有機石灰とは?
石灰は炭酸カルシウムのこと。カルシウムは植物にとって必要なミネラルであり、畑の土作りにおいても重要な働きをする「土壌改良剤」です。そこで、有機石灰は、有機質の石灰ということになります。
有機石灰の成分は?
有機石灰は、カルシウムをたっぷり含んだ牡蠣やホタテの貝殻や、その化石が原料です。卵の殻を使ったものもあります。有機質で安心ですが、そのぶんアルカリの効果はやや弱め。荒れ果ててしまった土をガッチリ矯正したい場合などには、少し物足りないかもしれません。
有機石灰の効果は?
①酸性土の調整
有機石灰の一番大きな効果・効用は、土の酸性度をやわらげることです。日本は雨が多くアルカリ成分が流されるため、何もしないと土は必ず酸性に傾いてしまいます。しかし、強い酸性土壌は野菜を育てるのには適さないので、石灰などアルカリ性のもので中和する必要が出てくるのです。
pH6.5〜7.0 | ネギ、タマネギ、ホウレンソウなど |
pH6.0〜6.5 | 白菜、キャベツ、ニラなど |
pH5.5〜6.0 | トマト、ナス、キュウリなど |
pH5.0〜5.5 | ジャガイモ、サツマイモ、スイカなど |
PH7.0が中性で、数字が小さくなるほど酸性度が増していきます(7.0以上は作物には向きません)。表のように、野菜のほとんどが好むのは弱酸性〜中性の土壌です。それぞれの野菜に適した土で育てることが、丈夫な野菜づくりには欠かせません。
②土壌を活性化させる
作物が元気に育つ「いい土」というのは、ふかふかした団粒構造であることが欠かせませんが、それは土中の微生物が作り出すもの。有機石灰は貝殻などの有機質でできているため、微生物が活動しやすい環境にしてくれます。
③カルシウムの補給
有機石灰を撒くことで、植物の成長に必要な要素であるカルシウムをとることができます。カルシウムは野菜に病害虫への耐性をつけさせ、味もよくなります。さらに収穫後の日持ちがよくなる効果も。
カルシウムが不足すると?
カルシウムが欠乏すると、新芽や根の生長が悪くなります。トマトやキュウリでは「尻腐れ病」といって、実がブヨブヨになる症状がでることがあります。「病」というものの、これはカルシウム不足が原因の生理障害なのです。
有機石灰は肥料なのか?
有機石灰はカルシウム肥料ではありますが、3大要素(チッ素・リン酸・カリ)は含まれていないので、別に与える必要があります。また、苦土石灰などと違って堆肥と一緒に混ぜ込んでも大丈夫なので、元肥+pH調整が一回で済むというのが大きな利点です。
化学肥料との違いは?
カルシウム肥料には「硝酸カルシウム」などの化学肥料もありますが、それぞれの特徴があります。
化学肥料のメリット
- 少量で済むのでコストが割安
- 速効性がある
- 葉面散布できる
有機石灰のメリット
- 土の微生物が活性化し、植物が本来持つ生命力を高める
- やり過ぎによるダメージが少ない
- 土壌改良、肥料と用途が広い
速効性でいうと、例えばトマトの「なり疲れ(夏の終わり頃に弱ってくる症状)」にはカルシウムが有効なのですが、有機石灰では吸収がゆっくり過ぎて間に合わないことがあります。用途や作物に求めるレベルに合わせて、適した方を選ぶといいでしょう。
他の石灰との違い
ホームセンターなどに行くと、有機石灰以外にも苦土石灰、生石灰…といろいろな種類があるのが分かります。しかし、それぞれの使い方は大きく違ってきます。
他の石灰は使い方が違う?
同じ「石灰」と名前がついていても、アルカリ度が強いものはより手間と知識が必要になってきます。土の中で化学反応を起こしてガスが発生するため、撒いてから作付けまでしばらく期間を置かなければいけないし、使用量が多すぎると土が固くなるなど使い方が難しいのです。
アルカリ度 | 成分 | ガス発生 | 備考 | |
生石灰 | 高い | 酸化カルシウム | 有り | 水と反応して高温になる |
消石灰 | ↑ | 水酸化カルシウム | 有り | 強アルカリ、使用量に注意 |
苦土石灰 | ↓ | ドロマイト(鉱物) | 有り | 比較的使いやすい |
有機石灰 | 低い | 貝殻、卵の殻 | 無し | おだやか、使いすぎても安心 |
一番かんたんなのが有機石灰
有機石灰は土に撒いてすぐ作付けができる(土を寝かせる期間をとる必要がない)、多少使いすぎても悪い影響が出にくいといったメリットがあり、初心者や家庭菜園向きのおだやかな石灰です。
有機石灰に殺菌・殺虫効果はない
石灰は土壌消毒に使われることがありますが(鳥インフルエンザが発生した時消毒シーンがニュースで流れましたね)、あれは消石灰です。強度のアルカリで病原菌を殺菌するのですが、有機石灰にそのような効果はありません。殺虫効果もありません。
過リン酸石灰は用途が違う
石灰の仲間に「過リン酸石灰」というものがありますが、こちらはpH調整用ではなく、リン酸肥料として使われます。リン酸は花や実のための養分で、特に果樹に効果の高い肥料です。
有機石灰の使い方
①pHの調整に
使いすぎても安心とはいえ、どのくらい調整が必要かは土の状態によって変わってきますね。日本では大抵の土は弱酸性ですが、まれにアルカリ性が強い土壌も見受けられます。そのほとんどは長年過度に石灰を撒き続けた家庭菜園ですが、一度今の土の状態をチェックするのは大切です。
まずはpHを測ってみよう
専門的な感じがするかもしれませんが、pHを測る道具はホームセンターなどでかんたんに入手できます。数百円で買えるpH試験紙・試験液から、本格的な測定器までさまざま、用途に応じて選びましょう。
使用量はどのくらい?
有機石灰は有機質なだけに、商品によって使う量が異なります。袋に書かれた用量を必ず見るようにしましょう。貝殻原料のものだと、平均的な酸性度(pH5.5前後)だった場合は、1㎡につき100〜200gが目安です。ちなみにひと握りが大体100gくらいです。
作物によって調整するとベター
作りたい野菜が好む酸性度に合わせて、有機石灰の量も加減するといいでしょう。高めのpH値を好むインゲンやネギ類にはひと握りプラス、といった感じで大丈夫です。有機石灰なら、生育が悪くなるほどアルカリ性に傾く心配はありません。
pH調整は毎年必要か?
石灰を入れたとしても、収穫後には土壌pHは5.5程度に戻ってしまいます。毎年植え付けの前に調整するようにしましょう。
②カルシウムの追肥として
作物を植え付けた後に石灰を撒くのは、pH調整ではなくカルシウム補給の意味合いが強いです。やり過ぎの心配がなく使えるといった点で、有機石灰は追肥にうってつけ。野菜の実がなり始める頃に追肥すると、病気予防や味が良くなるといった報告がされています。
チッ素過多に注意!
石灰を追肥したのに、尻腐れ病などカルシウム不足の症状が出る場合は、チッ素肥料を与えすぎているのかもしれません。土中にチッ素が多すぎると、カルシウムがあっても吸収することができなくなってしまいます。一見健康そうに見えますが「葉が青々と茂っている」のがチッ素過多の特徴です。
まとめ
- 有機石灰はおだやかなpH調整剤。酸性からアルカリ性に傾ける。
- 肥料と一緒に土に混ぜこんでも大丈夫、使いすぎの心配が少ない。
- カルシウムの肥料でもあるが、3大要素は含まない。
- 有機質なので土を豊かにし、植物の生命力を高める。
- 強度の酸性土壌の矯正や、速効性を求める場合には向かない。
色々ある石灰の中でも一番かんたんで安全なのが有機石灰、と覚えてください。効果が弱めではあるものの、初心者でも使いやすいのが最大のメリットです。