ヒトリガとは
ヒトリガとは夏によく見かける蛾の仲間で、日本全土に存在します。湿度の高い場所が好きです。川や谷など自然環境が豊かな場所にも生息しますが、人家の近くや庭、公園の植え込みや垣根などにもいます。ヒトリガは海外では、北アメリカやユーラシア大陸全土、2000mを超える高地にもいる生息地が広い昆虫です。
ボタニ子
ヒトリガの基本情報
学名 | arctia caja phaeosoma |
科 | チョウ目ヒトリガ科ヒトリガ亜科 |
分布 | 日本全土~世界各地 |
食性 | 広食性 |
走火性 | 強い |
行動 | 夜行性 |
毒性 | 一部成虫あり、幼虫なし |
別名 | tigermoth |
ヒトリガの生体
ヒトリガの成虫の外側の羽は一見地味で、茶色に白色~クリーム色の網目がはいり、キリンのような模様があります。普段は外側の茶色い羽を閉じて細長い二等辺三角形の形で樹にとまるので保護色になるのでしょう。外側の羽を広げると中から派手なオレンジ色に黒の水玉模様の羽が出てきます。鳥に襲われそうになったときの警戒色です。
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内側の羽の模様って目玉に見えない?鳥類は目玉模様が苦手なの。あと、派手な色は毒もってますよって相手に警戒させるためともいうわ。
ヒトリガの特徴
ヒトリガの成虫の特徴は地味な外羽の下にかくしもった派手な下羽です。ヒトリガの仲間は日本では70種類~100種類いるといわれ、そのほとんどが形はシンプルながらデザイン性の高い羽をもっています。頭部に毛が生えているのも特徴です。ヒトリガの下羽を広げたときに見える大きい腹はもっと鮮やかな赤い色をしており、同じく大きな黒い斑点があります。
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ヒトリガは羽をひろげると45~65mmくらいよ。女性の手のひらくらいかしらね。結構大きいかも。
名前の由来
ヒトリガの名前の由来は「1人」ではなく「火取」からです。夜行性の昆虫は明るさに対する走光性を持っています。ヒトリガも夜行性で夜活発に動き回る習性があり、火に対する正の走火性(光にむかっていく)が特に強いのが特徴です。そのため、たき火やキャンプファイヤーなどの炎の中に自ら飛び込むこともあるので「飛んで火にいる夏の虫」の代名詞ともされます。
産卵
ヒトリガは7月ごろにごく薄いエメラルドグリーンの粘着性のある卵を産みます。普通は葉の裏側や見つかりにくい場所など1ヵ所にまとめて産みつけるのですが、ヒトリガはそのあたりのことに若干、無頓着らしいです。後述しますが、幼虫がよく移動する習性なのでヒトリガのメスもあっちに数個、こっちにたくさんなど気まぐれに産卵場所を変えます。
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卵は1ヵ月後くらい、8月ごろに孵化(ふか)するわよ。
ヒトリガの幼虫(クマケムシ)
ヒトリガの幼虫は大きい毛虫で、全身黒~茶色の毛がみっちり生えて「たわし」のようです。その見た目からクマケムシと名づけられました。熊のような毛虫という意味で、イギリスではwoolly bear(羊毛の熊)とも呼ばれます。クマケムシはもふもふの毛の多さに反して毒はなく、普通肌の人が触っても腫れたりかぶれたりしません。
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お肌の弱い人はかゆくなったりするかも。それに、本当にクマケムシかどうかわからないときは触っちゃダメよ。毒をもってる毛虫もいるわ。
行動
クマケムシはよく動くのが特徴です。草木の間やコンクリートブロックの上、ときにはアスファルトの道路の上をもふもふの毛のかたまりが、超高速の蠕動運動(ぜんどう)で走り回る個性的な姿を見たことがある人もいるでしょう。一瞬小さいネズミと間違えるほどの早さです。クマケムシは食べ物を求めたり、蛹(さなぎ)になる場所を探したりして活発に動き回ります。
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触るとくるんとまるまって、死んだふりするのよ。おもしろいわね。お腹をみせたりもするわよ。
食性
クマケムシはクワ科、キク科、アサ科、スグリ科、スイカズラ科の植物を好んで食べます。そのため、園芸に関わる人にとっては非常に厄介な虫です。大食漢なのであっという間に育てていた植物を丸坊主にされて悲しい思いをされた人もいるでしょう。たくさん食べるので蛹になる前に60mmくらいの大きい毛虫になると糞も5mmくらいになります。
冬越し
変態する昆虫は蛹(さなぎ)になって冬越えをする種類が多いですが、ヒトリガは毛虫の状態のまま冬越しします。クマケムシは落ち葉の下や捕食されない目立たない暖かい場所で冬眠し、春に目覚めて食事をし蛹になるのは6月~7月にかけてです。クマケムシは自分の毛と吐き出す糸で繭(まゆ)をつくり、そのなかで茶色い蛹になります。羽化するのは1ヵ月後の7月~8月にかけてです。
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続いて、ヒトリガやクマケムシの駆除方法や、ヒトリガの仲間の紹介をします。
ヒトリガの駆除方法
ヒトリガ
ヒトリガは食性としては樹液を好むので園芸好きにとっての実害はありませんが、卵をあちこちに産みつけるので駆除対象となります。ヒトリガの駆除方法は直接殺虫剤をふきかけるほかに、強い正の走火性を利用して、誘蛾灯を設置するとよいでしょう。卵を産みつけるようであれば、卵じたいを取りのぞいて駆除するのも効果的です。
クマケムシ
クマケムシの駆除方法は見つけしだい捕殺するのがいいでしょう。生まれたてはまだ集団でいますので、葉の裏や取りのぞけるものであればそれごと切り離し、殺虫剤で処理するか燃やします。大きくなったクマケムシは高速で移動しますが、接触すると死んだふりをしますので捕獲するチャンスです。素手よりもいらなくなった割りばしなどで回収するのがおすすめです。
ヒトリガの仲間
アメリカシロヒトリ
アメリカシロヒトリは第2次世界大戦後、アメリカ軍の運び込んだ物資について日本に上陸したとされています。成虫は真っ白で首にもふもふのファーをつけているようです。幼虫は年に2回発生し、糸をだし綿菓子のような幕をはって10日~12日集団生活をします。1cmを超えると幕からでて個々で活動し、蛹で越冬しますが、最終齢は35日です。
アカヒトリ
アカヒトリは写真よりも鮮やかなオレンジに近い色の羽をもち、下羽も腹も同じ色です。羽に灰褐色~黒褐色の斑紋がある美しい蛾です。幼虫は黒とオレンジで毛はヒトリガよりも少なく、柑橘系の葉を好んで食べます。ブナ科、ツツジ科、ニガキ科の植物も好きです。ヒトリガとしては小さいほうで23mm~28mmで、千葉以西~四国、九州に生息しています。
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卵もオレンジ色っぽいの。個体差があるだろうけど、レモンオレンジっぽいのもあるわ。
アカハラゴマダラヒトリ
アカハラゴマダラヒトリは名前のとおり腹の背面と前足の一部が赤いのが特徴です。純白の羽には灰色~黒褐色の斑紋がありますが、春よりも夏のほうが数が増えます。首元のファーは長めでゴージャスです。幼虫はサクラやクワ、ナシなどを好み、見た目はヒトリガに似ていますが縦に赤いラインがあります。生息地は北海道~屋久島ととても広いです。
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ヒトリガの特徴かもしれないけど、アカハラゴマダラヒトリは成虫でも触ると死んだふりするのよ。お腹見せてくれるわ。
ベニゴマダラヒトリ
ベニゴマダラヒトリは白ベースに黒やオレンジの斑点がきれいな蛾で、幼虫も同じ色です。細長くとまるのが特徴で、似た種類にタイワンベニゴマダラヒトリがいます。こちらはヒトリガ特有の二等辺三角形のようなとまりかたをします。ベニゴマダラヒトリの幼虫が好んで食べるのはムラサキ科のハナイバナです。関東以西~琉球地方に生息します。
まとめ
一見地味なヒトリガも羽を広げると、警戒色の鮮やかな羽をかくしもっています。ヒトリガの仲間も形はシンプルですが、きれいな羽をもっている種類が多いです。地面を高速で移動するクマケムシは、その大きさや毛の多さに驚きますが、意外にかわいい生体をしています。しかし、せっかく育てた草花や野菜を食べられるのは迷惑なので、見つけしだい駆除しましょう。
どこにでもいる昆虫なんだけど、イギリスでは2007年8月に保護対象動物に指定されたんですって。