アメリカオニアザミとは
ゴボウの花とよく似た独特な形状で、美しい花を咲かせるアメリカオニアザミですが、その存在は人間や家畜にとって、非常に危険な存在でもあります。生命力が非常に強く、花以外のすべての部位に硬く鋭い棘を持つため、好んで食用とする虫や動物がいないことも繁殖しやすい理由のひとつといえるでしょう。
アメリカオニアザミの基本情報
学名 | Cirsium vulgare |
別名 | セイヨウオニアザミ |
科・属 | キク科アザミ属 |
形態 | 多年草 |
原産地 | ヨーロッパ |
草丈・花色 | 50~150cm・ピンク~紫 |
開花期間 | 7~10月 |
分布
アメリカオニアザミは昭和20年ごろに日本に渡ってきた多年草で、北海道~四国地方辺りに分布しています。土質を選ばず、荒れた土地ややせ地でも育つことから、道路脇などでよく見かけられる雑草です。初夏から秋にかけて花を咲かせたのちに綿毛の種を飛ばし、冬から春まではロゼット状で成長します。
名前の由来
原産地がヨーロッパにもかかわらず、「アメリカオニアザミ」と名前が付けられたのは、アメリカから輸入された穀物に混じって日本に渡ってきたからです。別名である「西洋オニアザミ」のほうが原産地を強調していますね。また「アザミ」は、棘が多いことを意味する沖縄・八重山方言の「アザム」が語源といわれています。「オニ」は文字どおり棘の鋭さが由来です。
花言葉
アザミ属の花言葉には「触れないで」「復讐」「報復」「権威」「厳格」「独立」などがあります。「触れないで」はまさに見た目どおりですね。ほかには棘のもつ鋭い印象や、攻撃性といった近寄りがたいようすからからイメージされたものが花言葉になっています。
アメリカオニアザミの特徴
アメリカオニアザミの花
アメリカオニアザミの花は、タンポポなどと同様にたくさんの筒状花と呼ばれる小さな花が集まって、ひとつの頭花を構成しています。ノアザミとの見分け方のひとつとして、花が上向きだけでなく横向きにも咲くのが特徴です。茎はよく分岐し、葉や茎の大きさと比較すると小さめの頭花を株の上部に密集させて咲かせます。
アメリカオニアザミの葉
アメリカオニアザミの葉の表面は細かな鋭い毛で覆われ、葉の全体を取り巻くように棘があります。また先端には尖ったクリーム色で太い針のような棘が飛び出しています。アメリカオニアザミが駆除対象となる理由のひとつが、これらの物理的な危険性によるものです。
アメリカオニアザミの種
アメリカオニアザミの種は、タンポポやノアザミと同様に綿毛がついていることが特徴です。この綿毛つきのオニアザミの種子はノアザミの倍ほどの大きさがあり、風に乗って広範囲に拡散され、爆発的に増えてくことが問題視されています。種は発芽率も高く、アスファルトやコンクリートの割れ目からでも根を張る生命力があります。
アメリカオニアザミは生態系被害防止外来種
生態系被害防止外来種とは
環境省、農林水産省による「生態系被害防止外来種」とは、平成27年以前の「要注意外来生物」に代わって注意を呼びかけられている動植物です。これらは、人や生態系、農水産業に悪影響を及ぼす生物としてリストアップされています。
アメリカオニアザミの扱いについて
・自然性の高い環境や牧草地に侵入するため、在来種や牧草と競合・駆逐のおそれがある。 ・鋭い棘を持つ植物なので、家畜や草食動物の有害植物となっている。・侵入経路や分布拡大のメカニズムを把握し、効果的な防除方法 や分布拡大の抑制策の検討が望まれる。
ボタニ子
現在アメリカオニアザミは「生態系被害防止外来種」の「被害に係る知見が不足しており、引き続き情報の集積に努める外来生物」に分類されています
アメリカオニアザミを駆除するには
アメリカオニアザミは繁殖力が旺盛で、軍手を着けていても貫通するほどの鋭さを持つ棘があることから、環境省から生態系被害防止外来種の認定を受けている植物です。葉にはたくさんの毛が生えていることから薬剤が浸透しにく、除草剤での駆除には難しい点があります。早急な全体の駆除が難しい場合は、種の拡散を防ぐために花だけでも切り落としてください。
駆除用の装備
大きく育ってしまったアメリカオニアザミを駆除する際には、直接株に触れないことが大切です。軍手では棘が通過してしまうため、棘対策用の革手袋や、状況によっては動物の咬傷対策用の手袋などもおすすめです。また草刈り機を使う場合は、目を保護するゴーグルなども用意しておくとよいでしょう。
物理的に駆除する
アメリカオニアザミは大きいものでは150cmほどに成長するため、雑草の駆除というよりは小低木を伐採するといったほうがイメージを掴みやすいでしょう。花がついている部分を優先的に処理し、種ができかけている場合は周囲に散らさないように注意します。地表部を刈り取った後は根元をスコップなどで掘り起こして駆除してください。
熱湯をかける
除草剤の効きにくいアメリカオニアザミですが、周辺に園芸用の植物がない場合は熱湯をかける方法も有効です。アメリカオニアザミはロゼット状の幼苗で冬越しします。この時期に駆除できれば、地面に張り付いた葉全体に熱湯が効果的に行きわたります。地表部は黒く枯れますが、地中の根は生きている場合があるため、スコップなどで根を取り除いてください。
駆除後の処理
刈り取ったアメリカオニアザミは、自治体のルールに沿って可燃ごみとして処理してください。その場に放置して種を拡散させないことが大切です。また、鋭い棘でゴミ袋が破れる可能性もあるため、厚手の袋や、袋を二重にするなどして対処しましょう。アメリカオニアザミの駆除は一度では難しいとされています。様子を見ながら根気よく定期的に駆除を繰り返すことが大切です。
アメリカオニアザミの見分け方
アメリカオニアザミとそれ以外のアザミの大きな違いは、棘の鋭さでしょう。ほかには、葉や茎といった株全体の棘の有無がわかりやすい見分け方といえます。アメリカオニアザミの棘は硬くて鋭いため素手で掴めば大ケガをしてしまうため、取り扱いには気をつけてください。
ボタニ子
ここからいくつかのアザミの仲間たちをご紹介します。どのアザミにも棘はありますが、アメリカオニアザミほどの鋭い棘はないから見分け方は簡単ですよ
ドイツアザミ(ノアザミ)
一般的な栽培品種であるドイツアザミ(ノアザミの園芸種)は、切り花として栽培されているため、アメリカオニアザミのような鋭い棘はありません。ノアザミには、ピンクや紫のほかにも白や赤といった花色があり、種が流通しています。園芸種でアメリカオニアザミとは違い、多肥を好む傾向があります。
ヤナギアザミ
ヤナギアザミは主に九州~四国に分布しています。特徴は総苞と呼ばれる花弁の集合体の下部分に粘り気があることです。名前は、柳のような細い線型の葉を持つことが由来です。また、花にはバニラのような甘い香りがあります。
ノハラアザミ
主に本州の中部地方~北の地域に分布するノハラアザミは、初夏から秋までと開花期間が長いことからも、野山でよく見かけられるアザミのひとつです。総苞に粘りはなく白いクモ毛があるのが特徴です。葉には棘がありますが、棘の有無には個体差があります。
タイアザミ
別名トネアザミとも呼ばれるタイアザミは、大きいものでは2mほどに育つアザミのなかでも大型の品種です。名前に「タイ」とありますが、原産地はタイではなく日本固有種です。「タイアザミ」は漢字では「大薊」と記され、文字どおり大きいアザミを意味しています。
ハマアザミ
ハマアザミは本州~九州の海岸線に主に群生しています。草丈は60cmほどでさほど大きくならず、葉に光沢があるのが特徴です。別名「ハマゴボウ」とも呼ばれ、ゴボウのような根の部分や、若葉をおひたしや天ぷらにして食べられます。
生態系被害防止外来種を見つけたら
アメリカオニアザミに限らず、生態系被害防止外来種を見つけた際には、早めに対処しましょう。大きく成長してからの駆除よりも、発芽直後や幼苗のうちならば物理的な駆除はもちろん、除草剤や熱湯をかけるといった方法がより効果的です。また、生態系被害防止外来種が広範囲で大きく成長している場合は、地上部の草丈を短くしてから除草剤を使用するとよいでしょう。
出典:写真AC