アズマイチゲとはどんな花?
アズマイチゲの基本情報
学名 | Anemone raddeana |
属性 | キンポウゲ科イチリンソウ属 |
分類 | 多年草の山野草 |
生息場所 | 北海道から九州までの山地や山麓 |
開花時期 | 3月~5月 |
草丈 | 15~20cm |
アズマイチゲは山の木々が芽吹く早春の頃に咲く山野草です。日本では北海道から九州までの山地や里山の林の中の日当たりのいい場所で見ることができます。背丈は20cmほどで2~3cmの大きさの可憐な白い花が咲きます。花は3~5月まで咲いて、そのあとは地上部は枯れてしまって地中の地下茎として翌年の春まで休眠します。つまりアズマイチゲは短い間しかその姿を見ることができない種類の花だということですね。
アズマイチゲの名前の由来
アズマイチゲは漢字で「東一華」と表記します。この花が東日本で発見されたことと、1本の茎に1輪だけ咲く花、いうことから東一華(アズマイチゲ)と呼ばれるようになりました。その後、西日本にも分布していることが判明して、今では北海道から九州までの主に太平洋側にたくさん見られるようになりました。
別名は「雨降花」
また、アズマイチゲは別名「雨降花」と呼ばれています。花を摘み取ると雨が降るという説があるからだとか。確かに花が咲く3~4月頃はもともと雨が多いということもあります。でも、せっかく咲いた可憐な野草を摘み取らないように…という優しい心遣いも感じる別名だと思いませんか?昔から愛されて大切に守られた花だということですね。
スプリング・エフェメラル
また、アズマイチゲのように早春に開花した後、葉を枯らして地上部はなくなってしまい、あとは地下で過ごすという特徴を持つ種類の野草を「スプリング・エフェラメル(春の妖精)」と総称します。直訳すると「春のはかないもの」「春の短い命」という意味です。アズマイチゲの花の命は短いけれど、白い小さな花が妖精のようで、可憐に咲く花姿にこの呼び名はぴったりですね。
アズマイチゲの特徴
花の特徴
アズマイチゲの花の大きさは2~3cmで、色は白色です。一つの茎に一輪だけ花を咲かせます。つぼみから咲き始めまではうつ向きがちに咲いていますが、咲き開くとともに上向きに花びらを開きます。花びらは細くとがった形で8~13枚ほどあって、菊の花にも似ていますね。
花びらは実はガク?
この白い花びらは、実はガクが変化して花びらのようになったものなのです。キンポウゲ科の種類には、このようにガクが花びらのように変化しているものが多く見られます。では本来の花びらはどこへ行ってしまったのでしょうか?花びらがしべのようなものに変化する種類もあるのですが、アズマイチゲの花びらは退化して無くなっています。
葉の特徴
アズマイチゲの葉は茎に3枚付いています。楕円形の葉の先に柔らかく2ヵ所の切れ込みが入っていて3つに分かれているのが大きな特徴で、葉の先は少し垂れ下がっています。
アズマイチゲの仲間との見分け方
アズマイチゲと同じイチリンソウ属の種類には、イチリンソウ、キクザキイチゲ、ハクサンイチゲ、ヒメイチゲ、ユキワリイチゲなどがあります。ここではよく知られているイチリンソウとキクザキイチゲを取り上げて、それぞれの特徴とアズマイチゲとの見分け方について説明します。
イチリンソウとの見分け方
イチリンソウの特徴
イチリンソウは名前のとおり、1本の茎に1輪の白い花を咲かせます。草丈は20~30cmで、開花時期は4~5月です。北海道以外の本州から九州にかてけ生息し、人里の林などでもよく見かけられるので身近で親しみのある草花ですね。イチリンソウと同じ種類のニリンソウもよく見かける花ですが、こちらは1本の茎に2輪花が咲くのが大きな違いです。
アズマイチゲとイチリンソウとの違い
アズマイチゲとイチリンソウでは葉の形が全く違うのですが、つぼみや咲き始めの花の様子はよく似ていて見分けがつかないことがあります。ただ、咲き開くと花びらの形も数も全く違うので見分けるのは簡単です。見分け方は次の通りです。
アズマイチゲ | イチリンソウ | |
花の形 | 細くてとがった形 | 丸い形 |
花びらの枚数 | 8~13枚 | 5枚 |
葉の形 | 楕円形に2ヵ所の浅い切れ込み | 多数の深い切れ込み |
開花時期 | 3~5月 | 4~5月 |
生息地 | 北海道~九州 | 北海道以外の本州~九州 |
キクザキイチゲとの見分け方
キクザキイチゲの特徴
キクザキイチゲも1本の茎に1輪の花を咲かせます。花が菊に似ているのでこの名前が付きました。背丈は15~20cmで、開花時期は4~6月です。近畿地方より北の本州から北海道にかけて生息します。花の色は白色と紫色の2色があります。
アズマイチゲとキクザキイチゲの違い
アズマイチゲとキクザキイチゲはとても似ているのでよく間違えることがあります。ただ葉の形が全く違うので、葉を見れば容易に見分けることができます。葉の形以外の違いは次の通りです。
アズマイチゲ | キクザキイチゲ | |
葉の形 | 楕円形に2ヵ所の浅い切れ込み | 多数の深い切れ込み |
花の色 | 白のみ | 白と紫 |
開花時期 | 3~5月 | 4月~6月 |
生息地 | 北海道~九州 | 北海道~近畿地方以北の本州 |
アズマイチゲの育て方
育て方① 栽培環境
アズマイチゲのような山野草の種類は、高温多湿な場所は栽培に向いていません。春は日当たりが良くて夏には半日陰になるようなところが最適な栽培場所と言えます。そのため、庭に地植えする場合は、落葉樹などの根元に植えるといいでしょう。どちらかというと鉢植えで栽培する方が、季節によって置き場所を変えられるのでおすすめです。
育て方② 用土
アズマイチゲの栽培に適した土は、通気性と排水性がよく、保水性も必要です。赤玉土小粒5、鹿沼土小粒4、軽石小粒1の割合で配合した用土で栽培しましょう。園芸店に行くと、山野草の土というブレンド用土もあるので、それを使うと便利です。
育て方③ 水やり
山野草に属する種類の植物は多湿を嫌うので、水のやり過ぎには注意しましょう。花が咲いて葉が出ている間は毎朝1回水を与えます。その後、地上部が枯れて休眠したら水やりは控えめにして、表面が乾いていたら適度に与える程度で栽培しましょう。
育て方④ 肥料
アズマイチゲはさほど肥料を必要とはしません。植え込むときに元肥として少量の緩効性化学肥料を混ぜ込みます。その後は追肥として、花が咲いている間から地上部が枯れるまでの3~5月に、液体肥料を2週間に1回程度与えましょう。
育て方⑤ 増やし方
株分けする
株分けは夏から秋にかけての休眠期間中に行います。花が咲き終わって地上の葉も枯れてなくなった頃、そっと株を掘り起こししましょう。地中に茎のような根があるので、枝分かれして伸びている部分を折って株分けすることができます。根が傷むと花が咲かなくなることがあるので、できるだけ根を傷つけないように気をつけてください。
種まきする
一度にたくさん増やしたい場合は種まきをお勧めします。種は花が咲き終わった後にできるので採取して土にまき、上に5mmほど土をかぶせておきます。発芽までは1年近くかかるので、乾燥しないように気をつけながら暗い場所で管理してください。ただ発芽に成功しても、苗が十分育って花が咲くまでには数年かかるので、開花を見ることができるまでしばらく待つことを覚悟して、気長に栽培しましょう。
アズマイチゲの群生地
岡山県美作市河会
ここはテレビでも放送されたことがあって、開花時期にはたくさんの人が訪れるアズマイチゲの有名な群生地です。山すその半日陰地一面にアズマイチゲが自生していて、地元の「河内の山草会」が保護活動をしています。
<アクセス>
電車・バス : JR姫新線林野駅より岡山行きバス乗車、福本下車、車10分
車 : 中国道美作ICから35分
長野県上伊那郡辰野町
長野県の辰野町にあるアズマイチゲの群生地は、福寿草の群生地としても有名です。この辰野町の町花が「福寿草」ということで、一帯の山野草では地元の「上島里山の自然を愛する会」が保護活動を行っています。近くには日本最古(1505年)の道祖神があり、そのそばにもアズマイチゲ群生地があります。
<アクセス>
電車 : 中央本線辰野駅からタクシーで15分または徒歩40分
車 : 中央自動車道伊北ICから20分
東京都奥多摩町梅沢
都内からアクセスのいい奥多摩梅沢にもアズマイチゲの群生地があります。ここはカタクリの群生地としても有名です。ビジターセンターに詳しいマップもあるので訊ねてみてください。
<アクセス>
電車 : JR青梅線奥多摩駅下車
車 : 圏央道青梅ICから60分
まとめ
いかがでしたか?まだ雪解けしたばかりの山間で、春の訪れを告げるように咲くアズマイチゲの魅力をおわかりいただけたでしょうか。みなさんもぜひこの春の妖精に会いに、各地の群生地へ出かけてみてください。可憐な花が一面に咲く姿に、きっと心ひかれることでしょう。