあり、金沢の兼六園、岡山の後楽園とならぶ「日本三名園」のひとつでもあります。170年程前に水戸藩第九代藩主徳川斉昭によって造園されました。園内には約3,000本の梅が植えられています。品種は100種類以上が揃っており、これだけの品種が一度に見られる場所は全国的にも珍しいでしょう。時期になると梅祭りが開催され、梅にまつわる行事が目白押しです。
山梨県不老園
中部地方、山梨県甲府市にある不老園は、明治30年市内に住む呉服商が別荘として開園したものです。コレクションとして集められた紅梅や小梅など20種類以上の梅を主体に、時期によって様々な植物が楽しめる場所となっています。開花する時期の2月~3月には観光の人々でにぎわいます。天気が良ければ富士山も見ることができ、写真撮影と観梅どちらも存分に楽しめるスポットです。園内の売店では、おでんや甘酒などを販売しています。
静岡県豊岡梅園
中部地方、静岡県磐田市にある豊岡梅園は、梅酒や梅の実の収穫用に植樹された約3000本もの梅が咲き薫る場所です。品種は梅干し用の南高や梅酒用の古城、改良内田などで、白梅が中心となっています。その花の美しさや雄大さから訪れる人が増え、時期を限って一般に公開しています。観光客向けに小道が整備されており、散策しながら梅を満喫できるスポットになっています。売店では梅干しをはじめ、梅ジャム、梅肉エキスなどの販売もされています。
神奈川県小田原梅林
関東地方、神奈川県小田原市の梅林は富士山の景色と35,000本の白梅が楽しめる観梅スポットです。小田原市と言えば小田原城、北条氏の城として知られています。約600年以上も昔、城下で兵糧用として栽培が始まり、現在も食用の梅が生産されています。シーズンには毎年地元農家の方々による梅祭りが開催され、会場は小田原城址公園と曽我梅林があり、食堂で名物うどんなどが提供されています。
最後に
梅の開花時期や観梅にぴったりのスポットをご紹介しました。名所と呼ばれる場所はどこも梅が林立し、写真をみているだけでも甘い芳香が漂ってくるようです。今回紹介した場所に限らず、梅の花を楽しめるスポットは全国各地に沢山あります。また一本の梅をじっくり観梅するのも、ひとつの楽しみ方といえるでしょう。私たちの暮らしに根付いているからこそ、目にする機会の多い梅。季節の移ろいを梅の花で感じてみてはいかがでしょうか。
*写真:太宰府天満宮