彼岸花は赤だけではない?
ポピュラーなのは赤だけれど…?
彼岸花は、道端や田んぼなどあちこちでよく見かけられる花です。美しい反面、子ども時代に「毒があるから近づいてはいけない恐ろしい花」と教えられたり、怖い印象を受けたりした人も少なくないでしょう。目を奪われる美しさの赤い彼岸花は多くの人が知るところですが、実は彼岸花には白い色のものもあります。
ボタニ子
ボタ爺
白い彼岸花だけではないぞ!黄色やピンクの種類もあるんじゃ。
一般的な彼岸花の概要
彼岸花(Lycoris radiata)は別名、曼珠沙華(まんじゅしゃげ)やリコリスとも呼ばれています。9月半ばから末にかけて、まっすぐに伸びた30~50cmの茎から6枚の花びらをつけた花が5~6個、大きく手を広げるように咲くのが特徴です。一般的に彼岸花は赤が知られているものの、200種類以上の仲間があり、黄、ピンク、紫、白などの珍しい色の鼻緒を咲かせるものも存在します。
ボタニ子
繁殖力が強くて、北海道から沖縄まで日本全域にみられます。ちょうど日本のお彼岸のころに花を咲かせるから「彼岸花」と呼ばれているの。
ボタ爺
「曼珠沙華」や「狐のちょうちん」「地獄花」「花見ず葉見ず」など、呼び名が多いんじゃ。1000種類以上あるといわれているぞ!
ボタニ子
不吉な印象をあたえる花として嫌煙されることもあったみたい…。
球根で増える
日本でみられる彼岸花は、もともとこの国に自生しているものではなかったといわれます。中国から持ち込まれ、その数を増やしてきた花です。種子ではなく球根を分けて新しい個体をつくる「分球」といわれる方法で仲間を増やしてきました。
白い彼岸花の概要
暖かい地域に自生する
白い彼岸花(Lycoris albiflora)は、ヒガンバナ属の白花曼珠沙華(しろばなまんじゅしゃげ)と呼ばれる花です。白花曼珠沙華は、赤色の彼岸花と黄色の鍾馗水仙(しょうきずいせん)の自然交雑種といわれており、おもに九州などの暖かい地域に自生しています。その他の地域で見られるものは、人工的に植えられたものが多いです。開花時期は、彼岸花と同じ9月中旬~下旬です。
花びらの色合いはさまざま
花びらには、白い中に薄っすらとピンクが混ざるものや黄みがかったものなど、白以外の色もあります。色だけでなく花びらの形状も、フリル状に波打つものや、すらりと細いもの、幅広いものなど豊富です。
ボタニ子
白い彼岸花を見かけたときは、花びらの色合いにも注目してみると面白いね!
黄色い彼岸花の概要
鍾馗水仙(Lycoris traubii)は九州から四国に生息し、ヒガンバナ属の中では最も遅い9月から10月の時期に開花します。彼岸花よりも少し背の高い60cmほどの茎から黄色い花を咲かせます。花びらは彼岸花に比べ幅広く、リボンのように波打つふちが特徴です。基本的には他の種類と同じく球根によって数を増やしますが、染色体の種類によりごく稀に種子をつけるものもあるといわれています。赤い彼岸花と比べると鍾馗水仙には明るい印象があり、切り花や鉢植えとしても親しまれる花です。
白い彼岸花が白い理由
白くなる原因は「白色変種」
白い彼岸花はなぜ白いのでしょうか?彼岸花が白くなる原因は、彼岸花と鍾馗水仙の自然交雑による「白化変種」という遺伝子の変異によるものといわれています。赤の花と黄の花をかけ合わせた花の色が白くなることがあるのです。多くはその理由に疑問を感じるのではないでしょうか。
赤+黄=白?
たとえば、絵の具の赤と黄色を混ぜたときのことを想像すると、だいだい色、または赤と黄のマーブル模様の花びらができそうだと想像するでしょう。では、絵の具を混ぜたときと同じような法則は、彼岸花が白くなる理由にはあてはまらないのでしょうか?その理由は次のように言われています。
理由① 白化変種について
白花曼珠沙華が白くなる理由は、白化変種という遺伝子の異常からなるものといわれています。花を咲かせる顕花植物の中には、本来色のついた花を咲かせるはずであった花びらの色素がうまく形成されずに、白い花を咲かせる個体があるというのです。
理由② 遺伝子について
遺伝のしくみ
白化変種とはどんなものなのでしょうか?体の中の小さな単位、遺伝子について考えてみます。生きものはすべて、個体を形成するために必要なほとんどの遺伝情報をもつたんぱく質(DNA)と、その情報をコピーする役割のあるたんぱく質(RNA)を持っていて、その遺伝情報を実行することで個体を形づくり、次の世代へつなげていく性質をもっています。つまり、赤い彼岸花の球根から赤い彼岸花が咲く性質がこれにあたります。
遺伝の間違い
ところが、細胞分裂でDNAが複製される過程で、情報が正しくコピーされない間違いがたまに起こるそうです。そこで間違った遺伝子情報は、できあがっていくDNAの鎖の中に組み込まれたままそれ以後の世代でずっとコピーされ続けるそうです。
色素の形成異常
同じように、シロバナマンジュシャゲもDNA変化により色素の形成異常が起きてつくられた花だと考えられています。このようにしてDNAの変化が新しいものを生むのです。誕生のルーツを知ると、色の白さが珍しいだけでなく、白い彼岸花そのものがすごく貴重な存在に思えてきますね。
偶然が新しさを引き出す
変異は、DNAのヌクレオチドに起こる偶発的な変化です。細胞分裂でDNAが複製されるとき、誤植のような間違いがたまに起こります。間違ったヌクレオチドは、できあがっていくDNAの鎖の中に組み込まれます。この間違いは、それ以後の時代でずっとコピーされ続けます。
白い彼岸花は珍しい?
白い彼岸花、白花曼珠沙華は珍しい花なのでしょうか?じつは、珍しい説、珍しくない説の両方があるのです。続いて、それぞれの角度から説明していきます。
①白い彼岸花は珍しい説
白い個体は標的となりやすい
まずはじめに、白い個体についてのこんな話を紹介します。動物においても植物においても、遺伝子情報の伝達以上によって色素が失われるという現象がときどき起こります。動物において、白い個体は色が目立つため周りの景色に溶け込むことができず、敵から見つかってしまいます。それにより標的となりやすく、子どものころに死んでしまうことが多いといわれるのです。
白い個体は繁殖能力が低い
また、白い個体は色素のある個体に比べて繁殖能力が低く、子孫を増やしにくいそうです。同じように、自生する白花曼珠沙華においても、赤い彼岸花に比べると個体を増やす力が弱いため数が少なく、珍しい花であるといえます。
②白い彼岸花は珍しくない説
九州では群生するものもある
専門家の中には、白い彼岸花はさほど珍しいものではないという意見もあります。先に述べたように、「日本の植物学の父」とよばれる牧野富太郎氏の話に、白花曼珠沙華の記録がありました。関東では自生している白花曼珠沙華はほとんどみられないといわれていますが、九州においては群生しているものもあり、それほど珍しいものではないともいわれているそうです。
赤いイメージが強かったけど、白もあるのね。やっぱり危険な花なのかな…?