ヒカゲノカズラとは
ヒカゲノカズラはヒカゲノカズラ科ヒカゲノカズラ属の常緑性の多年草です。常緑性なので、年中緑の葉がみられます。山の地面に、モサモサとした葉を茎に密生させて這うように生えている植物があれば、それはヒカゲノカズラかもしれません。
学名 | Lycopodium clavatum |
和名 | 日陰の鬘(日陰の蔓) |
科 | ヒカゲノカズラ科 |
属 | ヒカゲノカズラ属 |
名前の由来
ヒカゲノカズラの学名のLycopodium は、ギリシャ語でオオカミ(Lycos)の足(podion)という意味があります。トゲトゲの小葉が密集した様子がオオカミの足に見えたのでしょうか。また、ヒカゲノカズラの和名(日陰の鬘もしくは日陰の蔓)の由来は諸説あり、古代にアタマの飾り、鬘(かずら)として使われていたという説と、日陰にある蔓(つる)という説があります。
なぜヒカゲノカズラなのに日向に生えるのか
- ヒカゲノカズラは『日陰』と漢字表記されることが多いですが、同じ読みの『日影』には日の光、日差しという意味があります。こちらが由来に関係しているのかもしれませんね。
別名
ヒカゲノカズラには多くの別名があります。例えばムカデノカズラ、キツネノクビマキ、ウサギノネドコ、ヤマノカミサマノフンドシ、カミダスキなど様々です。ヒカゲノカズラの特徴的な姿から連想されているのでしょうね。トゲトゲの葉が地を這ってる姿は、まさにムカデやキツネの毛を想像させます。
カミダスキと呼ばれるのには意味がある?
ヒカゲノカズラの別名のひとつ、カミダスキは古事記にある話が由来といわれています。天照大神(アマテラスオオミカミ)が天の岩戸に隠れてしまったとき、天照大神に出てきてもらうために天宇受売命(アメノウズメノミコト)が踊ります。その盛り上がった様子が気になり天照大神が出てくるのですが、このとき、天宇受売命がヒカゲノカズラをたすきのように身に付けていたといわれています。
ヒカゲノカズラの特徴
ヒカゲノカズラはその外見からコケ植物と勘違いされやすいのですが、シダ植物になります。維管束を持っており、種子を持たないかわりに胞子で増えていきます。
特徴①生息場所
ヒカゲノカズラの生息場所は北海道から九州まで、沖縄以外の全国各地になります。日陰の鬘(ヒカゲノカズラ)という漢字から、いっけん日が当たる場所が苦手そうに受け取れますよね。しかし、ヒカゲノカズラは日陰にはあまり生えておらず、林下や山林の傾斜部、湿った日向に生えていることが多いです。昔は道端に生えていることもあったようですが、近年ではみられません。
特徴②生え方
ヒカゲノカズラは、ヒモのような蔓(ツル)状の茎が地面を這うように伸びて生えています。蔓状ですが、他のものに巻きついて育つわけではありません。この茎は主茎と側枝に分かれ、主茎は、ところどころに白色の根を出して地面に張りついて固定します。側枝は主茎から分枝し、さらに数回枝分かれしていきます。葉は細い針状で硬く、側枝に密生するようにつきます。
特徴③胞子
ヒカゲノカズラは初夏のころ、側枝からさらに直立したように枝分かれしていき、その頂点に胞子嚢穂(ほうしのうすい)をつけます。また、ヒカゲノカズラの胞子は石松子(せきしょうし)といい、漢方、生薬としてもこちらの名前で呼ばれています。脂肪油が多く、防湿性、流動性があるため、その特性を活かして様々なものに利用されています。
ボタニ子
胞子嚢穂(ほうしのうすい)!ツクシみたいだね
ヒカゲノカズラに似たシダ植物
ミズスギ
ミズスギはヒカゲノカズラと同じくヒカゲノカズラ属です。茎や葉のつくりはヒカゲノカズラと似ていますが、胞子嚢穂(ほうしのうすい)のつき方が違います。ミズスギには柄が無く、胞子嚢穂も垂れ下がったようにつきます。その姿から、クリスマスツリーに例えられることもあるようです。
ボタニ子
たしかにクリスマスツリーのよう!垂れ下がった胞子嚢穂がかわいい!
マンネンスギ
マンネンスギも同じくヒカゲノカズラ属です。ただし、こちらは地下に茎が埋まっているので、ヒカゲノカズラやミズスギと違い、地面を這っていません。地面から生えて、枝葉がスギの樹に似ている姿はまるで小さなスギの樹木のようですね。マンネンスギの胞子嚢穂はミズスギと同じく、柄がありません。
ヒカゲノカズラの利用法
胞子
前述したように、石松子(せきしょうし)といわれる胞子は、脂肪油が多く、防湿性があるため、その特性を活かして利用されます。例えば丸薬の衣や、ベビーパウダーに含まれていたこともあります。近年ではナシやリンゴの受粉の際の花粉増量材として利用されることが多く、販売もされています。
茎や葉
ヒカゲノカズラは水の中でもなかなか腐らないので、金魚などの養殖の際、産卵場所としても利用されています。また、採取後もすぐには枯れず、乾燥してもしばらく緑を保てるのでドライフラワーや正月飾りとしても使われているようです。
- ドライフラワーの材料としては、ヒカゲノカズラという名のほか、リコポディウムという呼び名でも親しまれています。
中国では伸筋草と呼ばれている?
中国ではヒカゲノカズラの全草を伸筋草(しんきんそう)と呼び、漢方として利用されています。漢字の意味から連想されるように、筋肉をやわらかくする効果が期待され、リウマチなどの関節痛や皮膚のしびれ、麻痺などに利用されているようです。
ヒカゲノカズラで正月飾り
ヒカゲノカズラは採取後もしばらく鮮やかな緑色を保ち、また一年中生気あふれる緑色をしているため、若さの象徴や長寿祈願として正月飾りとしても奉られています。
掛蓬莱(かけほうらい)
ヒカゲノカズラの正月飾りとして、まず掛蓬莱(かけほうらい)と呼ばれるものがあります。平安時代から伝わる長寿祈願の縁起物です。ヒカゲノカズラで蓬莱山に登る龍を表したもので、その長さは長ければ長いほどよいとされています。
卯杖(うづえ)
また、掛蓬莱の他に卯杖(うづえ)という正月飾りもあります。こちらも平安時代から伝わるもので、邪気を祓う魔除けとして飾られています。梅、桃、柳、つばきなどの木で作った杖に、ヒカゲノカズラを装飾します。
ボタニ子
どちらの正月飾りも、現在でも手作りしてる人や販売してる人もいるよ!
ヒカゲノカズラと祭事
伏見稲荷大社
京都伏見稲荷大社の大山祭は毎年1月5日に行われます。こちらでは斎土器(いみどき)に中汲(なかぐみ)酒を御饌石(みけいし)に供えて、五穀豊穣と家業繁栄を祈願します。その後、宮司や参列者一同でヒカゲノカズラを首からかけて巡拝します。
上賀茂神社
京都の上賀茂神社では、先述した卯杖が奉られています。新年に、小さなものは厄除けのお守りとして販売もされているので、気になる方はぜひ参拝してみてはいかがでしょうか。
率川(いさがわ)神社
奈良の率川(いさがわ)神社では、毎年6月17日に三枝祭(さいくさのまつり)が行われます。疫病を鎮めることを祈るお祭りで、黒酒、白酒の神酒を百合の花で飾った酒樽に盛り、お供えします。このとき、4人の巫女が三枝の百合を持って『うま酒みわの舞』を舞うのですが、このとき巫女の頭に飾られているのがヒカゲノカズラです。
まとめ
ヒカゲノカズラはモサモサとした見た目をしてますが、採取後や乾燥しても緑色を保てたり、水の中でも腐らなかったりと装飾として優秀な特徴をもっていますね。これほど生気に溢れていれば、古くから祭事に用いられているというのも納得です。神聖で縁起がよく、扱いやすいヒカゲノカズラ、ぜひドライフラワーや正月飾りで触れてみてはいかがでしょうか。
出典:写真AC