猿も絡まる茨の蔓「サルトリイバラ」
藪をかき分けたり山菜を採ったりしていると、突然手にチクっとした痛みが走ることがあります。茎や葉に棘のある植物が紛れ込んでおり、気づかずに握ってしまうのです。本記事で紹介するサルトリイバラも、そんなチクっと刺す植物です。
サルトリイバラ基本データ
- 標準和名:サルトリイバラ
- 学名:Smilax china
- 分類:サルトリイバラ科シオデ属(旧ユリ科シオデ属)
- 分布:北海道〜九州
名前の由来
サルトリイバラは、漢字表記すれば「猿捕茨」。ツルから長い巻きひげが生えており、さらに鉤爪のような棘まであります。巻きひげと棘で猿さえも捕まえてしまう、というのが名前の由来です。
サルトリイバラの観察
サルトリイバラ。葉脈は3本、大きい葉では5本見られます。巻きひげは托葉が変形したもので、葉の付け根から2本1セットになって生えます。
巻きひげと棘で這い上る
サルトリイバラは日本全土に分布し、日当たりの良い林縁や道路脇、民家の庭などに生えます。より日当たりのいいポジションを確保するため、旺盛にツルを伸ばして高い場所へ昇ろうとします。しかしせっかくツルを伸ばしても、風雨で飛ばされ地面に落ちれば水の泡。そこでサルトリイバラは、巻きひげと棘で足場を作ります。巻きひげを周囲の樹木に絡みつけ、さらに鉤爪のような棘を食い込ませて、ツルを固定しながら着実に這い上がるのです。
平行に走る葉脈
サルトリイバラの葉を見てみましょう。丸みのある楕円形で先端が尖っています。特徴は付け根から先端にかけて平行に走る葉脈。3〜5本の太い葉脈が葉の付け根から伸びて、途中で交わらずに葉の先端で合流しています。葉の輪郭が丸いので、泡立て器のようにも見えます。このような形の葉脈を平行脈といい、イネ科やユリ科で多く見られます。
春に花が咲く
サルトリイバラの花期は4〜5月。花柄が放射状に広がって、それぞれの先端に一個ずつ花をつけます。このような花の咲き方を「散形花序」といいます。
秋に真っ赤な実が映える
サルトリイバラの花は雌雄が分かれており、雌花のみが受粉後に結実します。果実は直径5mmくらいの球形で、11月頃に赤く熟します。実が熟す頃にはサルトリイバラは落葉しているため、真っ赤な実が空中に浮かんでいるように見えます。
サルトリイバラの利用法:葉
サルトリイバラは人里近くで採集でき、利用方法も豊富です。
葉の利用法①食用
サルトリイバラの若い葉やツルの先端は食べられます。春〜初夏にかけての、まだ葉が柔らかい時期が狙い目。エグ味があるので、アク抜きのため植物灰(薪ストーブの灰など)をふりかけて、お湯に4時間〜半日くらい浸しておきましょう。
食べ方
アク抜きが済んだら、細かく刻んで炊き込みご飯に加えたり、肉と一緒に炒めたり、天ぷらにしたりと様々な食べ方ができます。丈夫な繊維が混ざっていることがあるので、大きめの葉っぱは細かく刻んでください。苦味や青臭さが残ることもあるので、まず少量で試してお好みの食べ方を見つけましょう。
葉の利用法②かしわ餅の葉
端午の節句で供えるかしわ餅は、餡を包んだ餅を植物の葉っぱで挟んで作ります。かしわ餅を挟む植物には地域差があり、西日本ではサルトリイバラ、関東ではブナ科落葉樹のカシワが広く使われます。カシワの葉は繊維が硬くて食べられませんが、蒸したサルトリイバラの葉は食べられます。
かしわ餅に利用される植物
利用地点数の多い植物はサルトリイバラ、カシワの2種で、その他にホオノキ、ミョウガ、ナラガシワ、コナラなどが利用されていた。(中略)植物の地理的分布をみると西日本ではサルトリイバラ、関東地方ではカシワが多かった。
ボタニ子
かしわ餅の葉っぱって、そんなに種類があるんだ!でも、カシワで包んでなくても「かしわ餅」なの?
かしわ餅の語源
「かしわ」という言葉はもともと「炊(かし)ぐ葉」という意味で、食べものの包装に使う葉っぱ全般を指しました。そのためサルトリイバラの葉で挟んだ餅を「かしわ餅」と呼んでも全く問題ありません。料理を包む葉を「かしわ」と総称する一方で、「カシワ」という名前の樹木も存在するため、話がややこしくなっているのです。
かしわ餅の葉っぱ食べる・食べない論争の真相
- 葉の種類が地域で異なる。関西はサルトリイバラ、関東はカシワ。
- サルトリイバラの葉は食べられる。カシワは筋が硬く食べられない。
- 「かしわ餅の葉っぱを食べる」という人は西日本出身かもしれない。
サルトリイバラの利用法:実
実の利用法①生け花
サルトリイバラの赤い実は鮮やかで色褪せにくく、散形花序はあたかも線香花火のようです。晩秋を彩る植物として、生け花やクリスマスリースに使われます。
通称のサンキライとは?
生け花素材として使われる場合、サルトリイバラの実が「サンキライ」と呼ばれることがあります。本来サンキライとは近縁種ケナシサルトリイバラのことであり、サルトリイバラとは違います。しかし生花店などでは慣習的にサルトリイバラがサンキライと呼ばれることも多いので、覚えておきましょう。
実の利用法②食用
サルトリイバラの実も食べられます。生の実をそのまま食べることもできますが、赤い実を乾燥させて砕き、タネを除けば色付けと薬味を兼ねた食べ方ができます。果実酒にする場合は腐敗防止のため乾かし、ホワイトリカーに3〜4ヶ月浸けます。赤い色素が抽出され、鮮やかな赤い果実酒が作れます。
ボタニ子
次のページではサルトリイバラの親戚を紹介するよ。
出典:写真AC