ヤブツバキとは
基本情報
和名 | ヤブツバキ(藪椿) ツバキ(椿、海柘榴) |
学名 | Camellia japonica |
英名 | Camellia |
科 | ツバキ科 Theaceae |
属 | ツバキ属 Camellia |
種 | ヤブツバキ C. japonica |
形態 | 常緑高木 |
樹高 | 5~6m |
ヤブツバキは、日本固有の常緑性の高木です。樹高5~6mまで成長します。青森県から沖縄にかけて山林などに広く分布し、大島など伊豆七島、長崎の五島列島はヤブツバキの産地として知られています。ツバキの木の寿命は長く、成長は遅いのが特徴です。日なた、日陰どちらでも育ち、土壌を選びません。
ツバキ属に属する
ツバキ属(学名: Camellia)の植物は約250種もあり、日本、中国をはじめ東~東南アジア、ヒマラヤにかけて分布します。ヤブツバキもこのツバキ属です。
ヤブツバキの仲間
ヤブツバキの仲間は、ヤブツバキの近縁であるユキツバキ、ワビスケのほか、ヤブツバキから生み出された園芸品種などです。近縁のため、見分けるのが難しいかもしれません。
ヤブツバキの特徴
葉の特徴
ヤブツバキの葉の表面には光沢があり、深い緑色の葉は互生(枝に対して互い違いにつく)します。葉質は厚くしっかりしており、葉脈が比較的目立たないのが特徴です。やや長いなめらかな楕円形で先端が尖り、縁には浅い鋸歯(ギザギザ)が並びます。
花の特徴
ヤブツバキの開花時期は、冬から春(2月~4月ごろ)にかけてです。早咲きなら初冬に花がつき始めます。花の色は赤いものが一般的ですが、白い花をつけるものもあります。花びらの枚数は5枚、直径5~8cmほどの筒状の花には多数の雄しべがあり、花弁の根元と合着するのが特徴です。
実の特徴
ヤブツバキの花が咲き終わると丸い緑色の果実がつきます。ツヤツヤの果実は成熟とともに赤褐色に色づき、熟すと実の下部が弾けるように裂けて種子が地上に落ちます。この種子を搾って油を採取したものが、シャンプーなどに配合される椿油です。
ヤブツバキとの見分け方①ユキツバキ
ユキツバキ(雪椿、学名:Camellia rusticana)は、オクツバキ、サルイワツバキ、ハイツバキなどの別名をもつツバキ属の常緑低木です。ヤブツバキは同じツバキ科ツバキ属の高木で、ユキツバキとは樹高の違いが明らかです。
生育環境
温暖な地域を好み、主に太平洋側に自生するヤブツバキに対して、ユキツバキは豪雪地帯に適応した品種です。ユキツバキは耐寒性にすぐれ、冬の季節に雪に埋まっても厳しい寒さに耐える点でヤブツバキと異なります。
樹高の違い
豪雪地帯に育つユキツバキは積雪に押しつけられるため、樹高は1~2mに留まります。ヤブツバキのように縦にのびるのではなく、地をはうように横に広がって成長します。ユキツバキの枝は雪の重みに耐えられるよう、ヤブツバキと比較するとしなやかでやわらかいのが特徴です。
花の違い
ユキツバキの開花時期は4~6月で、冬から春にかけて咲くヤブツバキとは開花の季節が異なります。ユキツバキの花びらの枚数は5~6枚、対してヤブツバキは5枚です。ユキツバキの花は花びらが広く開く平開咲きなのも見分け方のポイントです。
実の違い
ブナ林などの落葉樹林などに自生するユキツバキは花数が少なく、つける果実の数も少なくなります。ユキツバキの果実の中には1~2個の種子ができますが、ヤブツバキの種子は約2~3個です。
ユキバタツバキ
ユキバタツバキ(雪端椿、学名:Camellia × intermedia (Tuyama) Nagam.)はユキツバキとヤブツバキの交雑種です。両者の中間的な存在で見分けが難しい種類です。ヤブツバキの自生地と近接する地域でユキバタツバキが見られます。
次のページでは、ヤクシマツバキ、ワビスケ、カンツバキ、ヤブツバキの用途について解説します。
ヤブツバキとの見分け方②ヤクシマツバキ
主に九州の屋久島、沖縄の山地や林に自生するヤクシマツバキ(学名:Camellia japonica var. macrocarpa)はヤブツバキの変種です。ヤクシマツバキはヤブツバキと同じツバキ科ツバキ属で、開花時期は2~4月、樹高も平均5~6mとヤブツバキと同程度でよく似ています。
葉の違い
ヤクシマツバキの葉は長さが4~8cmの楕円形で、ヤブツバキの丸みをおびた葉とは異なります。葉の質感が革質で、鋸歯が低くて平らという点でヤブツバキとは見分けられます。
花の違い
濃紅色のヤクシマツバキの花は、枝先の葉腋につきます。花びらの枚数は5枚で、花びらの先端がなだらかなカーブを描いて凹みがあることが特徴です。ヤクシマツバキ、ヤブツバキともに花は広く開かない、花糸は白、葯は黄色であることが共通します。
果実の違い
ヤブツバキの直径2~2.5cmほどの果実に対して、ヤクシマツバキの実は約5~6cmもあります。リンゴと見間違えるられほど大きさのため、ヤクシマツバキの別名はリンゴツバキ(林檎椿)、オオミツバキ(大実椿)です。果皮がヤブツバキに比べて厚いという点も異なるポイントです。
ヤブツバキとの見分け方③ワビスケ
ワビスケ(侘助、学名:Camellia wabisuke)は、室町時代に中国のツバキの原種と日本のヤブツバキが交雑によってできた品種です。ワビスケと呼ばれるためには、ウラクツバキ(有楽椿)かその子孫であること、葯(ヤク:花粉をつくる雄しべの先端の器官)が退化して花粉をつくらないという特徴をもつこととされています。
ウラクツバキ(有楽椿)とは
江戸時代、ウラクツバキは「太郎冠者(タロウカジャ)」と呼ばれていました。織田信長の実弟、織田有楽斎が茶花として重用したことに由来します。
花の違い
ワビスケの開花時期は12~4月と長く、ヤブツバキと比べるとやや早咲きなのが特徴です。ヤブツバキの花が赤または白色であるのに対して、ワビスケの花の色は白~紫がかったピンクです。ヤブツバキと異なり、ワビスケは花に強い香りをもつ種もあります。
ヤブツバキとの見分け方④カンツバキ
カンツバキ(寒椿、学名:Camellia sasanqua Kantsubaki)は、ヤブツバキとサザンカの交雑園芸品種といわれ、シシガシラやヒラカンという別名もあります。カンツバキは樹高が1~2mの低木であることがヤブツバキとの大きな違いです。
花の違い
カンツバキの開花の季節は11~2月ごろで、ヤブツバキより早く咲き、咲き終わりも早くなります。カンツバキの花は八重咲きが多く、花の色の多くは淡い紅色ですが、白やピンクもあります。ほのかな香りがあることが特徴です。
花の散り方の違い
カンツバキの花は1枚1枚バラバラに散っていきます。対してヤブツバキは、雄しべが花びらにくっついているため、花びらはバラバラになることなく、花首ごと落ちるのが特徴です。
利用法
ヤブツバキに比べてカンツバキは樹高が大きくならず、枝が横方向にのびる性質のため、形が整えやすく庭木や生け垣としても利用されます。またカンツバキは大気汚染や寒風、強い西日などの過酷な環境にも強く、半日陰でもよく育つ性質をもっています。そのため、庭の植え込みや公園などの生け垣に向いているのです。
ヤブツバキの用途
食用
ヤブツバキの花は天ぷらなどにして食べられます。花を丸ごと摘み取って丸ごと天ぷらの衣にくぐらせ、カラリと揚げます。ヤブツバキの天ぷらは、花の紅色をそのまま残して丸ごと食べられるおすすめの食べ方です。
椿油
ヤブツバキの種子から搾る油を椿油とよび、食用、ヘアケア、スキンケアに使われます。特に美しい髪を保つ、肌の乾燥を防ぐなどの目的で化粧品に配合されます。ヤブツバキの種子からとる純粋な椿油は生産量が少なくとても高価です。またサザンカ油も椿油、カメリア油と呼ばれることがありますが、サザンカ油とヤブツバキの椿油は別のものです。
建材
建材はヤブツバキ利用法の1つです。ヤブツバキは乾燥しやすく割れも少ない耐久性の高い木材で、磨けばツヤがでます。主に漆器や印鑑、道具の取っ手などに使われます。成長が遅いため大きく成長したヤブツバキは貴重で、建材としてはとても高価です。
まとめ
まだ花が少ない冬に咲くヤブツバキは、美しいだけでなくその用途も多い花木です。ヤブツバキとツバキ属の植物はよく似ているため、一目見ただけでは見分けられないかもしれません。細かな点に目を向けて、じっくり観察してみましょう。
出典:写真AC