ノキシノブとは
ノキシノブはシダの仲間で、古木や倒木、石垣や岩の割れ目などに生えています。土がない場所で、根を横に伸ばして貼りつくのが特徴です。ノキシノブはほかの植物に着生しますが、栄養や水分を吸い取っているわけではないため寄生植物ではありません。気をつけて見ると、屋根の軒先やブロック塀の穴などにも生えています。
ボタニ子
ボタ爺
ブロック塀の穴や軒下でも平気だが、古木が好きでの。古い神社やお寺に行くと、高い確率でであえるぞ。
基本情報
学名 | Lepisorus thunbergianus |
科属 | ウラボシ科ノキシノブ属 |
形態 | 常緑シダ多年草 |
原産国 | 日本、東アジア |
生育環境 | 半日陰、日向 |
利用方法 | 全草薬草 |
大きさ | 8cm~20cm |
和名 | 軒忍、子太草(しだくさ) |
英名 | weeping fern |
別名 | 八目蘭、七星草、金星草、骨牌草(こつはいそう)など |
着生植物とは?
着生植物とは、土に根を伸ばさず、樹木や岩に着いて成長する植物のことです。石垣やフェンス、かやぶき屋根に着生するもののほかに古木や倒木に着生するものもあります。着生植物はコケ類に多く、種子植物やシダは限られた科や属に集中します。
ノキシノブの特徴
ノキシノブは半日陰でも枯れずに、水がなければ葉を丸く閉じて雨が降るまで耐え忍ぶ植物です。シノブ科の「シノブ」が軒先で水や光を求めて耐えていることから、ノキシノブという名前になりました。ノキシノブの葉は8cm~20cmのササの葉状で、細かい葉脈はなく葉の中心の主脈のみです。中央の主脈の両脇の葉はふっくらとした濃い緑色で、裏は淡い緑色をしています。
特徴①生え方
ノキシノブの根は幅が0.5mm~1mmで、長さは2cm~4cmです。直径は1.5mm~2.5mmで古木や軒、倒木や石垣など土のない場所で横に伸びます。本来は日当たりのよい場所のほうがよく育ちますが、日陰でも枯れずに育つ強い植物です。ノキシノブは日照りが続くと葉の主脈を中心にストロー状に丸まって乾燥に耐え、雨が降ると水を吸収してまた元の形に復活します。
特徴②増え方
ノキシノブはシダ植物のため、自然界では胞子で増えます。ソーラスと呼ばれる胞子の入った袋が葉の裏で成長し、植物が成熟するまで保存されています。ノキシノブのソーラスは丸い暗黄褐色で、葉の主脈の両側にタコの吸盤のように並んでいるのが特徴です。栽培している場合は胞子からではなく、株分けで増やすのがよいでしょう。植え替えのときに株分けしてください。
株分け
ノキシノブは胞子でも増えますが時間がかかり、成功率も低いため株分けで増やすのがおすすめです。丈夫な植物で、初心者でも挑戦できます。株の下の脇から新しい株が出てきたら葉を数枚残して水苔や植木鉢、流木や寄せ植えなどノキシノブを育てたい場所に植え付けましょう。植え付けは成長期の春~夏がおすすめです。
特徴③利用方法
ノキシノブのソーラスは野鳥のヒヨドリが好んで食べますが、積極的に食用として利用できる植物ではありません。ノキシノブは全草が薬草のため、その成分を抽出して利用します。内服する方法と塗る方法を見てみましょう。
内服
ノキシノブは生薬としても扱われる植物です。ノキシノブをきれいに水洗いし、陰干しします。乾燥したら適当な大きさにきざみ、10g~15gを500ccの水で半分の量になるまで煎じましょう。これを1日3回空腹時に飲むと、利尿作用で腎臓や膀胱の症状に効くといわれています。そのほかにも浮腫(むくみ)、消炎、解熱、止血によいそうです。
ボタニ子
リウマチや婦人病、神経痛に効くともいわれているわ。でも、自分の判断だけで飲まないほうがよいわ。
外用
ノキシノブには消炎作用があるといわれています。諸説ありますが、にきびの治療にも役立つそうです。作り方は簡単で、ノキシノブを細かく刻み同じ量のごま油に1カ月~2カ月漬け込みます。それをにきびに塗る治療法で、切り傷の治療にも使われていました。生薬名は「瓦葦(がい)」といいます。
ボタ爺
ノキシノブは全草が薬草だそうな。ノキシノブを薬として使いたい場合は、漢方薬局に行くとよいかもしれんぞ。
ボタニ子
自己判断で作って雑菌が入ると、かえって症状が悪くなるわ。薬草ではあるけれど、医療関係の人に相談してみてね。
特徴④変異種がある
ノキシノブの葉は基本的に細い楕円形で先がまっすぐですが、まれに手の指のように葉の先がわかれる種類があります。これは「獅子葉(ししば)」という変異種で普通のノキシノブよりも重宝がられ、昔から盆栽や鉢植、へご板などで栽培されてきました。苔玉にして風鈴をさげ、日本の夏の風物詩に使われることもあるようです。
ボタニ子
ノキシノブの獅子葉にはいろいろ種類があって、さらに葉先が細かく分かれてる種類もあるわ。「孔雀獅子」っていうの。
ボタ爺
孔雀(くじゃく)のオスが羽を開いたところを連想させるくらい、細かく葉がわかれているんだの。
ボタニ子
ノキシノブには、羽衣(はごろも)っていう種類もあるわ。葉が櫛(くし)のような形なのよ。
ヒメノキシノブとの違い
ノキシノブと似た種類に、ヒメノキシノブというシダがあります。学名は「Lepisorus onoei」です。ノキシノブよりも小さく、葉の形も異なります。ノキシノブは極端にいえば、放置していてもたくましく育つシダです。それに対してヒメノキシノブを、絶滅危惧種1類、2類、準絶滅危惧種に指定している県もあります。
違い①生息地
ノキシノブとヒメノキシノブは生息地が似ていて、同じ古木に両方が生息している場合もあります。しかし、ヒメノキシノブのほうがより山林の奥に生える傾向があり、町中のブロック塀や軒下に生息しません。強健なノキシノブに比べて、ヒメノキシノブは空気中の水分量の調節が必要です。そのため、適度な水分のある古木が多い山奥に多く生息します。
ボタニ子
古木に、びっしりと群生していることが多いわ。ノキシノブよりも葉が小さいから、コケが生えているように見えるわね。
ボタ爺
寄生植物と違って着生している植物から栄養や水分をもらわないから、害はないの。
違い②葉の大きさ
ヒメノキシノブの葉は3cm~10cmで、8cm~20cmにもなるノキシノブの半分ほどの大きさです。ノキシノブの葉の先がまっすぐなのに対して、ヒメノキシノブはヘラ状に丸くなっています。葉の幅は先に行くほど広くなり、2mm~5mmです。葉の主脈の両側がふっくらしていることと、表が濃い緑色で裏が淡い緑色なのはノキシノブと同じです。
違い③ソーラス
ノキシノブのソーラスは、タコの吸盤のようにびっしりと葉の前方部につきます。それに対して葉が短く先が平たくなっているヒメノキシノブのソーラスは、1枚の葉に2つ~6つ程度です。きちんと左右対称に並んでいるわけではなく、三角に3つ並んでいたり眼のように2つ横についていたりします。
ノキシノブを育ててみよう
ノキシノブは特に珍しい植物ではありません。気がつくと穴の開いたブロック塀から顔を出していたり、ベランダの屋根から垂れ下がっていたりして、どこからきたかわからないうちに成長します。しかし、耐乾性にすぐれ40℃を超える夏も雨が降れば復活し、冬も凍らなければ難なく越えられるとても強い植物です。病害虫の心配もいらないため、初心者でも安心してチャレンジできます。
近年は少なくなったようだけど、かやぶき屋根の軒下に着生してることもあるわ。風流ね。