てんぐ巣病は樹木、野菜、草花などに発生するかびの一種、タフリナ菌が原因の伝染病です。サクラの木に多い病気ですが、その中でも特にソメイヨシノがかかりやすく重症化しやすいため、近年問題視されています。樹木に発症した場合、高い木の上に小さな枝が密生する奇形症状が出て、それが巣のように見えるのがてんぐ巣病と呼ばれる理由です。
てんぐ巣病の症状は樹木の場合、枝の一部にこぶのようなものができ、そこから小さい枝が多数出ます。ここから発生した枝には花がつきません。特にサクラにおいてはほかの枝に花がついている中で緑の葉をつけているので外観が損なわれます。野菜では葉が黄色くなり、葉がらの短い小さな葉が株元から無数に生えるのが特徴です。発症した葉には白い粉のような胞子がつき、中には腐っているものもあります。
てんぐ巣病を起こす原因になるものは大きく2つあり、それぞれで初期症状も違います。1つはタフリナ菌という糸状菌です。感染すると枝の一部から小枝が出始めます。もう1つはファイトプラズマです。これを原因とする場合は葉が淡い黄色になります。感染しても症状が確認できるまで時間がかかることもあります。
ファイトプラズマとは、細菌とウィルスの中間に位置する大きさの微生物で、自己増殖をすることや、細胞壁をもたないことから、細菌・ウィルスとは区別されます。マイコプラズマ類に分類されたこともありますが、近年の研究によって違うものと判明し、区別されるようになりました。
てんぐ巣病のうち、タフリナ菌などの糸状菌で発症するものの原因は、風に乗って飛んできた病原菌の胞子が付着することです。もう1つの原因であるファイトプラズマによる発症はヨコバイ類の昆虫が媒介することによって感染します。春~秋にかけて、昆虫が病気を持った植物の汁を吸い、健康な植物の汁を吸うことで病原菌に感染するといわれ、植物にホルモン異常が起き、奇形症状が出ます。
てんぐ巣病は冬の厳寒期を除くほとんどの季節で発生し、感染も起こります。発生する植物も幅広く、庭木・花木・果樹・草花・野菜類でも見られます。てんぐ巣病が発生する時期や、その中でも特に発生しやすい時期、6種類の植物での発症例を詳しく見てみましょう。
てんぐ巣病が発生しやすい時期は4月~12月です。その中でも特に発生しやすいのは4月~8月です。
庭木 | アオギリ、サクラ、ダケカンバ、ヒノキ |
花木 | ツツジ、サツキ |
果樹 | クリ、サクランボ |
野菜 | ミツバ、セルリー |
そのほか | タケ |
サクラ類のてんぐ巣病は、発症した枝に花が咲かなくなるのが特徴です。特にソメイヨシノは開花時期に花がつかず、葉がつくため明らかな差が出ます。病気の枝は年々数を増してやがて大きな塊になり、病気が木全体に広がると衰弱して枯死します。
サクラの種類の中でも特にソメイヨシノがてんぐ巣病に弱く、罹患すると重症化しやすいといわれています。そのため、近年ソメイヨシノの苗木の栽培や販売を停止する流れもあります。ソメイヨシノに代わる品種として注目されているサクラもいくつかあり、その1つがジンダイアケボノと呼ばれる新しいサクラです。
アネモネはファイトプラズマが原因でてんぐ巣病を発症します。葉は委縮したり、黄色く変化したりします。また、株は叢生(そうせい)や萎縮をし、花弁が緑色になるといった症状です。
バラがてんぐ巣病にかかると葉が針金のように委縮したり、花の形が変形したりするといった症状が出ます。
神代植物公園にて。
— 役に立たないきのこ: MIHASHI Noriyuki&(妻) (@at384) October 4, 2017
妙な葉の付きかたをして枯れている竹を発見。
すわこれが噂の竹の花かと思いましたが、てんぐ巣病のようでした。 pic.twitter.com/2AdSFEYh1d
タケにてんぐ巣病が発症すると、枝がつる状になって伸びます。また、小枝が密集したり、節に小さな葉が出たりします。棹(さお)も弱りますが、タケは地下茎で繋がっているので、1本のタケだけでなく竹林全体が衰弱する原因に。発症したタケはもろくなっているため、雪などの重みに耐えられず簡単に折れるようになります。特に長雨や台風のあとで感染が拡大しやすいので注意が必要です。
ゼラニウムのてんぐ巣病の症状は、株の萎縮と小さな葉が出ることです。葉や枝は色が薄くなる場合もあります。ヨコバイ類の昆虫が媒介するファイトプラズマによって感染します。
2週間以上ぶりの森はだいぶ落葉が進み、林内はかなり明るくなっていました。写真は、ヒバ・アスナロてんぐ巣病の罹患部(バックはブナの黄葉)。来春、胞子を飛散させる準備もバッチリ整っているようでした。 pic.twitter.com/ZV92ylaiu1
— yuccuri (@slowlyslowly_6) November 2, 2019
アスナロのてんぐ巣病は、枝先から不定形の芽が多数発生します。そこに胞子が出てきて感染を広げます。芽が出た部分は小枝が密集し、ほうきのような状態になります。ネズコやヒバにも感染する、日本特有の菌類が原因です。
現時点ではまだてんぐ巣病に対して、農薬など薬剤での防除方法は発見されていません。健全な木が罹患しないようにするには、発症した木、感染した部位を早い段階で発見し病巣部を切除する対策が一般的です。また、虫による感染経路もあるのため、虫を防ぐことも予防になります。特にソメイヨシノは罹患率が高く、近くに発症した木がないか、万一発症した場合に病巣部を切除できる環境であるかを確認してから植栽する必要があります。
予防と同様に、てんぐ巣病は有効な農薬などはありません。治療の対策としても、患部の切除が一般的な方法です。切除は病気の枝が見つけやすい、胞子が飛散しない、剪定の適期でもあるという理由から落葉期がおすすめです。切除した切り口には保護剤、あるいは殺菌剤を塗布し再感染を防ぎます。枝の基部にこぶがある場合はこぶも切り落としましょう。野菜や草花の場合は株ごと抜き取って処分します。
患部を除去したあとは、回復を助けるために肥料を与えるとよいでしょう。また、切った枝は放置せずに焼却処分するか、可燃ごみとして処分してください。放置しておくと新たな感染に繋がります。また、一度発症が見られたら見落としや再発の可能性を低くするために、2年~3年は治療を続けましょう。
去年見つけたトドマツ・モミ類てんぐ巣病に罹患したトドマツ、そろそろ良い頃なのかなと思い見に行ったのですが、後ろのスギもろとも伐採されていました…。一応、近くのトドマツで小さな罹患部を発見しましたが、寄れない場所だったので詳しくは観察出来ませんでした…。https://t.co/PSvVDtJm6I pic.twitter.com/hbu8u4HPjQ
— yuccuri (@slowlyslowly_6) May 14, 2020
発生しやすい場所はあるの?
サクラ類のてんぐ巣病は伝染源の菌の胞子が雨や霧に混ざって広がります。そのため、川沿いや湖の周辺、霧のかかりやすい場所などで拡大しやすいです。サクラの木は堤防沿いや湖の周辺に植えられていることが多く、植栽されたままになっていることもままあるため、拡大しやすいと考えられます。
ヤドリギとは違うの?
ヤドリギは病気ではなく、半寄生植物です。ヤドリギは地上には根を張らず、ほかの樹木に根を張りますが、自ら光合成もします。遠目にはてんぐ巣病によく似ていますが、近くで見ると寄生した樹木とは違う、ヤドリギ特有の葉や枝の形をしているので判別できます。
てんぐ巣病の名前の由来は?
てんぐ巣病の症状の多くは木の高い所に小枝が巣のような形を作るため、伝承にある天狗(てんぐ)の巣に似ている、ということから「てんぐ巣病」と呼ばれます。西洋でも形が似ているという理由から「魔女の箒(ほうき)」と呼ばれます。