タヌキモとは
タヌキモは、水中を漂う多年草の食虫植物です。タヌキモはシソ目タヌキモ科に分類されていて、日本全国の沼や湿地、湖や池などに生息しています。タヌキモの仲間は、世界的には南極以外に分布し、種類は250を越えるようです。近年は水質悪化により、タヌキモが絶滅危惧種に指定されている場所もあります。水中を漂う形がタヌキの尾に似ていることが名前の由来です。
タヌキモの特徴
タヌキモは根がなく水中を浮遊するため、浮遊植物や根無し草とも呼ばれます。茎や糸のような形の葉が、水分を吸収する器官です。呼吸をする専門の枝もあります。栄養分を得る仕組みや増え方など、タヌキモの生態の特徴を見てみましょう。
タヌキモの葉
タヌキモの葉にあたる部分は、糸のような形をしています。タヌキモの葉は互生(互い違いに生える)で水中で平らに広がり、淡い黄緑色です。3回~4回羽状と呼ばれる複葉で、羽のように細く分裂しているのが特徴です。タヌキモは根がないため、水分の吸収は茎や糸の形をした葉でおこない、茎から白い糸状の呼吸枝を出して呼吸します。大きくなると1mを超えるのも特徴です。
タヌキモの花
タヌキモの花は、地上で咲くのが特徴です。開花時期が近づくと水中から10cm~15cmの花茎を伸ばし、その先に直径約1.5cmの黄色い可憐な花を咲かせます。タヌキモの開花時期は7月~9月です。中央がオレンジ色になっている個体もあります。タヌキモの花は咢(がく)が2つに分かれ、距(きょ)と呼ばれるものがあるのが特徴です。
ボタニ子
ボタ爺
もとは被子植物だったという説もあるんだよ。花が地上で咲くのはそのなごりかの。
距(きょ)とは?
距は本来、鶏の蹴爪(けづめ)のことです。植物の距とは、花の一部分に1本ツノのような突起がついているものをさします。
タヌキモの増え方
タヌキモには花が咲きますが、種や実はできません。そのためタヌキモは、分岐という方法で増えていきます。タヌキモは無性生殖で増殖する浮遊植物で、枝を切るとそれぞれが成長します。環境がよければ、1株から10株以上増えることもあるようです。アクアリウムで栽培する場合は、採取してきたタヌキモをビンや水槽に入れて浮かせておくと成長して増えます。
タヌキモの越冬
タヌキモは耐寒性があり、氷が張った水の中でも越冬できます。茎や葉、花茎などは枯れますが、殖芽(しょくが)という栄養分の塊を作って冬越しします。タヌキモの殖芽は直径1.2cm~2cmほどで、暗い緑色の球体です。タヌキモの殖芽は、冬の間は枯れた茎から離れて水底に沈んで春を待ち、暖かくなると芽を出して浮上してきます。
タヌキモの捕食の仕組み
タヌキモは食虫植物で、水中にいる虫を捕食して生きています。動物性プランクトンのミジンコやセンチュウ、ボウフラや生まれたばかりの小さなオタマジャクシなどです。捕食するといっても、ハエトリソウのように能動的な動きをするのではなく、タヌキモの捕食の仕組みは水に頼ったものです。
補虫嚢(ほちゅうのう)
タヌキモには補虫嚢と呼ばれる器官があるのが特徴です。捕食袋や捕虫器とも呼ばれます。そら豆のような形をしている袋に、フタがついています。袋とフタをつなぐのは、ドアの蝶番のような細胞です。袋の中から常に水が茎を伝わって排出されているため、水圧が低い状態になっています。フタには突起のようなものがありますが、それに触ってもタヌキモが能動的にフタを開けるわけではありません。
タヌキモの捕食方法
- ミジンコやセンチュウなどタヌキモのエサとなる生物が補虫嚢のフタの突起に触れる
- 突起に触るとてこの原理でフタが開く
- 補虫嚢の中は水圧が低くなっている
- 減圧している袋の中に水と一緒にタヌキモのエサとなる虫が流れ込む
- 袋の中と外の水圧が同じになるまで袋の中に水が流れ込み続ける
- 水圧が同じになったら自然にフタが閉じる
ボタニ子
タヌキモをアクアリウム栽培していると、ミジンコやセンチュウなどのエサや光が少ないため補虫嚢が小さくなることがあるわ。
ボタ爺
補虫嚢は普段は淡い緑色をしているが、エサが入って消化されるとカスが残って、黒くなるぞ。
タヌキモの仲間
タヌキモ類は種類が多く、外来種が日本で帰化しているものも少なくありません。一部、特定外来種として駆除指定されています。タヌキモは種や実を作りませんが、ほかのタヌキモ類は自家受粉で種を作る種類もあります。タヌキモは基本的に多年草ですが、耐寒性がなく越冬が苦手な種類は一年草扱いです。
イヌタヌキモ
タヌキモは種類が多く、分類がやや混乱しているふしがあります。タヌキモと呼ばれている種類はこのイヌタヌキモとオオタヌキモのハイブリッド種であると、近年の研究でDNAからわかったそうです。タヌキモの花茎は中空ですが、イヌタヌキモは細胞が詰まっているので見分けがつきます。また、タヌキモの殖芽が緑で丸いのに対し、イヌタヌキモの殖芽は楕円形で茶色いのが特徴です。
ヒメタヌキモ
ヒメタヌキモは花を咲かせる個体が少ないタヌキモ類です。ほかのタヌキモ類の花がほぼ黄色いのに対し、ヒメタヌキモの花は薄い白黄色~淡い黄緑色をしています。水中葉と地中葉を持ち、水中と地中両方のミジンコやセンチュウなどのプランクトンをエサとしているのも特徴的です。タヌキモ類を栽培する場合は浮かせるのが一般的ですが、ヒメタヌキモは半分植えて栽培することもできます。
ボタニ子
ヒメタヌキモは小型のタヌキモ類で、茎の長さは15cm~20cmくらいよ。
チョウシタヌキモ
チョウシタヌキモとは、千葉県の銚子市に由来するタヌキモ類です。2021年時点で千葉県では絶滅危惧種1類に指定されており、自生地への立ち入りが規制されている場所もあります。チョウシタヌキモはタヌキモの沈水型で、泥をかぶって水底で成長する小型のタヌキモ類です。殖芽はイヌタヌキモに似て楕円形です。
イトタヌキモ
イトタヌキモはミカワタヌキモとも呼ばれる、超小型種のタヌキモです。茎は10cm前後と、かなり小型なヒメタヌキモの半分にも満たない長さです。浅い水辺で絡まって、スポンジのような状態で生息しますが、浮遊する個体もあります。絡まっているものは越冬が難しく一年草ですが、浮遊している個体はそのまま越冬できます。絶滅危惧種1B類(EN)に指定されている貴重な植物です。
絶滅危惧種1B類(EN)とは
絶滅危惧種には7つのランクがあります。絶滅危惧種1B類(EN)とは危険度が3番目にあたるものです。すでに絶滅したものと、栽培繁殖させてかろうじて生息しているけれど自然界では絶滅しているものを除きます。もう2つランクが下がるともっとも絶滅が心配されるレベルになってしまいます。
ムジナモ
ムジナモはタヌキモに似ていますが、モウセンゴケ科の食虫植物です。水面に浮かんで生息することや、根がないこと、花は地上で咲かせることはタヌキモと同じですが、大きく違う特徴があります。ムジナモは二枚貝のような形の葉を、能動的に動かして補虫します。タヌキモは種や実をつけないのに対しムジナモは、花が咲いたあと水中で黒い実を作るのが特徴です。
ボタニ子
絶滅危惧種や天然記念物に指定している場所もあるのよ。貴重な食虫植物なのね。
タヌキモを観察してみよう
タヌキモは沼や湿地、田んぼや湖など水辺に生息している食虫植物です。種類が複数ありますが、どれも夏に可憐な花を咲かせます。水辺で夏に黄色い小さな花を見かけたら、水の中を観察してみましょう。補虫嚢が黒くなっていたら、食事を終えたタヌキモです。アクアリウムでの栽培も難しくないため、チャンスがあったらぜひ育ててみてください。
タヌキモは花を咲かせるけれど、種や実はならないのよ。花にはハナアブが来るんですって。