葛がアメリカで爆発的に繁殖？外来種としての葛の特徴と現地の対応は？

葛（くず）は、日本でも身近な場所で見かけられる植物です。現在、この葛がアメリカで甚大な被害を与えています。繁殖力がとても高いうえに拡散も早い葛は、世界の侵略的外来種ワースト100にも選ばれました。特に南東部の問題は深刻で、「南部を飲み込んだ蔦」とも呼ばれています。

葛はアジア原産の植物で、日本でも全国に分布しています。除草剤に強いうえに多年草のため、根絶が難しく、町中でもよく見かけられる雑草です。また、地下茎でも種でも繁殖します。さらにアメリカでは、天敵が少なく気象が合うため、日本以上に大きな問題になってしまいました。

最初にアメリカに持ち込まれたのは、1876年のフィラデルフィア万国博覧会です。夏になるときれいな花を咲かせるうえに栽培の手間がかからず、柵に絡みつくさまが美しい庭用植物として紹介されました。結果、葛はアメリカ各地で「kudzu」と呼ばれ、大ブームを起こします。

20世紀に入ると、アメリカでの葛の人気はさらに上昇していきます。葛は栄養が少ないやせた土地でも育ち、地下茎が丈夫です。また、その性質から土壌の流出や侵食を防ぐ効果があります。効果が期待された葛は、1946年までに約120万haという広範囲に植え付けられました。

しかし1950年代に入ると、葛は次第に厄介者として扱われはじめます。葛にとってアメリカ南東部の気候は非常にあっていたため、繁殖が抑えきれず被害が拡大していったのです。やがて雑草として各地で繁茂した結果、1997年には連邦有害雑草法によって規制されました。

現在、葛は「南部を飲み込んだつる」と呼ばれるほどの厄介者です。葛はアメリカ南東部のうち約300万haを覆っており、さらに1年で5万haずつ増えているといわれています。葛による被害が相当なものであることに加え、駆除するための費用も多く、被害総額は毎年大変な額にのぼります。

アメリカにとって、葛は外来種です。繁殖した外来種は、しばしば在来の動植物に多大な影響を与え、環境バランスを破壊してしまいます。特に葛は、アメリカ南部の生物多様性を破壊するだけでなく、建造物などにも深刻な被害を及ぼしています。

葛は、やせた土地にも強い植物です。栄養分が少ない土地であっても、あるだけの栄養を吸収して成長できるからです。しかし、旺盛な吸収力は、土地の栄養を奪われたほかの在来の植物を枯らしてしまうことにもつながります。さらに在来の植物を食べる昆虫や動物たちにも影響が出るため、葛が広がるほど生物的多様性は崩壊していきます。

葛は、近くに生えているほかの植物に巻き付いて成長するつる性植物です。葛の葉は大きく外に広がるように育つため、巻き付いた植物の光合成を邪魔します。さらに、吸盤で張り付きながら成長する蔦（つた）とは異なり、葛は締め上げるように伸びていきます。やがて光合成を阻害されて弱った植物は、枝や茎が折れてしまうのです。

蔦は巻き付いたものに沿って成長していくため、建造物の上にまで到達することがあります。特に送電塔や電柱に巻き付いた場合は電線に沿ってさらに伸びていくため、事故や山火事の原因になります。さらには、葛が住宅やアパートをまるごと覆ってしまうケースもあるほどです。

アメリカ各地で、実際に葛の被害を受けている人たちが声をあげています。みな、日々増えていく葛の問題に、なげき、頭を抱えているようです。

アメリカの南東端に位置するフロリダ州は、アメリカで最初に葛が広まった地域です。同時に、葛による被害が特に深刻な地域でもあります。また、アジアでは葛の根を利用しますが、アメリカでは食用や薬用としては扱われていません。そのため、このような嘆きにつながったのでしょう。

アメリカ中央部にあるコロラド州でも、葛の問題は深刻なものになっています。エバーグリーン墓地は、葛の影響で植生が大きく変わってしまいました。墓地の北にある州都デンバーに到達すれば、その被害はさらに深刻になるでしょう。

アメリカでは、葛の利用法はいまだ確立していません。バイオ燃料として利用する研究が行われていますが、実用化には至っていないのが現状です。一方、日本をはじめとしたアジア各国では、古くから葛をいろいろな方法で利用してきました。これらの利用法がアメリカで普及すれば、葛と共存していけるかもしれませんね。

葛は、古くから食用として利用されてきました。葛の根を精製して作った葛粉は、水に溶いて冷やすと固まる性質から、お菓子や料理に利用されています。ぷるんとした食感が魅力の葛餅や葛切りは、この葛粉が材料です。また茎も、新芽の柔らかい部分がアスパラガスのように食べられます。

葛の根を乾燥させたものは葛根と呼ばれ、漢方薬の一種として利用されています。発汗作用や鎮痛作用があるとされ、風邪薬として知られる葛根湯の主成分です。ほかにも花を乾燥させた葛花が、二日酔いの薬として利用されます。また、生の葉には止血作用があるとされています。

栄養豊富な葛は、多くの草食動物の好物です。特に羊や馬が好むとされ、飼料として利用されることがあります。しかし近年では、動物にあわせて栄養を調整した配合飼料が普及し、葛が飼料として使われることも減ってきました。

日本でも身近なところで繁殖している葛は、アメリカでは特に大繁殖をして甚大な被害を及ぼしています。土壌を守るために広範囲に植えたことや、気候条件があっていたことなど、多くの理由があげられ、現在では侵略的外来種として指定されるほどです。しかし葛には、古くからさまざまな利用方法があります。これらの利用法が現代のアメリカで普及すれば、葛と共存していくこともできるかもしれませんね。