オキナグサ(翁草)ってどんな植物?
ボタ爺
オキナグサ(翁草)は、本州から四国、九州の山野や里山の日当たりのよい場所に育つ草丈20~30cmの小さな植物です。「翁」という名前のイメージとは異なり、赤紫色や青紫色の清楚な花を咲かせます。
オキナグサの基本情報
名前 | オキナグサ、翁草 |
学名 | Pulsatilla cernua |
科/属名 | キンポウゲ科オキナグサ属 |
分布 | 日本(本州、四国、九州)、中国、朝鮮半島 |
開花時期 | 4月~5月 |
花色 | 赤紫色、紫色 |
園芸分類 | 多年草、山野草 |
耐寒性 | あり |
オキナグサ(翁草)の名前と由来
綿毛が翁のようだから
オキナグサは、タンポポのような綿毛を付けて結実します。綿毛が集まっているさまが、老人の白髪のように見えることから、翁草(オキナグサ)と呼ばれるようになりました。「ネコグサ」「キツネコンコン」「ジイガヒゲ」「 善界草(ゼカイソウ)」など、地域独自の呼び名の多い植物です。
うつむいて咲く花
学名のPulsatillaはラテン語の「打つ、鳴る」で、「鐘」の意味が含まれます。cernuaには「頭を傾げる」の意味があり、どちらもうつ向きがちな開花の姿からきています。
絶滅危惧種
絶滅危惧種Ⅱ類
オキナグサは田んぼのあぜ道や草地で見られる身近な花でした。しかし、里山の開発や放置など、環境の変化や乱獲によって自生群落が減り、環境省のレッドリストでは「絶滅危惧種Ⅱ類」に指定されています。「Ⅰ類」ほどではないものの、「絶滅の危険が増大している種」ということです。都道府県単位では、「絶滅」「絶滅危惧種Ⅰ類」「同Ⅱ類」「準絶滅危惧種」、まだ群落が残っているなど、地域によって異なってきます。
保全と復元の取り組み
自治体や植物園などによって、群落保全や復元の取り組み、種の配布などの普及活動がときおり行われています。そうした機会に、愛らしい花に魅せられて写真に収めたり、ガーデニングに取り入れたりする人も少しずつ増えているようです。
オキナグサ(翁草)の特徴
花の特徴
うつむきに咲く
オキナグサは、ゴボウのような根を持つ多年草です。葉には切れこみがあり、枯れた状態で冬を越します。春になると若葉の間から花茎が10cmほど伸びて、開花します。6枚の花びらを付けていますが、花弁に見えるのは萼片(がくへん)です。うつむいて咲き始め、次第に上を向き、多数のおしべとめしべを覗かせます。全体的に細く白い毛につつまれていて、光の加減で幻想的に見えます。
綿毛と種
開花後に花茎が大きく伸びます。萼片が落ち、綿毛を付けた花柱の束があらわれます。綿毛のひとつひとつにそう果(種)ができ、風に飛ばされて仲間を増やします。
オキナグサ(翁草)が育つ環境
オキナグサは水はけと日当たりの良い環境に育ちます。なんらかの変化で長時間の影ができると生育が悪くなります。
オキナグサ(翁草)の毒性
可憐な花ですが、キンポウゲ科特有の毒性を全草に持っています。切り口から出る汁に触れると、炎症を起こすことがあります。誤って食すると嘔吐やけいれんを起こすほど危険ですので、気を付けましょう。
オキナグサ(翁草)の仲間・種類
カシポオキナグサ
カシポオキナグサ(学名:Pulsatilla sugawaraii)は、樺太に分布する小さな薄紫色の花です。草丈は15cmほどで、樺太原産のオキナグサの中では育てやすい種類です。「カシポ」は、分布地である樺太の樫保岳・突阻山にちなみます。学名の種小名sugawaraiiは、樺太の植物調査で知られる植物学者菅原繁蔵の名前が付けられています。
ルイコフイチゲ
ルイコフイチゲ(学名:Pulsatilla tatewakii )は樺太の寒冷地、北部のルイコフ(類古府)に分布するオキナグサの仲間です。絹毛に覆われた美しい青紫色の花がつつましやかに咲きます。カシポオキナグサとの見分け方は、カシポオキナグサは主に山岳に分布すること、ルイコフイチゲのほうが花が大きいこと、などです。学名の種小名tatewakiiは、植物学者の舘脇 操の名前です。
ヒトツバオキナグサ
ヒトツバオキナグサ(学名:Pulsatilla integrifolia)は、樺太の山岳に分布するオキナグサの仲間です。樺太原産のカシポオキナグサやルイコフイチゲとの見分け方は、葉の形です。葉に、他のオキナグサのような切れこみがなく楕円形をしているので、一ッ葉オキナグサの名前が付けられました。見つけにくく、幻の花と呼ばれていました。
ツクモグサ
ツクモグサ(学名:Pulsatilla nipponica)は、本州の一部の山岳と北海道に咲く、クリーム色の花です。販売されておらず、入手が困難な種類です。
セイヨウオキナグサ
セイヨウオキナグサ(プルサティラ・ブルガリス、学名:Pulsatilla vulgaris)は、オキナグサの近縁種類で、ヨーロッパの牧草地や日の当たる山林、石灰質の草原の斜面などに育ち、青紫色の花を咲かせます。イギリスでは、コッツウォルズ地方の群落が知られます。
赤や白の品種もある
赤い花のプルサティラ・ブルガリス・ルブラ(Pulsatilla vulgaris'Rubra')や、白い花のプルサティラ・ブルガリス・アルバ(Pulsatilla vulgaris'Alba')などの品種があります。セイヨウオキナグサの品種は園芸店やネットで販売されています。
オキナグサとセイヨウオキナグサの見分け方
セイヨウオキナグサと日本原産のオキナグサの見分け方は、花の大きさです。セイヨウオキナグサのほうが2倍くらい大きくなります。また、個体差はありますが、オキナグサは横向きに咲くのに対しセイヨウオキナグサは上向きに咲く傾向があります。
プルサティラ・ヴェルナリス
プルサティラ・ヴェルナリス(学名:Pulsatilla vernalis)は、アルプス地方の草原に分布し、毛におおわれた藤色の花を咲かせます。暑さには弱く、日本での栽培は夏越しが若干難しくなります。
ヒロハオキナグサ(白頭翁)
ヒロハオキナグサ(学名:Pulsatilla chinensis)は、ハクトウオウ(白頭翁)とも呼ばれる中国に分布するオキナグサの近縁種です。日本原産のオキナグサに比べると、葉がやや広いのが特徴です。
オキナグサ(翁草)の花言葉
「清純な心」「告げられぬ恋」「何も求めない」
オキナグサの花言葉は、「清純な心」「告げられぬ恋」「何も求めない」です。絹毛に包まれた姿は、清純なイメージですね。「告げられぬ恋」は、うつむきに咲く姿から来ています。また、風で種を飛ばすのは、見返りを求めない奉仕の精神を思わせます。
「裏切りの恋」
もう一つ、「裏切りの恋」という花言葉もあります。これは、上記3つの奥ゆかしいイメージとは対照的な印象をもった花言葉ですね。咲き始めはうつむいていたのに、気づけば上を向いている変化を、「裏切り」ととらえたのでしょう。
まとめ
オキナグサという名前も、咲いている姿も、魅力的な花ですね。自生群落は絶滅が危惧されていますが、種の配布イベントの他に、園芸店やネット通販で苗を手に入れることができます。多く流通しているわけではありませんので、どちらかというと、セイヨウオキナグサの品種のほうがよく販売され、入手しやすくなっています。日当たりのいい場所に植えてあげましょう。
翁(おきな)とは、爺さんのことじゃ。