麦角菌とは
麦角菌とは、穀類を中心に感染する糸状菌(しじょうきん)、いわゆるカビ菌の一種です。ライ麦などに感染し、摂取した人に深刻な影響をもたらします。まずは麦角菌の概要についてご紹介します。
麦角菌の基本情報
界 | 菌界 |
門 | 子嚢菌(しのうきん)門 |
網 | フンタマカビ網 |
目 | ボタンタケ目 |
科 | バッカクキン科 |
属 | バッカクキン属 |
学名 | Claviceps |
麦角菌が寄生する植物
麦角菌にはさまざまな種類があり、主にイネ科の植物やカヤツリグサ科の植物に寄生します。中でもC.purpureaと呼ばれる種の麦角菌は、小麦や大麦、ライ麦といった穀類に寄生することで有名です。またC.sorghicolaという種の麦角菌は日本で発生したもので、飼料用のソルガムに寄生します。
麦角菌感染の流れ
麦核菌が麦などの穂に寄生すると、穂の一部が黒くなります。これが”麦角”と呼ばれる麦角菌の菌核です。菌核は成熟すると地上に落ちます。菌は冬の間休眠しており、春になると芽を出してキノコになります。このキノコから放出されるカビ胞子が風や虫などによって運ばれ、感染が広がるという流れです。
麦角菌の見分け方
植物が麦角病になると、子実の一部が黒い塊になります。しかし一般的に麦はかなり広大な面積で栽培されているうえ、品種によってはもともと灰色に近いものなどもあり、麦角病になってから判別、除去することは難しいでしょう。
生物への影響と対策
麦角病になった穀類を摂取すると、麦角中毒になる恐れがあります。麦角中毒は日本ではあまり知られていませんが、重篤化すると命の危険もあるほど大変な病気です。麦角の毒性や麦角中毒の症状についてご紹介します。
麦角中毒を引き起こす成分
麦角菌は、麦角アルカロイドと呼ばれる物質をつくりだし、これが麦角中毒を引き起こします。なお、アルカロイドと呼ばれるものは数千種存在するといわれ、代表的なものはモルヒネやニコチンなどです。多くのアルカロイドが人間や動物にとって有害であるといわれています。
麦角中毒の症状
麦角の毒性は強く、中毒になると手足の壊死やけいれん、意識障害、流産といった症状が現れ、場合によっては死亡するケースもあります。これは麦角アルカロイドによって血管収縮が引き起こされるためと考えられており、人間だけでなく家畜が摂取した場合も同様の症状が現れます。
麦角中毒に関する歴史的なできごと
麦角は実は古くからその存在が知られており、なんと紀元前に書かれた古文書にも麦角と思われるものの記述があるといわれています。さらにヨーロッパでライ麦栽培がはじまりライ麦パンを食するようになると、麦角中毒になる人が続出しました。現代のように研究も進んでいなかったため、人々は麦角中毒を呪いのように捉えていたとされています。ここでは麦角中毒に関する歴史的なできごとについてご紹介します。
聖アントニウスの火
麦角中毒が知られていなかったその昔、この病気は「聖アントニウスの火」とも呼ばれていました。聖アントニウスはキリスト教の聖職者であり、麦角中毒と思われる病気で足を失いましたが見事に病気を治癒し、114歳まで生きたと伝えられています。聖アントニウスの死後、西暦994年頃に麦角中毒が大流行した際には、「聖アントニウスの聖地・リヨンまで巡礼すれば治る」とされ、多くの人が巡礼を行ったとされています。
セイラム魔女裁判
アメリカ合衆国にあるセイラム村では、麦角中毒が原因と思われる女性の異常行動を妖術によるものと考え、多くの村人を告発し処刑しました。当時セイラム村ではライ麦パンが食されていて、それが原因ではないかと推測されています。
次のページでは、麦角病の対策や麦角菌の薬理作用についてご紹介します。