麦と呼ばれる穀物は多い
麦は大麦、小麦、ライ麦、燕麦(エンバク)など、見た目の似たイネ科の穀物の総称で、「●●ムギ」「●●バク」と呼ばれます。日本では大麦も小麦も麦の仲間ですが、英語では「麦」をあらわす言葉はなく、大麦は“Barley”(バーレイ)、小麦は“Wheat”(ウィート)と別の植物として分類されます。
大麦・小麦の種類
大麦とは
大麦はイネ科に属し、古くから栽培されてきた穀物です。日本では主に二条麦や六条麦、はだか麦、もち麦などが栽培されています。
二条麦
二条大麦は穀の粒のひとつひとつが大きいことが特徴で、大粒大麦とも呼ばれます。主にビールの製造に使われ、ヨーロッパで栽培される大麦の大部分はこの二条大麦です。
六条麦
六条大麦は、大粒の二条大麦と比較すると粒が小さい穀物です。大麦を穀物として食べる場合には、
六条大麦が使われます。二条麦、六条麦ともに実と皮に糊状の物質で接着されているため皮をはがせないのが大きな特徴です。
はだか麦
六条麦の突然変異で、皮が簡単にはがせるのがはだか麦です。もむだけで簡単に皮がはがれるため、食用として広く栽培されるようになりました。二条麦、六条麦、はだか麦はうるち性です。精白した麦をローラーで押しつぶせば「押し麦」になります。
もち麦
二条麦、六条麦、はだか麦と異なり、もちもちした食感をもつもち性の大麦がもち麦です。もち米の代用品として使用され、もち麦の粉で団子を作ります。近年では健康的な雑穀としてもち麦入りのご飯も人気です。
大麦からできる食品
- ビール
- ウィスキー
- 焼酎
- 麦みそ
- はったい粉
- ポン菓子
- 麦茶
- 麦芽飲料
- 青汁(大麦若葉) など
小麦とは
「人類最古の作物」といわれる小麦はイネ科コムギ属の一年草、世界三大穀物のひとつで、生産量は米と同程度です。小麦の種子を収穫して粉状にして小麦粉として使用し、主に食用としてパン、ケーキ、麺類などに加工されます。
小麦からできる食品
- うどん類
- 麩(ふ)
- パスタ類
- 中華麺
- グルテンミート
- クスクス
- 小麦胚芽油 など
硬質・中間質・軟質小麦
小麦の種類は硬質・中間質・軟質小麦にわかれます。硬質になるほど含まれるタンパク質の量が多く、中間質、軟質になるほど減少します。タンパク質を多く含む硬質小麦ほどグルテンの形成力が強くなり、パンに適した小麦粉(強力粉)ができます。
小麦粉の種類と用途
- 硬質小麦:強力粉 用途:パン、ピザ生地など
- 中間質小麦:中力粉 用途:うどんなど
- 軟質小麦:薄力粉 用途:ケーキ、菓子類など
デュラム小麦
デュラム小麦はマカロニ小麦とも呼ばれ、パスタ(スパゲティ、マカロニなど)の原料です。製粉の工程でセモリナという黄色い胚乳の部分が取り出され、パスタに加工されます。デュラム小麦はタンパク質が豊富で、粘り気が少ないのが特徴です。粘り気がないためパンにする場合はパン用の小麦を混ぜます。
大麦と小麦の違い
大麦と小麦の大小は、穀粒の大きさによるものではありません。「大」は用途の範囲が広い、質のよい、「小」は代用品、質がおとる、という意味をもちます。現在では小麦が多く使われますが、伝来当時は、皮を取り除いて粥などとして簡単に食べられる大麦が上質と考えられたようです。
タンパク質の違い
大麦と小麦の成分はデンプンやタンパク質で大きな違いはありません。大麦にはやや食物繊維が豊富に含まれ、大麦のタンパク質はホルデイン、対して小麦に含まれるタンパク質はグルテンです。
グルテンの有無
大麦と小麦の大きな違いはグルテンが多く含まれるかという点です。小麦粉は練るとグルテンによりネバネバした状態になります。この性質をいかして、パンやケーキ、麩などに加工します。一方、大麦粉はグルテンはほとんど含まれず、大麦粉でパンを焼く場合には小麦粉やグルテンなどを補う必要があります。
パンの食感の違い
グルテンが豊富な小麦で焼いたパンはフワフワの食感が楽しめますが、大麦で作るパンはずっしりと重い食感になります。大麦の粉でつくるパン生地は不安定で扱いにくいため、小麦粉に比べるとパン作りには積極的に利用されません。
大麦・小麦以外の麦の仲間
麦の仲間①エン麦
エン麦(えんばく・燕麦)は英語で“Oat”(オート)から、オート麦、オーツムギなどと呼ばれます。エン麦を脱穀して乾燥させた後、加熱してローラーにかけるとフレーク状のロールドオーツとなり、シリアルなどに利用されます。エン麦はタンパク質、ミネラル、食物繊維などの栄養成分が豊富な穀物です。
エン麦の用途
エン麦はウィスキーやビールの原料にも使われ、グラノーラもエン麦からできています。ロールドオーツを牛乳や水で粥状にしたものはオートミールで、健康的な朝食としておすすめです。エン麦のフスマ(オートブラン)も食物繊維が豊富でシリアルなどにも加工されています。エン麦から作るオートミルクは牛乳の代用品として人気です。
エン麦のその他の用途
エン麦の代表的な用途が馬の飼料です。エン麦には食物繊維が豊富で、馬が好む飼料の代表格です。エン麦を畑で育てそのまますき込んで利用する緑肥にも使われることもあります。エン麦の新芽を好んで食べるネコがいることから、「ネコの草」として販売されています。
麦の仲間②ライ麦
ライ麦(らいむぎ)の別名はクロムギ(黒麦)で、黒パンといえばライ麦を使用して焼いたパンです。国によってライ麦と小麦粉の配合量や挽き方によってパンの名前が決められていることもあります。主に北アメリカやヨーロッパで栽培され、小麦の栽培に適さない土地や、やせた土壌でも育ち、寒さにも強い穀類です。ライ麦の種子はウィスキーやウォッカに醸造されます。
ライ麦でつくる酒
ライ麦の種子からはウイスキーがつくられ、ライ・ウイスキーと呼ばれています。アメリカの法律では原料の麦芽液の51%以上がライ麦から作られなければライ・ウィスキーとはよべません。また、ロシアではライ麦から上質のウォッカが作られます。
麦の仲間③ハト麦
ハトムギはキビ亜科に属すトウモロコシの近縁です。大麦や小麦などほかの麦類はイネ科イチゴツナギ亜科に分布するため、ハトムギとは異なります。ハトムギはジュズダマとも呼ばれ、種子は食用です。飼料用や牧草としても栽培されることもあります。
大麦・小麦の用途と特徴
グルテンミート
小麦粉を水で練ってつくる肉の代用食をグルテンミートまたはセイタンといいます。肉が食べられない、アレルギーや健康上の問題で制限されている、ヴィーガンなどの菜食主義の人たちが肉の替わりに炒め物やフライにして食べられる食品です。
ビール
ビールづくりには大麦(二条大麦)が大きな役割を果たしますが、小麦もビールの原料です。小麦胚芽を多くして作った場合は白ビールと呼ばれ区別されます。小麦胚芽はビールの泡立ちをよくし、さわやかな風味を与える重要な材料です。
ウィスキー
大麦麦芽(モルト)のみで作るウィスキーをシングル・モルトウイスキーといいます。ライ麦やトウモロコシから作るグレーンウィスキーのほとんどはモルトウイスキーとブレンドずるため、ウイスキーづくりにも大麦が欠かせない存在です。
大麦と小麦は似ているようで別の植物
大麦と小麦はその名前から同じような種類と考えられることがありますが、実はまったく異なる性質をもつ穀物です。どちらも人間の生活にとっては重要な穀物ですね。日々口にするものを、「大麦か、小麦か」と考えてみるのも楽しいかもしれません。