ヤマグワとは?
ヤマグワ(山桑)は北海道から九州まで日本各地に自生しており、里山から公園まで幅広い場所でみられるとても身近な植物です。日本でいう桑はほぼヤマグワのことを指します。和名の「桑」は「食わ」が転じたものとされ、養蚕で葉がカイコに食べられる(食われる)様をあらわしたとも言われます。養蚕業とヤマグワの関係については後ほど詳しく説明します。
ヤマグワの基本情報 | |
学名 | Morus australis Poir.(Morus bombycis Koidz.) |
英名 | mulberry、Japanese mulberry |
分類 | クワ科クワ属 |
分布 | 日本、東アジア、東南アジア、ヒマラヤ |
樹高 | 5~12mの落葉低木~高木 (栽培用では低木に仕立てられることが多い) |
葉 | 互生 |
開花期 | 4~5月 |
結実期 | 6~7月 |
学名の由来
学名の「Morus」の語源はケルト語の「mor」に由来し、黒を意味すると言われます。真っ黒く熟す実にちなんで名づけられたと考えられています。
ヤマグワの仲間
クワの仲間は世界にもたくさんあり、中東の方では果実を乾燥させドライフルーツとして保存食にしている地域もあります。日本にも地域によって固有の種類があります。日本で主に見られる種類を一覧にまとめてみました。
日本名 | 学名 | 主な分布地 | 概要 |
マグワ | Morus alba L. | 中国、朝鮮、日本など | 別名はカラヤマグワ、トウグワ 果実は食用に利用 根は生薬に利用 |
ハチジョウグワ | Morus.Kagayamae Koidz. | 伊豆七島 | ヤマグワに似て葉がさらに大きい 家具や工芸品に利用 |
シマグワ | Morus australis Poir. | 九州からインド | ヤマグワより葉が小さい 桑の葉茶などに利用 |
ケグワ | Morus tiliaefolia Makino | 福島から徳島 | 葉に毛が多く、裏面は短毛が密生 家具や工芸品などに利用 |
オガサワラグワ | Morus boninensis Koidz. | 小笠原諸島 | 小笠原諸島の固有種 |
ログワ | Morus Ihou | 九州南部、南西諸島、中国など | 別名は魯桑(ロソウ) |
ボタニ子
ヤマグワの特徴
クワの仲間にはわかりやすい特徴が多く、数ある樹木の中でも比較的見つけやすい樹種の一つです。今回はヤマグワの特徴を詳しく説明していきます。
特徴①葉
葉の形は卵形から幅の広い卵形が基本ですが、中には3~5か所深い切れ込みが入る葉も見られます。不整のギザギザとした鋸歯があり互生します。大きさも7~20cm程と、同じ株の中でも大小様々な葉が見られるのがヤマグワの大きな特徴です。ちなみに互生とは枝の節ごとに一枚ずつ互い違いにつくことを言います。
ボタニ子
花や果実がなくても葉っぱだけでも見つけやすくていいわね。
特徴②花
雌雄異株ですが、まれに同株のものも見られます。同株の場合は枝ごとに雌雄が分かれます。雄花は淡い褐色の穂状花序になりおしべを4本持ちます。雌花は緑白色で雄花に比べてやや小ぶりです。花柱の先端は2つに分かれ花びらは見られません。どちらの花もその年伸びた若い枝に開花します。
特徴③果実
雌株には初夏に小さい果実が付きます。大きさは5~14mmで始めは赤いですが熟すと黒紫色になります。熟した果実はとても甘く生でも食べることが可能です。マグワの実に比べ、ヤマグワの実の花柱は長く残りやや小ぶりになります。
特徴④幹
樹皮は灰褐色で、縦に細かい筋が見られるのが特徴で薄く剥がれます。デコボコと深く切れ込みは入らないので、少しのっぺりとした印象の幹です。
特徴⑤冬芽
冬芽とは
冬芽とは秋に落葉した枝に残る、大きな芽のことを言います。この中には翌春生長する葉と花の蕾が包まれています。樹木は大事な蕾を寒さや鳥や虫の害から守るために厚い皮で保護し休眠します。
ヤマグワの冬芽
ぷっくりとしたやや幅広い卵形で、淡い褐色で目につきやすい特徴があります。タケノコのような鱗状の芽で毛は無くつるっとしています。枝に互生して付き、先端には仮頂芽が出来ます。
特徴⑥成長の早さ
繁殖力が旺盛で成長がとても早いため、放っておくと1年で4mほども伸びてしまうこともあります。そのため栽培される個体は毎年バッサリと剪定し、低木に仕立ててあります。最近では低木性で実付きがよく家庭でも栽培しやすい園芸品種も流通しています。
特徴⑦白い樹液
枝や葉を傷つけると白い樹液が出ますが、これには虫の害を防ぐアルカロイドが含まれています。カイコ以外の虫には強い毒性があります。カイコはこのアルカロイドを無毒化することが出来るので葉を食べることが出来るのです。
ボタニ子
葉を取り合う敵がいないからカイコはクワしか食べなくても生きていけるのね!
ヤマグワの用途は?
ヤマグワは余すところなどないくらい、すべての部分が有効活用されています。どのような用途があるか部分別にまとめてみました。
葉は効能豊かなお茶になる
日本では桑の葉茶の名前で昔から親しまれていますが、漢方では「桑葉(ソウヨウ)」、ハーブでは「マルベリーリーフ」として世界中で飲まれています。民間薬としての効能も注目され、血糖値を改善し糖尿病予防への有用性が臨床実験でも証明されています。また、体内の余分な水分を排出し便秘解消をすることから、ダイエットや生活習慣病への効能も期待できます。
有効成分が豊富
抗酸化作用のあるポリフェノール、美肌効果のあるビタミンCが豊富で他にはビタミンB1、B2、B6、ビタミンEも含まれます。ミネラルでは鉄分、カルシウム、マグネシウム、亜鉛など健康に欠かせない有効成分が豊富なのです。
ボタニ子
ビタミンCと鉄分が一緒にとれると、貧血予防にもなるし女性には嬉しいことだらけね!
樹皮は和紙の原料になる
樹皮を叩きのばして和紙の原料とすることが出来ます。ヤマグワの樹皮からとれる繊維は太くて長く、火や熱にも強く虫にも食われにくいため、提灯や行灯、傘などに利用されます。
果実は生食や加工食品になる
ヤマグワが養蚕用なのに対し、果実の収穫では主にマグワやログワを基に作出された品種が多く利用されています。果実は生食でも美味しいですが、日持ちがしないので加工されてることがほとんどです。ジャムへの利用が多いですが、マルベリーシロップやマルベリー酒など様々な商品があります。
【数量限定】マルベリーシロップ 500ml 【桑の実 フルーツシロップ】
参考価格: 2,700円
根は生薬になる
桑の根の皮は「桑白皮(ソウハクヒ)」という名で生薬として利用されています。原料は主にマグワの根の皮になりますが、ヤマグワでの用途も研究されています。呼吸器系、循環器系の疾患や腎疾患など幅広い分野で古くから世界中で利用されています。
養蚕とヤマグワの関係
養蚕に不可欠なヤマグワ
養蚕というのは、カイコが作る繭から生糸(絹)を作ることを指します。カイコはクワの葉しか食べないため、飼育するためにはクワが不可欠になります。日本は古くからヤマグワが自生し、また中国由来のマグワの栽培も可能だったため養蚕には適した環境がありました。そのため、弥生時代には伝来し奈良時代には全国へ広がりました。
産業としての養蚕
産業としての養蚕業の発達は幕末以降になり、生産技術の発明によって良質な絹を作ることが出来るようになりました。絹は日本の主要な輸出品として明治から昭和にかけて日本経済の発展に役立ちましたが、戦後は化学繊維の登場によって需要が減少し、同時に養蚕業も衰退してしまったのです。
ボタニ子
最盛期には全国の養蚕農家は15000戸もあったのに、今では350戸もないんだって…
北海道の開拓を支えた養蚕
ヤマグワは寒さに強く、北海道のような極寒地でもいたるところに自生できます。幕末期以降の北海道の開拓において、養蚕業を重要な産業の一つとして開拓使が振興に力を入れていました。野生の桑だけなく本州より苗を取り寄せて積極的に桑畑を作り、北海道内だけでもかつて7000戸ほどの養蚕農家がありました。今ではほとんど桑畑を見ることはありませんが、札幌市の「桑園」など地名に歴史の名残を留めています。
まとめ
ヤマグワには非常に多くの魅力があることがお分かりいただけましたでしょうか?これほど有効活用される植物はなかなかありませんよね。お茶やハーブとしても入手しやすいので、ぜひこの機会に生活に取り入れて活用してみてください。
この他にも果実専用の種類など、世界中にはたくさんのクワの仲間がいるのよ。