こぶしの花とは?
冬色の野山に真っ白い花を咲かせて春の訪れを告げるこぶしの花は、日本特産の落葉高木です。環境への適応能力が高いため日本全国に広く分布しており、北は北海道、南は九州でも自生しています。なお日本と気候がよく似ている朝鮮半島の済州島でも古くから自生しており、広く人々の間で親しまれています。
花が楽しめる期間が長い
早春に花が咲くのがこぶしの花の特徴ですが、こぶしは全国各地に分布しているため、花が咲く時期は地域によってずれがあります。そのため温暖な地域では2月下旬に花が咲くこともありますが、北海道では5月から花が咲くため、日本国内で約3か月も花が楽しめます。
実の形も特徴的
こぶしの花はつぼみの段階から咲くまでの間に形が変化するのも魅力の1つですが、実の形も時期によって変化していく特徴があります。花が咲く時期を過ぎると注目度が下がるこぶしの木ですが、花の後にはブドウのように密集した実がつきますし、実の形もごつごつとしていて特徴的です。
実の形も時間とともに変化する
実の形の特徴は密集して実がつく点だけではなく、時間とともに実の形が変化する点も含まれます。春~夏にはブドウの実のようにみえますが、秋には実の外側は硬くなりやがて表面が破裂し赤い実が飛び出します。このときのこぶしの実はややグロテスクですが、赤く色づくこぶしの実は華やかな紅葉によく似合います。
名前の由来が諸説ある
こぶしの花の名前には、さまざまな由来があり定説がはっきりしていません。ただし諸説ある由来の中でも有名なのが、こぶしの花の形に由来する説です。つぼみから開花の直前のこぶしの花は、拳を握りしめているように見えるため「拳のようなつぼみと花をつける木=こぶし」の名前がついたといいます。
「実が拳のように見える」という説も有力
こぶしの花は開花時期が終わると実をつけるのですが、こぶしは単体で実をつけるのではなく複数が密集して実をつける集合果です。なお密集したこぶしの実は男性が手を硬く結んだ拳のように見えることから「拳のような実をつける木=こぶし」となったともいいます。
こぶしの花の和名は2つある
日本が原産であるこぶしの花は、学名も「コブシ(正式学名はMagnolia Kobus)」で和名も「コブシ」です。ただし和名の呼び方は1つですが、漢字表記する場合は「辛夷」と「拳」の2種類あり、それぞれの漢字表記には由来があります。
「辛夷」の漢字表記の由来
古くから中国との貿易の中でさまざまな文化が移入されてきた日本では、中国の漢方薬をベースにした生薬が民間療法でも使われてきました。そんな中国の漢方薬ではこぶしの花を乾燥させたものを「しんし(辛夷)」と呼んでいたことから、日本の和名にも「辛夷(こぶし)」の漢字が使われるようになりました。
「拳」の漢字表記の由来
名前の由来にも挙げられるように、初春に白い花を咲かせるこぶしの花は、つぼみの状態を観察してみると人の拳のような形をしています。そのため見た目の印象をそのまま漢字に置き換えたのが「こぶし=拳」です。なお見た目を表現する際には「拳」が多いですが、文学作品やでは「辛夷」のほうが好んで使われます。
中国名は「日本辛夷」
日本特産の樹木であるこぶしの花は、乾燥させ生薬にすると漢方薬になります。中国では古くから植物の葉や茎・花・根を乾燥する漢方薬が庶民の間でも広く浸透しており、乾燥させたこぶしの花を「しんし(辛夷)」と呼んでいます。そのためこぶしの花の中国名は「日本特産の生薬=日本辛夷」と表記されます。
別名も多い
和名だけでなく中国名も有名なこぶしの花は、別名が多い木としても有名です。よく耳にするのは「ヤマアララギ」「コブシハジカミ」ですが、北海道では「キタコブシ」と呼ぶことがありますし、アイヌ地方では香りのよい木を意味する「オマウクシニ」と呼びます。
北海道ではサクラに関連する別名もある
早春に咲くこぶしの花は、「春の訪れを告げる花」として全国的に有名です。こぶしの花の開花時期が終わるとサクラの開花が始まる北海道・松前地方では、ヒキザクラ(桜の季節を引き寄せる花)、ヤチザクラ(遠目だとサクラの花のように見える花)とも呼ばれます。