カエンタケの概要
カエンタケは梅雨の終わりの初夏~秋にかけて、ブナやナラ、͡コナラなどの広葉樹林や、倒木が多い場所に発生するキノコです。円柱形の指のような形をしたキノコで、濃いオレンジ色~濃い赤色まで個体差があります。先端は丸くなっていたりとがっていたりしますが、にわとりのとさかや大和芋、ふっくらした人の手のように枝分かれするのが特徴です。
ボタニ子
ボタ爺
カエンタケは硬いキノコでの、中はみっちり詰まっていて白いんだな。表面には胞子を作るための器官「子嚢殻(しのうかく)」が埋まってるぞ。
ボタニ子
もともとは発生するのが珍しい、希少種だったのよ。
基本情報
学名 | Podostroma cornu-damae |
科属 | ボタンタケ目ボタンタケ科トリコデルマ属 |
大きさ | 約3cm~8cm |
色 | オレンジ、濃いオレンジ、赤、濃い赤など |
発生時期 | 初夏~秋 |
分布 | 日本、ジャワ、朝鮮半島、オーストラリア(亜種) |
英名 | trichoderma cornu-damae |
和名 | 火炎茸、火焔茸、カエンダケ |
カエンタケに触るとどうなるか
カエンタケは強い毒性をもつ猛毒キノコです。カエンタケのほかに毒キノコと呼ばれ、食べると死に至るキノコは複数存在しますが、触るだけなら被害はありません。しかし、カエンタケは触るだけでも毒成分が皮膚から体に入りこむ唯一のキノコです。万が一触ったら、すぐに流水で洗いましょう。せっけんや洗剤でよく洗うのもよい方法です。
ボタニ子
たとえすぐに洗い流したり症状が出なかったりしても、できるだけ早く医療機関に行ったほうがいいわ。カエンタケの毒はとても危険よ。
ボタ爺
時間が経過すればするほど、皮膚から体内に毒成分が入りこむ可能性があるぞ。触るなんてしちゃいかん。
症状
カエンタケの汁は皮膚を刺激する毒性が強く、触るとただれたり、かぶれたりして、火傷のような状態になる可能性があります。ただれやかぶれが治っても、痕になることも少なくありません。人によってはカエンタケに触っても害がなかったという話もありますが、猛毒キノコなのは変わりないため、興味本位に触るのはやめましょう。
ボタニ子
カエンタケの老菌は赤い色がなくなって、紫色や茶色に変色するの。そのとき表面に粉がふくのよ。
ボタ爺
この粉がカエンタケの胞子だぞ。この胞子にも毒があるんだの。
ボタニ子
胞子にも毒があるなんて、近寄らないほうがいいわね。吸い込んだり目に入ったりしたら大ごとよ。
毒の種類
カエンタケの毒成分はトリコテセン類で、サトラトキシンHやベルカリンJ、ロリジンなどが含まれます。これらの毒成分は、消化器系、呼吸系、腎臓、肝臓、脳、血液などほぼすべての体の機能に影響するのが特徴です。とくに摂取後時間がたつにつれて治療が難しくなり、死亡例もあります。治療できたとしても後遺症が残ることが多いようです。
ボタニ子
影響しているだろうとわかっていても、毒自体はきちんと解明されていないの。だから解毒剤はないのよ。
ボタ爺
治療といっても解毒剤がないから、初期は胃や小腸の洗浄などだの。血液に毒がまわってしまったら、血液透析しなくてはならん。
ボタニ子
話を聞くだけでも怖いわ。とにかく猛毒のキノコってことだけはきちんと覚えておかないとね。
致死量
カエンタケの致死量には個人差がありますが、約3gといわれています。先を2cm食べただけで、重篤な中毒症状を起こした例もあります。カエンタケ摂取後、数十分で下痢、嘔吐、腹痛といった症状があらわれるようです。さらに時間の経過とともに、寒気、四肢のしびれ、喉の渇きや痛み、発熱などがあらわれますが、これは多くの臓器が中毒症状によりダメージを受けた結果です。
ボタニ子
カエンタケを食べると腎不全や肝不全、呼吸器不全や小脳の萎縮が起こり、最悪は亡くなるわ。治療が間に合っても、後遺症が残るの。
ボタ爺
ほかの臓器は治っても、脳細胞は一度壊れたら復活しないといわれておる。カエンタケはやばいキノコだから、食べるなんてもってのほかじゃよ。
ボタニ子
粘膜びらんといって、粘膜の表面が損傷する口内炎みたいな状態になるのよ。手足や頭の皮がむけたり、脱毛したりするらしいわ。
カエンタケと似ている種類のキノコ
カエンタケは色といい、形といいとても美味しそうには見えないキノコですが、酒や水に漬けたものの誤飲や誤食する人がいます。それは、似た形の食べられるキノコと間違ったという例が多いようです。カエンタケとの見分け方や特徴を知っておけば、誤食を避けられます。わからない場合は食べない、キノコのエキスパートと一緒にキノコ狩りに出かけるなどの対策が必要です。
ベニナギナタタケ
ベニナギナタタケはシロソウメンタケ科のキノコで、全体が赤く細長いのが特徴です。カエンタケの先が枝分かれするのに対して、ベニナギナタタケは1本で枝分かれしません。カエンタケは中が白いキノコですが、ベニナギナタタケは中も薄いピンク~濃い赤色をしています。カエンタケは硬く、ベニナギナタタケはやわらかいです。
キソウメンタケ
カエンタケは赤いイメージですが個体差があり、濃い黄色やオレンジ色のものもあります。間違われやすいのがキソウメンタケです。キソウメンタケとカエンタケの大きな違いは、カエンタケは硬く白い中身が詰まっていて、キソウメンタケの中は空洞なことです。ベニナギナタタケと同じように1本ずつ自生しますが、ごくまれに枝分かれする個体もあるようです。
カエンタケは繁殖しているか
本来カエンタケはめったに発生しない、レアな種類のキノコでした。近年、日本全国で発見報告され、各自治体が見つけても触らないようにと注意喚起しています。大阪や京都など関西圏で大量発生しており、新潟では死亡例もありました。カエンタケの発生する場所や条件を知ると、今後の対策のヒントになるかもしれません。
繁殖の原因①カエンタケの発生地
カエンタケはナラやブナなどの広葉樹林や、ブナ科樹木萎凋病(ぶなかじゅもくいちょうびょう)という、樹の伝染病に侵されて枯れた木の周りに発生します。これは通称ナラ枯れと呼ばれ、カシノナガキクイムシが病原菌であるナラ菌を運んで広げるのが原因です。ナラ枯れした樹木が多い土地とカエンタケの大量発生地が一致するというデータが出ています。
繁殖の原因②環境の変化
里山で自然と人が共存していたときは、薪や炭のために適度に近隣の樹木を伐採していました。現在では放置された雑木林が増え、倒木もそのままの状態で朽ちることも少なくありません。そういった倒木が多い場所にカシノナガキクイムシが大量発生し、全国にナラ枯れが広がったとされます。人間と自然との付き合い方の変化が、カエンタケの大量発生の原因といわれます。
繁殖の原因③カエンタケの生態
キノコには、枯れた葉や樹を栄養にして自然に返す、木材腐朽菌(もくざいふきゅうきん)と、ほかの菌から栄養をもらって育つ菌寄生菌があります。カエンタケは後者の菌寄生菌です。ナラ枯れで倒れた樹木の近くに大量発生するため、原因であるナラ菌から栄養をもらって繁殖している可能性があるとされています。
カエンタケを見つけたら
もしもカエンタケを見つけたら、触らず、近づかずそっとしておきましょう。確かに毒のあるキノコですが、能動的に害をなすわけではありません。色もきれいで形も面白いキノコです。遠くから観賞する分には安全です。発見したら保健所に連絡をしてほしい、という自治体の場合は連絡を入れましょう。
カエンタケの表面には光沢があって、ぬれてるみたいに見えるの。命が尽きるころになると赤い色がなくなるのよ。