トネリコを見てみよう
「トネリコ」という、一見どんな意味があるのかわからない植物名。ヨーロッパの神話にも登場するため、ゲームなどで名前を見たことのある方も多いでしょう。そんなトネリコですが、日本に生息しており、植木として販売もされています。トネリコの生える場所や、姿形について見てみましょう。
温暖で保水性のある土地が好き
野生のトネリコは本州の中部地方以北に分布します。暖かい地域に生え、特に栄養豊富な湿地の周りを好みます。公園の植木や都市部の街路樹でもトネリコが植えられていることがありますが、暖かい湿地という環境を再現できず栄養も乏しいためか、あまり元気がありません。庭木にトネリコを植えるのであれば、夏場に乾燥しないよう日当たりに注意し、十分な水分と栄養を維持する必要があります。
トネリコの形態
基本データ
- 標準和名:トネリコ
- 学名:Fraxinus japonica
- 分類:モクセイ科トネリコ属
- 分布:本州の中部地方以北、日本固有種
学名にjaponicaとつくように、トネリコは日本固有種です。ちなみに北欧神話などに登場する「トネリコ」は、セイヨウトネリコ(Fraxinus excelsior)という近縁種です。
樹高が高く、立派な樹形
トネリコは生長すると樹高15mくらいになります。特に開けた場所に単独で生えているトネリコは、太さ60cmほどの幹から枝を広く伸ばす立派な樹形になります。下の写真は岐阜県関市の「名無木」と呼ばれるトネリコの古木。樹高11m以上あり、あらゆる方向に太い枝を伸ばした樹形が威風堂々としています。
葉と花と実の特徴
もっと近づいて見てみましょう。トネリコは落葉樹で、羽状複葉という特徴的な葉っぱの形をしています。4月頃に花が咲きますが、花弁がないのが特徴です。花には雄花と雌花があり、翼のある果実ができます。
授粉すると果実が平たく伸び広がり、昆虫の翅のような形になります。この翼果に風を受けて、種が遠くへ運ばれていきます。
Word Check
- 複葉(ふくよう):1枚の葉が葉脈まで裂けて、複数の小さい葉(小葉)に分かれていること。トネリコやクルミ、ウルシのように、小葉が何対も並んで鳥の羽のようになっているものを羽状複葉(うじょうふくよう)という。一方、葉がひとつながりになっているものは単葉(たんよう)という。
- 対生(たいせい):葉が2枚対になって枝から生えていること。カエデ科、ウツギ、メタセコイアなど。一方、葉が互い違いに生えているものは互生(ごせい)という。
- 翼果(よくか):果皮が薄く伸び、翼のような形になった果実のこと。カエデ科、サワシバ、フタバガキなど。翼が風を受けることで遠くまで種を飛ばしたり、落下速度を緩和して種を衝撃から守ったりする効果がある。
ボタニ子
植物の体の形を表現する、専用の言葉があるよ。絵をみながら意味を確認してね!
「トネリコ」の語源
ボタニ子
「トネリコ」って何語なの?日本語っぽくないし、英語でもないような。
平安時代には「トネリコ」と呼ばれていた
「トネリコ」は日本語です。10世紀に書かれた薬用植物辞典「本草和名」には、「和名止祢利古乃岐(とねりこのき)一名多牟岐(たむき)」という記述があります。訳せば「和名は『とねりこのき』または『たむき』」という意味です。なお、別名として紹介されている「たむき」も、トネリコの近縁種の名前に受け継がれています(後述)。
ボタニ子
平安時代の人も「トネリコの木」って呼んでたんだね。
ただし「トネリコ」の語源ははっきりしていません。名前の意味には、下の図のような説があります。
名前の意味には諸説ありますが、利用方法に関係するものが多いようです。昔から有用な植物として認識されていたのですね。
ボタニ子
次のページでは、トネリコ並木の景色を見てみよう!植木でよく見る「シマトネリコ」も登場するよ。
トネリコの葉(庭木図鑑植木ペディアより引用)