クサノオウとは
クサノオウとはユーラシア大陸及びその周辺地域、北アメリカの広い地域に分布するケシ科の越年草です。クサノオウは秋に種ができ、その種は散布されてからすぐに発芽します。その後地中に根を張り、地面に添うように葉を広げてそのまま越冬するのです。日本では沖縄を除き、北海道から九州まで広く分布しています。荒れ地や道端で見かける雑草と何ら変わりないように見えますが、その薬効の高さは古くから評価されています。
クサノオウの名前の由来
「クサノオウ」という少し変わった名前を持つこの植物ですが、何故クサノオウと呼ばれるようになったかについては確かな定説はありません。また、クサノオウは地方名が多い植物でもあります。広い分布を持つことも理由の一つに挙げられます。ここではクサノオウの呼び名について、その名前の由来といわれていることやどんな地方名があるのかに触れていきます。
クサノオウの名前の由来①クサノオウ
名前の多いクサノオウですが、「クサノオウ」という音にもさまざまな漢字があてられています。「草の王」「瘡(くさ)の王」などが有名です。これはクサノオウが持つ薬効(やっこう)が皮膚病に効くとされていたため、薬草としての効果の高さから薬草の王とされたり、皮膚病を表す瘡(くさ)という字をあてられたりしたものといわれています。また、クサノオウを傷つけると黄色い液体が出ることから「草の黄」とも呼ばれます。
クサノオウの名前の由来②さまざまな地方名
クサノオウ以外の呼ばれ方としてはタムシグサ、イボクサ、ヒゼングサ、チドメグサなど、その呼ばれ方は地域によってさまざまです。その多くは皮膚病の外用薬として使われたことに由来するといわれています。また、生薬としては白屈菜(はっくつさい)と呼ばれています。そして、学名はギリシャ語のツバメに由来しますが、これは母ツバメが子ツバメの視力を高めるために使ったという伝承によるのです。実際にツバメが使ったかどうかはわかりませんが、クサノオウの薬効の高さを示すエピソードといえます。
クサノオウの特徴
クサノオウは人里に生える野草の一つです。秋に芽吹き、冬を越えたクサノオウは春になると真っ直ぐな茎を伸ばし、40~80cmに育ちます。一見、雑草と変わらないクサノオウはその薬効や毒性、名前の多さの他に単に植物としても珍しい特徴を持っています。ここではそれらの特徴に触れていきます。
クサノオウの特徴①花
クサノオウの花は、直系は2cmほどの黄色い小さな花です。多数の黄色いおしべと1本の緑色のめしべがあります。開花時期は5月〜7月頃で、花は基本4枚の花弁を持ちますが、中には八重咲きになっているものもあります。花言葉は「思い出」で、7月26日の誕生花ともいわれています。
クサノオウの特徴②葉・茎
クサノオウは葉の裏やがく、茎に白い縮れた毛が生えているので全体的に白っぽく見えることがあります。がくは2枚ありますが、開花とともに落ちてしまうので開花した花には見られません。クサノオウの茎はまっすぐで中は空洞です。葉は深い切れ込みの入った形をしていて、時に30cmほどになることもあり、複雑な形になっているものも多くみられます。葉の裏側は毛が生えているため白く見えますが、表面は緑色です。
クサノオウの特徴③種
クサノオウの種は上を向いた円筒形のさやの中で育ちます。さやの大きさは3~4cmです。種の形は半球形で熟すと黒くなります。熟した種は弾けることで遠くまで飛ぶことができるのです。そして、この種には変わった特徴があります。クサノオウの種にはアリが好む白い脂肪の塊が付着しており、アリはこの脂肪の塊を食べるために巣へと運搬します。結果、クサノオウの種は本体から遠く離れた場所で繁殖できるのです。
クサノオウの特徴④汁
クサノオウの特徴として有名なのが、この草を傷つけたときに出る乳液のような液体です。この液体は最初は白い色をしていますが、すぐに橙黄色に変色します。そのため、「草の黄(おう)」とも呼ばれるのです。この黄色い液体には毒性があり、かぶれてしまうことがあるので不用意に触れないことが大切です。
クサノオウの毒性
クサノオウには強い毒性があります。クサノオウは草全体にケリドニウムアルカロイド系の成分を含んでいて、これが人体にとって有毒となるのです。このケリドニウムアルカロイドのケリドニウムという名前はクサノオウの学名であるChelidonium majusに由来します。
クサノオウの毒の主な症状
クサノオウはその特徴である黄色い乳液のような液体に触れると皮膚がかぶれることがあります。また、全草に毒性があるため、草そのものに触れるだけでもかぶれることがあるので要注意です。そして、誤って口に入れてしまうと、嘔吐、呼吸困難、末梢神経麻痺、昏睡などの症状を起こすことがあります。家畜は好んで食べたりはしませんが、牧草などに混ざっていると誤って食べてしまうことがあるので注意が必要です。
クサノオウの薬効
毒と薬は紙一重ですが、このクサノオウは毒草としての一面の他に、薬草である一面も持ちます。古くからこの草は皮膚病の治療や内臓疾患の痛み止めとして民間で使われてきました。しかし、その毒性は強く、素人が簡単に手を出してもよいものではありません。クサノオウを薬草として用いる場合は、必ず専門家の指導のうえで安全面に配慮して使用することが必要になります。
クサノオウの利用法
クサノオウの全草を刈り取って天日干ししたものが生薬の「白屈菜(はっくつさい)」です。刈り取りの時期は夏~秋の間です。これを煎じて湿疹などの皮膚疾患の患部を洗うと治るといわれています。また、いぼやたむしなどには草のしぼり汁を何回かに分けて塗布するという利用法があります。古くは、胃がんなどの鎮痛剤に使われたこともあるという記録がありますが、クサノオウはとても毒性が強いので、民間での使用はおすすめできません。
クサノオウの西洋での使われ方
クサノオウは古来から洋の東西を問わず、薬として用いられていました。昔の西洋では、クサノオウの持つ薬効の中の一つである中枢神経抑制作用を利用してアヘンの代用品として使われたほか、癌(がん)の痛み止めとしても使用されたといいます。癌(がん)の痛み止めとしての使用例は昔の日本でもありますが、その効果はモルヒネに遠く及ばないうえ、クサノオウはその毒性から副作用が強いので現在では使用されていません。
クサノオウに似た花
クサノオウに似た花には同じケシ科の多年草であるヤマブキソウがあります。ヤマブキソウは葉が3枚(まれに他の数もあります)一組みになっているのが特徴です。また、葉の縁はのこぎり状になっており、深い切れ込みはありません。そして、ヤマブキソウの花はクサノオウよりも一回りほど大きいのです。開花の時期はクサノオウよりも少し早い4月~5月となり、人里のクサノオウと違い、山間部に多く咲いています。
クサノオウと文豪
クサノオウは薬効として肝臓病や胃がんの痛み止めに使われていたという記録がありますが、有名なのが小説家の尾崎紅葉と泉鏡花の逸話です。晩年、胃がんに苦しむ紅葉のために弟子である泉鏡花がクサノオウの薬を苦労して探してきたという逸話があります。クサノオウに胃がんを治す効果はありませんが、知覚神経麻痺の効果が胃がんによって引き起こされる痛みを和らげたといわれています。
まとめ
いかがでしたでしょうか。可憐な姿でありながら、毒としても薬としても強い力をクサノオウは持っています。ややもすると他の雑草に紛れてしまいそうなほど人里によくある花ですが、見かけたらその力を思い出してください。多様な名前に見られるように、古くから薬草として親しまれてきたとはいっても、くれぐれも素人がいたずらに手折ってはいけないということを忘れないでください。
出典:写真AC