苔とは
苔は地面や岩などの上に、はいつくばるように広がって生育する植物のようなものです。日本には約1800種の苔が生育しており、苔を配した庭や盆栽、苔玉など、古くから日本庭園作りや園芸に利用されてきました。苔を園芸で楽しむのは日本人だけとも言われています。
苔の特徴と種類
日本には約1800種の苔が生育しており、北海道から沖縄まで高山から庭や道路のすみっこなどにも群落しています。苔は大きくは蘚類、苔類、ツノゴケ類の3種類に分類されます。園芸で使われるのは蘚類です。苔の特徴と園芸で使われる苔の代表的なものをご説明します。
苔の特徴
苔には養分や水分を吸い上げるための根は無く、根っこのような部分は仮根と呼ばれる部分です。光合成をしているため日当たりのよい場所を好みます。乾燥には強いですが、高温で蒸れた状態にとても弱い性質があります。苔の生育のよい場所は空気中の湿度が保たれた場所です。
苔の繁殖方法
苔の繁殖方法は3つあります。
- 雌雄による生殖
- 「むかご」に似た無性芽から繁殖
- 苔自体のからだの一部から繁殖(クローンに似ています)
ウマスギゴケ(杉苔)
日本庭園で使用される代表的な苔です。「苔庭」に植えられている苔の多くは杉苔です。自然には湿地などの日当たりのよい場所に群落を作ります。名前の通り杉の葉によく似た姿です。高さが5cmくらいになることもあります。
ホソバオキナゴケ(山苔)
日本庭園や盆栽に利用される苔です。毛足が短く群落はこんもりとした丸い塊になります。丈夫で、乾くと白っぽくなります。「山苔」として大きな園芸店や盆栽園で乾燥したものが袋詰めで販売されています。育て方は湿らせて鉢の上に撒く、用土に混ぜるなどです。
エゾスナゴケ(砂苔)
日当たりがよく、風通しのよい土壌に群落します。上の画像は吹き曝しの河原堤防上で撮影したものです。黄緑色がとても鮮やかです。開いた葉が星のように見えますが、乾燥すると閉じてしまいます。乾燥に強いため、屋上緑化に利用されることもあります。
ハイゴケ(這い苔)
全国の平地、公園や庭などでよく見られます。ハイゴケは地面を覆うように広がります。茎が長く、規則的に茎を広げ、葉の先端が内側にカーブし育て方も簡単です。この特徴が苔玉作りに生かされます。大きな園芸店、盆栽園、インターネットで購入することができます。
苔の利用方法
苔は昔から日本人にとって鑑賞の対象として栽培されてきました。日本庭園や盆栽、地面一面に苔を配置した京都の庭園に利用されます。多くの苔が自生する青森県の奥入瀬渓流、鹿児島県屋久島の白谷雲水峡などは観光地として有名です。また地球温暖化対策の屋上緑化にも利用されています。
日本庭園
日本人は自然の姿を写すように庭園を作りました。苔も自然にあるように庭園に配置し、手入れをして鑑賞します。有名な庭園は京都の西芳寺(苔寺)や三千院、鎌倉の妙法寺も苔寺と呼ばれています。
盆栽
盆栽の鉢にも苔を張ります。盆栽は鉢の中に大自然を感じさせる園芸です。木の根元に苔が生えている姿は自然の森を連想させるでしょう。苔は植え替えの時に張り替えますが、自然に生えたように張るには経験が必要です。また苔は鉢から土が流れ出るのを防ぐ役目もあります。
苔玉
苔玉とは草花や樹木の苗を鉢に植えるのではなく、土で覆って苔をはり付けて作る園芸の一種です。苔玉に使うのはハイゴケです。根を覆った土に張りつけて糸で固定します。そのまま乾燥しないように手入れをするとハイゴケが土に活着して糸が切れても落ちることはありません。
苔テラリウム
苔と石や砂を使って、ガラス容器の中にジオラマを作るアートな園芸スタイルがたいへん人気があります。苔を枯らさない育て方は温度と湿度と光のバランスによるものです。使用する苔はスギゴケ、砂ゴケ、ホソバオキナゴケなどが多いです。
苔の増やし方
さまざまな園芸に使われる苔は、自分で増やすこともできます。メンテナンスのために栽培しておくのもよいですね。苔の生育は環境に左右されるので、育てる場所に合った苔を見つけるために何種類か育てることをおすすめします。増やし方は苔の繁殖方法を利用します。それでは苔の増やし方をご説明しましょう。
張り苔法による増やし方
盆栽ではこの方法で木の根元に苔を張ります。苔玉もこの方法で作りますが、苔が剥がれないように糸などでしっかりと巻いて固定します。
- 苔を裏返し、枯れ枝や土、苔の茶色くなった部分をカットします。
- 苔を用土に張りつけます。苔が用土から浮いていたり、剥がれてしまうと乾燥するので指先や手のひらなどでかなり強めに押し付けるようにしましょう。そのため用土はなるべく均一で平らにしておくとよいでしょう。
適した種類…ハイゴケやシノブゴケ、スナゴケなど地面に這うように増える苔
利用したいところ…庭や盆栽
移植法による増やし方
背の高いスギゴケやヒノキゴケなどは数本まとめて用土に差し込むように植える方法があります。植物の挿し木などと同じようなイメージです。用土の中にピンセットなどで苔を差し込んで植えるので、苔がしっかりと活着する植え方です。
適した種類…ヒノキゴケやコウヤノマンネングサ、スギゴケなど地下茎で増える苔
利用したいところ…苔テラリウム
撒き苔法による増やし方
上の画像は市販されている山苔(ホソバオキナゴケ)です。苔がちぎれて乾燥していても増える性質を生かした方法を山苔の栽培方法を例にご紹介します。
- 用土を赤玉土微粒7:砂3で作ります。
- 1の用土を8:2に分け、2に分けた用土に山苔を混ぜます。
- 残りの用土8を浅い鉢に表面を平らに均します。
- 3の上に山苔を混ぜた用土を均一に重ねます。
苔の生育に大事なことは温度、湿度、日照のバランスです。毎日、しっかりと手入れをして増やすことが大切です。
- 水やりは毎日、直射日光が当たる時間をさけて行います。
- 水はけをよくし、土が流れないように注意します。
- 風が強いと、土が動くので、必要があれば風除けを設置します。
- 落ち葉などのゴミは取り除きます。
水分量は水浸しでは多すぎますが、用土が常に湿っている状態に保つのが大切です。苔を他の場所から移植するよりも丈夫な苔を増やすことができます。
苔を移植するときの注意
庭で繁殖させた苔をそのまま移植することはおすすめしません。動物の毛や虫、虫の卵などが付着している可能性があるからです。
使用する場合
- よく水洗いします。
- 枯れ葉、枯れ枝、ゴミを取り除きます。
- 透明なビニール袋に入れて1日放置(虫が出てきます)します。
- 植物用の殺虫剤で消毒します。
苔の上手な栽培
苔テラリウム(コケリウム)は苔を身近に栽培するような園芸です。最近はとても人気があります。ですが、購入したときのような美しい苔を維持するのはたいへんです。カビが生えたり、乾燥してしまったり、茶色く変色したりします。上手な栽培方法をご説明します。
苔テラリウムのコツ
苔はどのような環境で栽培しても、3つの点に注意が必要です。
- 湿度
- 温度
- 日当たり
- 虫などの生物
まとめ
苔は身近で、とても不思議で美しい植物です。日本人の美意識に合い、昔から園芸に生かされてきました。苔玉や苔テラリウムを作って、苔を楽しんでみてはいかがでしょうか。
出典:写真AC