タニウツギ(谷空木)とは?
タニウツギは主に日本海側に分布する落葉低木で、山地の谷間などに自生し、春にピンク色のうつくしい花を咲かせます。丈夫で手間がかからないことから日本全国の街路樹にも利用され、公園などにもよく植栽されている植物です。一方で、縁起が悪いともいわれ、庭に植えたり家に持ち込みことを嫌う風習もあります。
タニウツギの基本データ
学名 | Weigela hortensis |
和名 | 谷空木(タニウツギ) |
別名 | 紅空木、田植え花 、早乙女花 、鰯花 |
科名 | タニウツギ科(スイカズラ科) |
属名 | タニウツギ属 |
原産地 | 日本(北海道から本州) |
分類 | 落葉低木 |
樹高 | 2~3m |
開花時期 | 5月中旬~6月 |
花色 | 赤、ピンク、白 |
タニウツギの特徴
もともと日本に自生するうつくしい花を咲かせるタニウツギは、高温多湿な日本の環境でもよく育ち、大気汚染や潮にも耐えるとても丈夫な植物です。そのため、都市部などの緑化のためさまざまな場所に植えられていますが、ふだん注意深く観察することはなかなかないでしょう。ここではタニウツギの特徴を3つに分けてご紹介します。
タニウツギの特徴①うつくしい花
開花時期は5月中旬~6月頃で、ピンク色のうつくしい花を咲かせます。特徴的なラッパのような形で5枚に裂けた丸い花びらが開き、たくさんの花を房状につけるため、ボリュームがありとても華やかな印象です。満開になると、葉が見えなくなりそうなほど花をつけることもあります。昔は田植えの時期を知らせる花といわれ、タニウツギの開花を目印に田植えの準備に取りかかりました。
タニウツギの特徴②中心がスポンジ状の枝
枝の中心はスポンジ状で、なかまで詰まっているものよりも少ない材料で枝が構成されています。そのため枝が軽くなり、自分の重さを支えるために太くする必要がなく、取り込んだ水分や栄養を、枝を伸ばすことに集中して使います。長く伸びた枝に葉を広げ、低木であるタニウツギもより多くの日光を受けられるのです。また、花が満開になるとやわらかくしなだれ、エレガントな樹形を作ります。
タニウツギの特徴③卯の花とは異なる仲間
タニウツギと、卯の花と呼ばれるウツギは異なる仲間です。なぜ同じウツギと呼ばれるかというと、枝の中が空洞である樹木にウツギという名前がつけられているからです。漢字では枝の状態を表して「空木」と書きます。そのため卯の花だけでなく、ノリウツギやミツバウツギ、ヒメウツギなど、仲間に関係なくウツギという名前の植物がたくさん存在するのです。
ウツギが卯の花と呼ばれる由来
開花時期が旧暦の4月(卯月)であることから「卯月に咲く花」が由来だという説があります。しかし、ウツギの「ウ」を干支の「卯」に当て、卯の花の開花時期である4月を「卯月」と呼ぶようになったという説もあるのです。
タニウツギの名前の由来
タニウツギは漢字で「谷空木」と書きます。実際はタニウツギの枝の中心は、空洞ではなくやわらかいスポンジ状ですが、「谷」に自生する「空木」という意味から「谷空木」と名付けられました。また、タニウツギの花が咲くとイワシが取れるという言い伝えから「鰯花(イワシバナ)」や、田植えが始まる頃にうつくしい花を咲かせることから「田植え花(タウエバナ)」「早乙女花(サオトメバナ)」などとも呼ばれています。
早乙女とは
- 稲の苗を水田に植えつける女性のことをいいます。白い手ぬぐいをかぶり菅笠(すげがさ)をつけ、紺のかすりの着物に赤いたすきをかけた姿が印象的です。
タニウツギは縁起が悪いといわれる理由
うつくしい花を咲かせるタニウツギは、とても丈夫なうえ自然暦としての役目もあります。大切にされてきた植物かと思われそうですが、人々の生活に密接にかかわってきたために、縁起が悪いといわれてしまうことがあります。ここでは、そのさまざまな理由についてまとめました。
死人花(シビトバナ)や葬式花(ソウシキバナ)
昔は、タニウツギの枝で棺のふたを止めるくぎが作られたり、葬儀で骨を拾うための箸として利用されたりしました。また、死後の世界に向かう死者の杖になると考えられたため「死」のイメージと結びつく、縁起のよくない植物と忌み嫌われるようになったのです。
火事花(カジバナ)
タニウツギは火事を呼ぶと考えられ、家の中に持ち込むことを避けられました。枝が軽く燃えやすい形状をしていることや、花が満開の時期は山が燃えるように見えることから、「火事」のイメージと結びついたと考えられています。
また、タニウツギの花には蚕の天敵である蜂がよくつくため、養蚕業を営む地域では家の中に持ち込まないようにするために広められた話という説もあります。ほかに、飢饉で食料が不足したときに、空腹をしのぐための食料としてもよく利用されていたため、実はタニウツギを守るための話であったともいわれています。
タニウツギの種類
タニウツギの仲間にはたくさんの種類がありますが、どれも育てやすいものばかりです。そのなかからナチュラルガーデンに似合う野趣に富んだものや、洋風ガーデンにも似合う華やかなものなど、魅力ある6つの種類をご紹介します。
タニウツギの種類①シロバナウツギ
別名「シロバナタニウツギ」と呼ばれるタニウツギの白花品種です。北海道や日本海側の林や谷沿いでまれに見られます。純白の花が清楚でうつくしい、なかなか出会えない品種です。樹高2~5mで、開花時期はタニウツギとほぼ同じ5~6月。
タニウツギの種類②オオベニウツギ
タニウツギと同じ仲間ですが原産地は中国で、花色はピンク色や白や赤紫などさまざまです。また、明るい斑入り葉で淡いピンク色の花をつけ、秋には紅葉も見られる園芸品種の「オオベニウツギ・バリエガータ」も庭木として人気があります。樹高1.5~3m、開花時期は5~6月です。
タニウツギの種類③ハコネウツギ
花は咲き始めが白く、咲き進むにつれて淡いピンク色から濃いピンク色へと移り変わります。ハコネウツギといっても実際は箱根に自生するわけではなく、海岸沿いでよく見られる品種です。3色の花が一斉に咲く姿は華やかで人気があり、苗はインターネットなどでも入手できます。樹高3m、開花時期は5~6月です。
タニウツギの種類④ニシキウツギ
漢字で「二色空木」と書き、ハコネウツギと同じく花の色が白からピンク色へと移り変わります。海沿いで見られるハコネウツギに対して、ニシキウツギは主に山地に自生し、ハコネウツギよりスリムな花型で花数が少ないため、やや控えめで楚々とした印象です。樹高2.5m、花期は5~6月です。
タニウツギの種類⑤キバナウツギ
湿った山地に自生し、葉は明るい緑色で、クリーム色~淡い黄色の花を咲かせます。葉になじむ花色でひっそりと咲くのであまり目立つ花ではありませんが、健気でかわいらしい花がナチュラルな印象です。樹高2~3m、花期は4~5月です。
タニウツギの種類⑥ヤブウツギ
キバナウツギとは対照的な、ワインレッドの花がシックで大人っぽい印象です。緑色の葉に映えるうつしい花が人目を引きます。細かく枝分かれして藪のようになることからヤブウツギと呼ばれます。樹高2~3m、花期は5~6月です。
タニウツギの見分け方
タニウツギの仲間は似たものが多く、花色がはっきりとちがうもの以外はなかなか区別がつきません。とくに自生するものは個体差もあるため分かりにくいものです。ここでは、混同されやすい3種類に絞って、かんたんな見分け方のポイントを表にまとめました。
タニウツギ | ハコネウツギ | ニシキウツギ | |
花色 | ピンク | 白からピンクへ | 白からピンクへ |
花型 | ラッパ型 | ふっくらしたベル型 | ラッパ型 |
葉裏 | 細かい毛が密生 | 無毛 | 脈に沿って毛が生える |
見分けるためのポイントは花色、花形、葉の裏です。ハイキングや散歩の途中などでタニウツギらしき植物を見かけたら、この3つの見分け方を参考に注目してみてください。
まとめ
日本に自生するタニウツギは、古くからさまざまな形で人々と関わってきました。ときには自然暦になり、食糧難になれば食べられ、死者を送る大切な役目を果たしたかと思えば忌み嫌われるタニウツギ。そんなことも知らずに強くうつくしく咲くタニウツギを、歴史を感じながら育ててみるのも感慨深いのではないでしょうか。
出典:写真AC