マムシグサ(蝮草)とは?
筒状の大きな苞(葉の変形したもの)をもつ多年草のマムシグサ(蝮草)は、日本の広い地域に自生しています。
基本情報
名前 | マムシグサ |
和名 | 蝮草 |
学名 | Arisaema serratum |
分類 | サトイモ科:テンナンショウ属 多年草 |
草丈 | 50cm~60cm |
開花時期 | 4月~6月 |
原産地と日本での自生場所
日本や中国を原産とする野草です。日本でよく見られるのは北海道~九州地方で、起伏のある山地の谷沿いや人の手が入らない原野の湿り気が多い場所に自生しています。木々が生い茂り日の当たらない場所は好まず、木漏れ日が差すような明るい場所を好む傾向にあります。
マムシグサ(蝮草)の特徴
特徴①葉
葉は鳥の足を思わせる鳥足状複葉になり、扇状に開いた小葉が7枚~15枚ほどつきます。葉色は緑色のなかにうっすらと黄緑色のまだらと弱い光沢があり、くっきりとした葉脈が浮かびます。形は細長い楕円形でふちがゆるやかにウェーブし、葉先は尖っています。
特徴②花
長い茎の先にひとつの花を咲かせます。筒状の花のように見えるものは変形した葉で「仏炎苞(ブツエンホウ)」呼び、仏炎苞の中に長い花「肉穂花序(ニクスイカジョ)」があります。仏炎苞をもつ花を咲かせるものにはサトイモ科の植物が多く、ミズバショウもそのひとつです。マムシグサの仏炎苞は緑色のなかに白い筋があり、色は緑だけでなく紫など自生地の環境によって変わる地理的変異の性質をもっています。
雌雄異株
花は雌花と雄花に分かれた雌雄異株です。受粉はまず雄花が放つ花の香りに誘われたハエが苞のなかに入り、つるりとした苞の壁にはばまれて外にでられなくなったハエが動き回った結果、体中に花粉がつきます。雄花には一ヶ所だけ外にでられる穴が開いており、そこからようやく外にでたハエが雌花のなかに入って花粉を運び受粉を完了させます。
マムシグサの性転換
マムシグサは雄株から雌株へ、または雌株から雄株へと性転換する植物として知られています。性転換は環境に左右される傾向にあり、気温や日当たりなどよい生育環境で雄株から雌株に変わり、反対に雌株が悪い生育環境において抵抗できる雄株へと変化して環境に適応し種を残します。
特徴③実
6月以降、花がおわるとトウモロコシのような粒状の実を肉穂花序にたくさんつけます。実はツヤがあり、はじめのうち緑色で完熟すると鮮やかなだいだい色に変わります。
実は食べられる?
実の食用はおすすめしません。指で潰すと汁がでるほど完熟すれば甘みがあり食べることもできますが、口のなかに残る嫌な青臭さも強く美味しいとはいえません。また熟す前の青い状態では毒性が強く、食用自体できないので食べないようにしましょう。
特徴④球根
球根は大きめのチューリップの球根といった形で、土のついている状態だとサトイモに似て見分けがつかないほどです。(まちがえて食べてしまった人がいるほど似ています!)成長すると人のこぶし大になります。根っこは球根の下から生えず、球根と茎の付け根部分から茎を一周するように生えます。
特徴⑤毒性
実でも解説したようにマムシグサは毒をもつ植物です。おもに葉・実・球根に多く毒をもっていて、「シュウ酸カルシウム」と呼ばれる針状結晶と、「サポニン」と呼ばれる界面活性作用をもつ毒を含んでいます。シュウ酸カルシウムを口に含むと口内中からのどまで突き刺すような鋭い痛みにおそわれ、サポニンは細胞の膜を破壊します。痛みが回復するまで長い時間が必要で、そのあいだ嚥下するのも困難なほど体に大きなダメージや不調がつづきます。
毒抜き
マムシグサの球根を焼いて潰し、こし袋などに入れてなんども水にさらすと毒抜きができます。毒抜きしたものを食用にする人もいますが、毒が抜ききらないこともあるのでやはり食用はおすすめしません。
つぎのページでは、名前の由来を紹介します。
マムシグサ(蝮草)の名前の由来
由来
和名の「蝮草(マムシグサ)」は茎の模様が名前の由来になっています。画像左はマムシグサの茎ですが、表面に茶褐色(または褐紫色)のまだら模様があります。その色や模様が画像右の「蝮(マムシ)」の表皮に似ていることから名前がつけられました。
色や模様のほかにも
茎の太さが若いマムシの太さに近く、前倒れに曲がった仏炎苞のすがたが「かま首をもたげているヘビ」に似ていることも由来になっています。また、マムシグサの自生地がマムシの住んでいそうなじめじめした湿度の高い場所であることもそのひとつです。
マムシグサ(蝮草)とウラシマソウ(浦島草)の違い
ウラシマソウ(浦島草)の特徴
名前 | ウラシマソウ |
和名 | 浦島草 |
学名 | Arisaema urashima |
分類 | サトイモ科:テンナンショウ属 多年草 |
草丈 | 30cm~80cm |
開花時期 | 4月~5月 |
特徴①原産地と自生地
日本原産の植物で、本州や四国に多くみられます。日光があたる林のふちや、木漏れ日がちらちらと降りそそぐ林のなかに自生します。
特徴②葉
葉はマムシグサと同じように鳥足状複葉で、葉柄につく小葉の数は11枚~17枚、ふちの波数が細かく多いのが特徴です。
特徴③花
仏炎苞は色が濃い紫色(または茶褐色や緑色)で、苞の先が前のめりにカーブします。筒の部分はベースの白に細かな点が連なった線状模様があり、なかに黒紫色の肉穂花序があります。ウラシマソウの肉穂花序の先は細く長くなるのが特徴で、和名「浦島草」も浦島太郎が使っている釣竿に見立てて名前がつけられています。
特徴④実
開花後、肉穂花序に真っ赤な実が整然と並んでつきます。見た目はウラシマソウもトウモロコシのようです。
特徴⑤毒性
「シュウ酸カルシウム」と「サポニン」を株全体に含んでいます。マムシグサと同じく毒抜きの方法もありますが、食用はやめたほうがよいでしょう。
違いと見分け方
茎の模様と肉穂花序の違い
茎の模様と肉穂花序に違いがあります。マムシグサの茎の模様は全体にわたってつき色も濃いのに対して、ウラシマソウは全体ではなく花茎や茎の根元のほうに模様がでます。色も緑色の部分が多く、模様は細かな点状です。肉穂花序はマムシグサが円筒形のままその形を変えませんが、ウラシマソウの肉穂花序の先は長く伸びて苞から飛びだすため見分け方の大きなポイントになります。
見分け方まとめ
- マムシグサは茎全体に模様がつき色も濃く、ウラシマソウは花茎や茎の根元に模様がつき模様は点状。
- マムシグサは肉穂花序の先が伸びず、ウラシマソウは肉穂花序の先が長く伸びて外にでる。
まとめ
草丈が60cmほどになる背の高い植物「マムシグサ」は、日本を原産のひとつとしています。茎の柄模様や苞の形が爬虫類のマムシにそっくりで、育つ場所もマムシの生息場所に近いことから和名が「蝮草」に。葉・実・球根には食べると体にダメージを与える毒性の強い植物でもあり、よく似ている植物「ウラシマソウ」との見分け方は、茎の模様と肉穂花序の違いで見分けることができます。森のなかで観察するときはマムシに注意して観察してくださいね。
出典:写真AC