イヌワラビ(犬蕨)とは?
イヌワラビ(犬蕨)はイワデンダ科メシダ属のシダ植物で、日本では林のほとりや道端、土手などで見ることができます。ワラビには食べられるものもありますが、イヌワラビは食べられない品種です。
基本情報
イヌワラビの基本情報
名称 | イヌワラビ(犬蕨) |
学名 | Athyrium niponicum |
分類 | イワデンダ科メシダ属 多年草 |
原産地 | 日本・中国・朝鮮半島・台湾 |
生息地 | 林下・道端・土手など |
生活型 | 夏緑性 |
休眠期 | 冬季休眠 |
高さ | 30cm~80cm |
葉の大きさ | 30cm~50cm |
名前の意味 | 食べられないことから |
生活様式は夏緑性
イヌワラビの生活様式は夏緑性といわれ、地下茎を残して2年以上生存し、夏季に繁茂して育ちます。多年草ですが地下茎が枯れてしまうと枯死し、地下部が冬越しできれば翌年も芽をだします。
イワデンダ科の品種
3つの品種
イワデンダ科のシダ品種にはイヌワラビのほかに、以下の3つの品種があります。
- ニシキシダ(錦羊歯)
- シケシダ(湿気羊歯)
- クサソテツ(草蘇鉄)
イヌワラビの特徴
湿った場所に自生するイヌワラビですが、葉の形や大きさ、地下茎のようすや胚珠にはどのような特徴があるのか、イヌワラビの増え方といっしょに解説していきます。
イヌワラビの特徴①葉
葉の特徴1.形
茎と葉の区別がない葉状体の葉は小羽片の形が卵形の長楕円で、葉の縁にはたくさんの鋸歯(デコボコ)があり葉柄からまばらにはえます。
葉の特徴2.裏側
葉の裏側には三日月形や馬蹄形をした胞子嚢があり、葉の中間~中助(葉柄に添う形)寄りに群をなして発生。群は「胞子嚢群」または「ソーラス」と言って、中には胞子が入っています。
葉の特徴3.色
葉柄近くのつけ根部分は紅紫色で、葉色は通常濃い緑色をしていますが、乾燥し株全体が乾くと淡い緑色や黄緑色に変色します。
イヌワラビの特徴②葉柄
葉柄の特徴.高さと長さ
葉柄の高さは30cm~80センチ、葉の長さは10cm~50cmほどになります。葉柄は水分や養分が通る繊維が束になってできた維管束(イカンソク)で、維管束が枝分かれして小羽片ができます。
イヌワラビの特徴③地下茎
地下茎の特徴1.茎と根
イヌワラビの茎は地中にできる地下茎で、這うようにして横に長く成長し、地下茎からは無数の根が伸びていきます。
地下茎の特徴2.鱗片(リンペン)
地下茎近くの葉柄には、縫い針のように先の尖った披針形の鱗片(表皮が変化したもの)がつき、鱗片の色は褐色や茶色です。
イヌワラビの特徴④胚珠
胚珠の特徴1.胞子と胞子嚢
シダの胚珠は胞子(種のような役割をはたすもの)と呼ばれ、胞子をたくさん含んだ胞子嚢には、中に入っている胞子や胞子嚢を守る膜(胞膜)が張っています。
胚珠の特徴2.前葉体
胞子嚢の中で作られた胞子は、時期がくると胞子嚢が破れ外に飛び出し、地面に落ちて発芽。芽が育つと1cmほどのハート型をした前葉体に変化し、前葉体の裏側の根元から伸びた仮根で養分と水分を取り込みます。
イヌワラビの特徴⑤増え方
増え方の特徴.サイクル
前葉体の中には卵子を作りだす造卵器と、精子を作る造精器があり、作られた卵子と精子が受精して新しい葉柄や葉ができます。葉柄や葉が大きく成長するとシダの姿になり、このサイクルを繰り返してイヌワラビは増えていきます。
ボタニ子
イヌワラビの名前に込められた意味とは?つぎのページで紹介します!
イヌワラビの名前の意味
犬(イヌ)の意味は?
犬蕨の名前には「犬」の漢字が使われていますが動物の犬は関係なく、犬(イヌ)には「食べられない」や「小さい」などの意味があります。
「食べられない」ことからつけられた名前
イヌワラビは食べることができないため価値がないとされ、犬(イヌ)の文字が名前に使われました。春に芽吹いた姿はワラビそっくりですが食用にできないので、まちがって食べないよう注意してください。
イヌワラビの生息地
生息地①日本
日本全土に生息している
イヌワラビは日本全土に生息し、日陰や湿った場所を好む傾向にありますが、日当たりのよい土手などの斜面にも自生しています。成長に水分をたくさん必要とするシダ系の植物にとって、湿度が高い日本は成長に適した環境です。
生息地②海外
海外の生息地とイヌワラビの原産地
海外の生息地は、中国(北部)・朝鮮半島・台湾・ベトナム・ミャンマー・ネパール・インドなど、広い範囲で見られます。日本のほか中国や朝鮮半島がイヌワラビの原産地です。
イヌワラビの仲間
イヌワラビと同じイワデンダ科の仲間には、「ヤマイヌワラビ」と「ホソバイヌワラビ」があります。それぞれの基本情報は以下の通りです。
仲間①ヤマイヌワラビ
ヤマイヌワラビの基本情報
名称 | ヤマイヌワラビ(山犬蕨) |
学名 | Athyrium vidalii |
分類 | イワデンダ科メシダ属 |
生息地 | 日本全土・朝鮮・中国・台湾 山地などの林下 |
生活型 | 夏緑性 |
高さ | 40cm~80cm |
葉の大きさ | 20cm~50cm |
そのほかの特徴 |
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仲間②ホソバイヌワラビ
ホソバイヌワラビの基本情報
名称 | ホソバイヌワラビ(細葉犬蕨) |
学名 | Athyrium iseanum Rosenst |
分類 | イワデンダ科メシダ属 |
生息地 | 本州(東北地方以南)・四国・九州・朝鮮・中国・台湾 林下の湿った場所 |
生活型 | 夏緑性 |
高さ | 25cm~70cm |
大きさ | 10cm~25cm |
そのほかの特徴 |
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イヌワラビとニシキシダ(錦羊歯)
ニシキシダ(錦羊歯)はイヌワラビの変異体で、科や属名、基本的な特徴は同じですが、葉の白色や模様入りという性質を持ちます。ここではシェードガーデンとして人気のある、代表的なニシキシダを3つ紹介します。
ニシキシダの種類①シルバーフォール
株が幼いうちは葉柄も葉も緑色ですが、成長すると葉が白みを帯びたシルバーにかわります。ニシキシダのなかでもシルバーの発色がよく、春や夏の気温が涼しいほど鮮やかさを増すため、鉢植えで育てる場合は日陰の涼しい場所で管理します。
ニシキシダの種類②ゴースト
大きな特徴は葉のグラデーションにあり、葉柄は黒く葉の外側へいくにつれ赤黒→白に変わります。株は小型のため鉢植えや寄せ植え、害虫も少ないので地植えにも適していますが、乾燥には弱く葉色も悪くなるため水切れをおこさないようにします。
ニシキシダの種類③バーガンディレース
葉の赤みが強いタイプのシダで、葉が若いうちは中央部分が赤紫、外側がシルバーという色合いの対比が楽しめ、株が成熟するにつれ全体的にシルバー色が強くなっていきます。成長後の高さは30cmほどで、寄せ植えにしてもほかの植物の邪魔にならず、シックでナチュラルな寄せ植えができます。
まとめ
イヌワラビはワラビと言っても食べられず、名前の「犬(イヌ)」も「食べられない」や「価値がない」などの意味がありますが、株全体の姿には爽やかさや清涼感があり、シェードガーデンとして人気のあるニシキシダなどの品種もあります。日陰のあるお庭で植える植物に困っているなら、冬越しができ毎年芽吹くイヌワラビがおすすめです!
出典:写真AC