ピータンとは
ピータンはアヒルの卵を強いアルカリ性の状態で貯蔵した、加工食品です。濃いお茶に塩を入れ、さらに木灰・柏の灰・ソバなどを混ぜた泥を卵に塗り付けます。そして、その泥の上からモミガラを付けて瓶に入れ、土に埋めたまま2ヶ月~3ヶ月熟成させて作られます。唐代(618年ごろ)にはすでにあったとされますが記録がなく、明代(1633年ごろ)にはじめて文字に残されました。
ピータンの特徴
ピータンの特徴は卵のカラをむいて現れる黒い物体と、その鼻を刺激する独特の匂いでしょう。ピータンの刺激臭の成分はアンモニアと硫化水素です。その匂いを例えて表現するならば尿素ですが、これでは食欲を削いでしまいます。ピータンの肩を持つならば、匂いの強い食材は「旨い」ものが多いものです。
ピータンとシェンタンの違い
ピータンは生食が可能ですが、塩づけのシェンタンは一度熱を通してから食べるという点に違いがあります。製造方法も、ピータンはアルカリ性の状態で熟成させるのと違い、シェンタンは塩と酒・ワラ灰を混ぜた液に1ヶ月漬け込むと完成です。身近な食品ではありませんが、中国では月餅に黄身が使われています。
ピータンの種類
ピータンには産地や製造方法によって、「北京」「湖南」「山東」「五香(湖南ピータンをベースにウイキョウやチンピ・桂皮・丁香などを加えます)」などの種類があります。さらに黄身が半熟状の「溏心(とうしん)ピータン」と黄身が固まった「硬心(こうしん)ピータン」に分かれます。食べやすいのは溏心ですが、保存がきくのは硬心です。アヒルの卵以外にも、ニワトリやウズラの卵でも作られています。
高級といわれるピータン
ピータンのなかでも高級品とされるのが「松花蛋(しょうかたん)」です。この「花」は模様を意味し、卵のカラをむいた白身の部分にアミノ酸の結晶が現れ、これが松葉のように例えられたことで付いた呼び名です。ほかには菊花にも表現されるため「菊花蛋(きくかたん)」や、黄身の断面がバームクーヘンのように草緑・青緑・緑褐色と3層になっているため「彩蛋(さいたん)」とも呼ばれます。
ピータンの保存方法
ピータンは長期保存が可能な食品で、黄身が固まった硬心ピータンは製造から2年の保存ができます。ただし、夏(5月~10月)は10度くらいの低温で貯蔵しましょう。
次のページでは、ピータンの栄養価と効能、ピータンを味わう食べ方をご紹介します。
ピータンの栄養価と効能
完璧な栄養を持つとされる卵を加工したピータンは、食べることで食欲不振や消化不良、解熱・酔い覚まし・胸焼けの効果を得られる特効薬といわれています。それではピータンの栄養価と効能(1つ約55gとして表示)について解説します。
ピータンの栄養価と効能①ビタミンD
ピータンに含まれるビタミンDは、骨の代謝に欠かせない成分です。さらに免疫力を向上させ、花粉症などのアレルギー症状を改善するとされています。研究が進んだ近年ではビタミンDが心や神経のバランスを整える脳内物質であるセロトニンを調節し、うつなど精神的な症状に効能が期待できるということもわかりました。ピータンひとつには、一食で摂るべき目安である1.8μgの2倍近い、3.41μgが含まれています。
ビタミンDについて近年研究が進み、健康に関するさまざまな効用があることが明らかになっています。
ピータンの栄養価と効能②ビタミンA
ピータンに含まれるビタミンAは油に溶けやすい性質があり、目や皮膚の粘膜を保護する効能があります。ビタミンAの主成分であるレチノールは視細胞の光刺激反応に関わるロドプシン合成に必要な物質で、暗い場所での視力を保つ働きをします。また粘膜の保護によって、細菌などの感染症を予防する効能があります。ビタミンAは一食当たり221μgを目安としたい成分で、ピータンには121μgが含有され、半分の量を摂取可能です。
ピータンの栄養価と効能③セレン
ピータンに含まれる「セレン」は抗酸化酵素を構成する成分で、老化やガンの原因となる活性酸素を抑制し、免疫力を正常に保つ効能があります。ピータンには飛びぬけてセレンが豊富に含まれ、ひとつ食べるだけで15.95μg摂れるため、一食で摂るべき8.3μgをはるかに超えて摂取できます。
ピータンの栄養価と効能④ビタミンK
ピータンに含まれるビタミンKは骨のたんぱく質の働きを高め、カルシウムが骨に吸収されるのを助ける成分です。骨を丈夫に保つために必須であると同時に、ビタミンKは出血を止める効能があります。ピータンにはビタミンKが14.3μg含まれ、一食当たりの摂取量17μgを補えます。
ピータンの栄養価と効能⑤ビタミンB12
ピータンに含まれるビタミンB12は0.61μgです。一食の目安とする0.8μgの半分以上を補える量といえます。ビタミンB12の役割は、免疫力を正常に保つことや赤血球のヘモグロビン合成、神経伝達物質の合成など生理作用のほか、脂質の代謝にも深く関わっています。
ピータンの栄養価と効能⑥ビオチン
ピータンに含まれるビオチンは聞きなれない成分ですが、ビタミンB群のひとつです。体内に存在する4つの酵素を活性化させ、糖の合成やエネルギー産生を助ける役割を果たします。また皮膚や粘膜を保護し、爪や髪を健康に保ちます。ピータンにはビオチンが8.53μg含まれています。
ピータンを味わう食べ方
ピータンは英語で「Century egg(100年経った卵)」と表現されるほど、見た目はグロテスクです。とはいえ、勇気を出して食べれば、えもいわれぬ濃厚な旨みが広がる珍味でもあります。こちらではピータンの美味しい食べ方についてご紹介します。
ピータンを味わう食べ方①ピータン豆腐
- 豆腐 1丁
- ピータン 1つ
- ザーサイ 10g
- ねぎ・しょうが・みょうがなど季節の薬味
- しょうゆ(小さじ2)・ごま油・ラー油(少々)
- 豆腐は木綿・絹お好みで用意し、器に盛ります。
- ピータンとザーサイ・薬味はみじん切りにします。
- 刻んだピータンと調味料をあえて、皿に盛った豆腐とピータンにかけて完成です。
ピータンを味わう食べ方②ピータンかゆ
- ごはん 茶碗1杯
- ピータン 1つ
- 鶏の胸肉
- 中華スープの素
- しょうが・ねぎ
- ごま油
- ピータンはくし型の4つ切りにし、鶏の胸肉は薄切りにします。
- 沸騰したお湯に中華スープの素を入れて溶かし、ごはんを加えて焦げ付かないようかき混ぜます。
- 火にかけて5分~10分ほど煮てスープにとろみが出てきたら、ピータンと鶏肉・しょうがを入れて火を通しましょう。
- 食べる間際に小口切りにしたねぎとごま油を加えてお召し上がりください。
ピータンを味わう食べ方③シンプルに
ピータンを味わうとき匂いが気になる場合、カラをむいて30分から一晩置くか、または熱を加えると軽減できます。黄身が半熟のピータンであれば匂いも柔らかいので、みじん切りにしたしょうがとザーサイにしょうゆだけで美味しい酒の肴になります。台湾や香港ではしょうがの甘酢づけと一緒に販売されているので、この食べ方もぜひお試しください。
ピータンを味わう食べ方④ピータンパイ
ピータンの美味しい食べ方としてピータンパイというスイーツがあります。パイ生地でハスの実のあんこと、くし型に切ったピータンを包んで焼いた中華菓子です。甘いあんことピータンの塩みが、絶妙のバランスといえます。
ピータンを味わう食べ方⑤切り方のコツ
ピータンは柔らかい食材なので、切る場合には包丁よりも糸を使うと切り易くなります。糸の素材は綿でも化繊でも構いません。ただ太さはタコ糸のような太いものより、ぬい糸ていどの方がきれいに切れます。
まとめ
ピータンにはじめて出会った場合、とても食べるものとは思えないかもしれません。見た目も匂いも、例えるなら腐っているといえるかもしれません。ところがこの匂いさえ克服すれば、極上の味と出会えます。はじめてピータンに挑戦するならば、小さいウズラの卵はいかがでしょうか。
出典:写真AC