イヌノフグリとは
イヌノフグリは日本や東南アジアに分布する植物です。日本では本州から沖縄まで見られる一年草ですが、あまり寒くない土地では葉が枯れずに冬越しします。外国から入ってきたオオイヌノフグリの方がイヌノフグリよりも繁殖力が強いため、本来日本で見られていたイヌノフグリは以前より少なくなってきています。それでも早春には道ばたや空き地、土手、畑などに群れて開花している様子が見られます。
イヌノフグリの基本情報
名前 |
イヌノフグリ |
学名 |
Veronica polita var. lilacina |
分類 |
オオバコ科クワガタソウ属 |
分布 |
日本、東アジア |
形態 |
1年草、多くは越冬する |
草丈 |
10~20cm |
開花時期 |
3~4月 |
イヌノフグリの特徴
外来種に生育をはばまれて減少してきているイヌノフグリ。どんな植物なのか、その特徴についてご説明します。形態や開花時期、花言葉、その種類や仲間などについて触れていきます。
イヌノフグリの茎
イヌノフグリは高さ10~20cmほどに生長します。上へ伸びるのではなく、横へ横へと広がっていく匍匐性です。茎は株の付け根で枝分かれし、広がり、先端部分は斜めに上がります。よく見ると、茎には非常に小さな毛がまだらに生えています。
イヌノフグリの葉
茎の下の方では葉は左右1枚ずつ、対生してつきますが、茎の上の方だとたがいちがいに葉が付きます。葉の長さや幅は4~11cmの楕円形をしており、下の方の葉は大きいですが上に行くほど小さくなっていきます。葉の裏にも表にもまだらに毛が生えており、葉の縁にはそれほど鋭くはありませんがギザギザとした刻みがあります。
イヌノフグリの花・開花時期
葉の付け根、いわゆる葉腋に1つだけ花芽ができます。花びらは4枚で、直径3~5mmの小さな花を咲かせます。花びら全体はごく淡いピンク色をしており、赤紫色の縦筋が何本か入っています。日当たりがよいと花びらが開きますが、日が陰るとしぼんでしまいます。気候や場所にもよりますが、開花時期は早春、3~4月です。
イヌノフグリの果実
果実は一つ長さ5mm程度の小さな果実です。細かい毛に覆われた小さな丸い実が2つ付くのが特徴です。二つ並んでいるので花より大きく、1cmくらいになります。熟すにつれだんだんと実が縦に割れて中から種子が出てきます。薄い茶色で真ん中がくぼんだ小さな種子が実の中に数個ずつ入っています。
イヌノフグリの名前の由来・意味
イヌノフグリの果実は小さな丸い球が二つくっついている形になっています。その形状が犬の陰嚢に似ていることから、イヌノフグリ(犬のふぐり)と名付けられました。「ふぐり」とは昔の日本での陰嚢の呼び方です。「ふ」は袋または袋状のものを意味し、形が栗に似ているというところから「くり」。この「ふ」と「くり」、二つの言葉を合わせて袋状の栗、つまり俗称として陰嚢のことを「ふぐり」と読んでいました。
イヌノフグリの花言葉
「信頼」「女性の誠実」
イヌノフグリの学名はクワガタソウ属のベロニカ(Veronica)です。ベロニカの仲間は日本や東アジアにも分布していますが、世界に500種類ほどあるベロニカのうち、その大半がヨーロッパ原産の植物です。日本ではヨーロッパで育つベロニカの花言葉をそのまま和訳し、イヌノフグリの花言葉としています。
ヨーロッパでの花言葉の由来
イヌノフグリの学名ベロニカはヨーロッパでよく聞かれる女性の名前です。キリスト教ではイエスが処刑場に向かうとき、ベロニカという女性がそばに行きイエスの額の汗と血をベールで拭ってあげました。勇敢な行動をしたベロニカにちなんで「信頼」「女性の誠実」といった花言葉がつけられました。ちなみに、花を正面から見るとイエスの顔が浮かぶといわれています。
イヌノフグリの仲間
日本に分布するイヌノフグリ。イヌノフグリはもともと日本だけに育つ品種ではなく大陸からやってきた植物だと考えられています。いまはヨーロッパなどから日本に入ってきた同じ仲間の植物が生長し、わたしたちが住んでいる地域にも見られるようになっています。そんなイヌノフグリの仲間をご紹介しましょう。
オオイヌノフグリ
もともとはヨーロッパ原産の植物で日本だけでなくアジアやアメリカなどに広がった帰化植物です。日本では明治ごろヨーロッパからやってきて日本全土に広がったようで、今やイヌノフグリより分布は大きく、春の代表的な野草の一つになっています。春、群生し、濃い水色の花をいっぱい咲かせます。別名「瑠璃唐草」「天人唐草」とも呼ばれ、同じ花色のネモフィラと間違われることもあります。
タチイヌノフグリ
ヨーロッパ、ユーラシア、アフリカ原産で、明治ごろに日本にやってきて広がった植物です。今では日本各地で見られます。イヌノフグリと異なり、茎が立っているのが特徴的で、草丈は10~30cmです。葉の付け根、いわゆる葉腋に1つ花をつけ、花の大きさは直径4mmくらいになります。花色は通常青ですが中には白花やピンク色の花も見られるようです。花柄はほとんどなく、萼(がく)の中に埋まったように咲きます。
コゴメイヌノフグリ
ヨーロッパ原産です。1960年ごろ、ヨーロッパから持ち込まれ、東京の小石川植物園で栽培、研究されていました。その種子が園内に広がり、さらに都内にも広がっていったとされています。外来種でもそれほど古くから日本に生育する植物ではありませんが、繁殖力が強く、いずれは日本各地に広がると予想されています。花は直径5mmくらいの白い花で、花以外の特徴はイヌノフグリと似ています。
フラサバソウ
イヌノフグリと同じ属ですが、ヨーロッパ原産です。明治時代くらいに日本に入ってきたようで、日本各地で見られます。ツタバイヌノフグリとも呼ばれています。草丈10~30cmほどで、暖かい場所ではそのままの状態で冬を越します。花は直径5mmくらいで薄紫色、葉はイヌノフグリより大きな刻みが入り、全体に白く長い軟毛で覆われています。果実の形状はイヌノフグリの果実とよく似ています。
コイヌノフグリ
オオイヌノフグリに似たタチイヌノフグリを俗称としてコイヌノフグリと呼ぶ地域があるようですが、正式にはコイヌノフグリは存在しません。また、オオイヌノフグリより小さい種類のイヌノフグリをコイヌノフグリと呼ぶ人もいますが、それも地域の俗称のようなもので、実際にはそのような品種は見られません。
オオイヌノフグリとの違い
外来種のオオイヌノフグリですが、こちらの方が花が青く上を向いて大きく開いて咲くため群生しているとよく目立ち、日本古来の春の野草であるといわれがちです。日本原産のイヌノフグリと外来種のオオイヌノフグリ、異なる点をあげてみましょう。
花
イヌノフグリの花はごく淡いピンクに赤紫の筋がありますが、オオイヌノフグリは濃い水色から青色の花です。イヌノフグリの花の直径は3~5mmであまり開かずひっそり咲くのに比べ、オオイヌノフグリの花は直径8~10mmと倍くらい大きく、上を向いて大きく開いて咲きます。どちらも群れて咲きますが、青い花のオオイヌノフグリの方が圧倒的に目立ちます。
果実
名前の由来になったように、イヌノフグリの果実は小さな実が2つつながっていますが、オオイヌノフグリの果実は平たいハート型をしています。そしてイヌノフグリは実の中に数個しか種子が入っていませんが、オオイヌノフグリの一つの実には約20粒の種子が入っていることから、繁殖力の強さをうかがえます。
まとめ
春に鮮やかな青花を咲かせるのは外来種のオオイヌノフグリ。それより小さく、淡いピンクに紫色の筋が入った花を咲かせる品種が日本に昔から生育するイヌノフグリ。外来種におされ、減少しているイヌノフグリですが、郊外や野山を散策するときなどちょっと足を止めて道端にイヌノフグリの花を探してみると散策がより楽しくなりますね。
出典:写真AC