イヌホオズキとは
イヌホオズキとは、ナス科ナス属の野草の一種です。日本には史前に渡来した古い帰化植物だと考えられており、日本のほとんどの地域に自生しています。道端はもちろんのこと、畑や家の庭などにも旺盛に生えるため、雑草として扱われることも多い植物だといえるでしょう。花の形や芽の形状がナスに似ていますが、役に立たないということから、別名「バカナス」とも呼ばれています。
基本情報
学名 | Solanum nigrum L. |
英名 | Black nightshade/Garden nightshade |
別名 | ウシホオズキ、クロホオズキ、コナスビ |
科・属名 | ナス科・ナス属 |
草丈・樹高 | 30~60cm |
開花時期 | 7~10月 |
花の色 | 白~薄むらさき |
実の色 | 光沢のない黒 |
花言葉
イヌホオズキの花言葉は2つあります。「嘘つき」と「真実」という真逆の花言葉です。「嘘つき」は、イヌホオズキの実がホオズキに似ていることや、花の形がナスに似ていることが、まるで別の植物に擬態をしているようだということからこのような言葉が贈られました。「真実」という花言葉は、イヌホオズキが民間薬として使用されていることが由来だという説があります。
名前の由来
由来①役に立たない
野草の名前で頭に「イヌ」が付くものは、「役に立たない」という意味が含まれ、雑草として扱われるものが多いのが特徴です。イヌホオズキもその例に漏れず、ホオズキに似てはいるが、役には立たないということからこのように名づけられたのだといわれています。
由来②ホオズキにあらず
イヌホオズキの花や葉はホオズキにやや似ています。その特徴から、「否(いな)ホオズキ」、つまり「ホオズキではない」という言葉が変化して、イヌホオズキとなったという説があります。
イヌホオズキの種類
身近な雑草であるイヌホオズキですが、古くから日本に帰化しているだけに種類も豊富です。細かな特徴が違っているので、よく観察すると見分けられるようになりますよ。種類によって花の形が違ったり、実の質感や色に特徴があったりするので、見分けるときの参考にしてみてくださいね。
種類①オオイヌホオズキ
オオイヌホオズキはイヌホオズキと同様に野や畑に自生する野草のひとつです。イヌホオズキとは、花の切り込みが深くすらりとしていることや、果実をつぶしたときに球状類粒と呼ばれる小さな粒が入っていることで見分けがつきます。
種類②アメリカイヌホオズキ
アメリカイヌホオズキは、1951年に兵庫県で採取された新種のイヌホオズキです。現在では、アメリカイヌホオズキのほうがイヌホオズキよりもよく見かけます。通常のイヌホオズキがマットな質感の黒い実であるのに対し、アメリカイヌホオズキの実はつやつやとした光沢のある質感なのが特徴です。
種類③テリミノイヌホオズキ
テリミノイヌホオズキは、日本に古来から自生しているイヌホオズキの一種です。果実の形がやや横長の楕円形になることが特徴だといえます。花はやや小ぶりで、その分葉が大きく見えることも見分けるポイントですよ。
種類④ケイヌホオズキ
ケイヌホオズキは、その名のとおり全体に細かな毛が生えていることが特徴です。独特の臭気があり、触ると少しべたつくのも見分けるポイントだといえるでしょう。実は成熟しても黒くならず褐色で、半分以上ガクに包まれているのも特徴です。
イヌホオズキは食べられる?
イヌホオズキは、一般的には食べられない植物です。イヌホオズキの実や茎、葉などの全ての箇所に毒があり、万が一食べてしまった場合中毒を起こす可能性があります。
イヌホオズキの毒性
イヌホオズキは実だけではなく、葉や茎などの全ての箇所に「ソラニン」という成分が含まれています。この「ソラニン」は、ジャガイモの芽などにも含まれている成分で、神経系に作用する有毒成分のひとつです。誤って食べると頭痛や吐き気、下痢、胃炎、食欲減少などの中毒症状を起こす可能性があります。万が一食べるようなことがあった場合は、速やかに医師の診察を受けるようにしてください。
イヌホオズキとホオズキの違い
イヌホオズキとホオズキは、どちらも古来から日本に根付いている野草です。畑や庭、道端などに旺盛に生える特徴も似ているので、馴染みのある雑草だといえるでしょう。なにかと比較される2つの植物を見分ける方法は、花、葉、実のそれぞれをよく観察することです。
違い①花
イヌホオズキとホオズキの花はとてもよく似通っていますが、いくつかの違いがあります。イヌホオズキの花の色は透明感のある白色で、中央部分から放射線状に薄く紫が入っているのが特徴です。また、花びらは星のように5裂し、ほぼ平に開いています。ホオズキの花の色は、イヌホオズキの花よりも黄色みを帯びたクリーム色です。花の形は浅く5裂していますが、イヌホオズキよりも丸みを帯びた五角形をしています。
開花時期の違い
イヌホオズキとホオズキの花の違いは開花時期も当てはまります。ホオズキの花は6~7月頃に開花し、イヌホオズキの花は7~10月まで咲いているのが特徴です。秋口まで花が咲いているようなら、イヌホオズキだといえるでしょう。
違い②葉の形
イヌホオズキの葉は卵形をしており、約6~10cmほどの大きさです。少し肉厚の葉で、縁が波打っているような鋸歯が特徴といえるでしょう。それに対し、ホオズキの葉はイヌホオズキの葉よりも広い卵型をしています。葉は薄く、縁にある鋸歯もイヌホオズキよりも大きく波打っているのが特徴です。
違い③実
イヌホオズキとホオズキの大きな違いは実にあるといってもいいでしょう。イヌホオズキの実は黒々とした丸い形状をしています。光沢がないマットな質感で、直径0.7~1cmほどの大きさです。それに対しホオズキの実は、袋状のガクに包まれていることが大きな特徴といえます。熟すとガクも実も赤色に変化するので、すぐにホオズキだと判別がつきますよ。
イヌホオズキの見分け方
- 花の色が透明感のある白~うす紫で、星型をしている
- 花が秋口まで咲いている
- 葉の形は卵型で少し肉厚
- 葉の縁に緩やかな鋸歯がある
- 実が丸く、黒々としている
薬や食用としてのイヌホオズキ
イヌホオズキは、毒がある一方で薬や食用として利用されています。ありふれた雑草で、「役に立たない」という意味の名前を持つ植物ではありますが、その名に反して役立っていることが多い植物ともいえるでしょう。
薬としての利用
イヌホオズキの実や草を天日で乾燥させて加工したものは「竜葵(りゅうき)」と呼ばれ、現在も生薬として使われています。利尿作用や解熱作用があるとして古来より重宝されてきました。また、生の実をすりつぶして塩を加えたものを患部に当てると腫れが引くといわれており、民間治療薬として利用されています。
食用としての利用
東南アジアやアフリカなどの熱帯地方では、イヌホオズキの葉や茎を煮て野菜として食べる地域があります。ただし、あくまでも熱帯地方でのことであり、ほかの食べ物との食べあわせや土地の風土で食用として成り立っているともいえるでしょう。東洋では有毒であるという見解であるため、日本では真似をしない方が賢明です。
イヌホオズキは役に立つ植物
イヌホオズキは、日本全土に分布する野花のひとつです。古来から人びとのすぐ近くで生育してきた、歴史の深い植物でもあります。「役に立たない」と呼ばれてしまう雑草ではありますが、薬として利用されることもある有益な植物といえるでしょう。しかし、イヌホオズキの茎や葉、実部分の全てに毒があるため、取り扱いには注意が必要です。万が一食べてしまったら速やかに病院にかかってくださいね。
出典:写真AC