ソメイヨシノからジンダイアケボノへ
日本の春を代表する花というと、必ず名前があげられるのが桜です。その中でも有名なのがソメイヨシノで、日本国内にある桜のおよそ8割がこの品種だと言われています。ところが近年、ソメイヨシノが存続の危機に瀕しているという話が、ニュースなどでよく聞かれるようになりました。既にソメイヨシノの代替種として「ジンダイアケボノ」という品種の苗木が用意され、植え替えが進んでいます。
各地でソメイヨシノからジンダイアケボノへの植え替えが進んでいる
ソメイヨシノの苗木が販売・配布停止?
桜の名所作りを手がける公益財団法人・日本花の会は、今までにおよそ200万本以上のソメイヨシノの苗木を配布していました。しかしソメイヨシノが病気に弱く、特にてんぐ巣病という伝染病が蔓延する原因になりやすいことや、ソメイヨシノの寿命の問題などといった事情から、代替種のジンダイアケボノへ植え替える作業を進めるようになりました。2009年にはソメイヨシノの苗木の販売と配布も停止しています。
ソメイヨシノの代替種・ジンダイアケボノとは
ソメイヨシノの代替種に選ばれ、各地で植え替えが進んでいるジンダイアケボノとは、一体どのような桜なのでしょうか。ここではジンダイアケボノの誕生話や外見の特徴や性質などについて紹介します。
ジンダイアケボノの誕生
1912年、日本からアメリカへソメイヨシノが贈られます。そのソメイヨシノと別品種の桜が交雑した結果、Akebono(アケボノ)という品種が誕生しました。そして1965年、今度はアメリカから日本へ、このAkebonoが逆輸入されます。この桜を神代植物公園で接ぎ木して育てていましたが、ある日そのうちの1本が、Akebonoとは異なる特徴を持つ花をつけました。この桜こそがジンダイアケボノです。
ジンダイアケボノの名前の由来
ジンダイアケボノは、1991年に新品種として登録されています。この時にジンダイアケボノ(神代曙)と命名されました。神代植物公園で発見されたことと、元の品種名がAkebono(アケボノ)であることが名前の由来です。
Akebonoの日本名はアメリカ
ちなみにAkebonoが日本に来た時、日本には既にアケボノという名の桜が存在していました。そのためAkebonoは、日本では「アメリカ」と呼ばれていたという経緯があります。
父親は不明
ジンダイアケボノの母親はソメイヨシノですが、父親となった桜の品種は不明です。形態学上の観点からジンダイアケボノの父親は、日本からアメリカに渡ったソメイヨシノとは別の日本の桜であるという説が有力視されています。
ジンダイアケボノの特徴
ジンダイアケボノがソメイヨシノの代替種に選ばれた大きな理由は、ジンダイアケボノとソメイヨシノ、それぞれの特徴に共通点が多いことです。また、ジンダイアケボノにはソメイヨシノよりも優れた特徴もあります。ここではジンダイアケボノの特徴を紹介しましょう。
花や樹形が似ている
ソメイヨシノとジンダイアケボノの花や樹形は、よく似ています。傘のように広がる樹形、花の形状は一重咲きの中輪、そして花が咲いた後に葉が出るところが共通点です。ただし、よく見ると違う点もあります。ジンダイアケボノのほうがやや濃いめの花色で、樹形も少し小さいです。
小ぶりで華やかな代替種
ジンダイアケボノの花色は、ソメイヨシノよりも濃いめのピンク色で、グラデーションがかかっているのが大きな特徴です。このためとても華やかに見えます。樹形も似ていますが、ジンダイアケボノのほうが小ぶりです。ですが、小ぶりな樹形には狭い場所に植えても邪魔にならないという利点があります。また、華やかな花色のおかげで、木が小さくても豪華な雰囲気を出すことが可能です。この点も代替種となった理由でしょう。
開花時期が似ている
ジンダイアケボノとソメイヨシノは、どちらも3月下旬から4月上旬にかけて開花します。正確にいうと、ジンダイアケボノのほうが少し早く開花しますが、数日早い程度なので、差があるというほどのものではありません。
ソメイヨシノよりも丈夫で病気にも強い
ジンダイアケボノは、ソメイヨシノに比べて丈夫で病気に強く、ソメイヨシノがかかりやすい「てんぐ巣病」にも強いとされています。この特徴が、ソメイヨシノの代替種に選ばれた最も大きな理由でしょう。
てんぐ巣病とは?
てんぐ巣病とは、樹木がかかる病気の一種です。この病気にかかると枝が異常に密生して、巣のような形状を作ります。その見た目が天狗の巣を連想させることから、この名前がつけられました。放っておくと枯れてしまう恐ろしい病気です。ソメイヨシノはてんぐ巣病にかかりやすい上に、てんぐ巣病を蔓延させやすい性質を持っています。このことも、ジンダイアケボノへの植え替えが推奨されている理由です。
出典:BOTANICA