バラの谷とは
バラの谷はヨーロッパのブルガリア中部にある渓谷です。正確には中央バルカン山脈とスレトナ・ゴラ山脈にはさまれた一帯を表しています。この一帯は昔からヨーロッパ有数のバラの生産地として有名でした。数世紀にもわたってバラを栽培し続けていた歴史を持っています。バラの谷のバラからは香水の原料となるバラ油が採れるため、世界中の香水ブランドから注目を集める場所です。
栽培されているバラの種類
バラの谷で栽培されているおもな種類はダマスクローズです。ダマスクローズは「オールドローズ」と呼ばれる古いバラの一種で、非常に香り高くバラの香りの代表格とされています。ダマスクローズを使った香水や香油は、古い昔から高級品としてもてはやされてきました。香水や香油の原料となるバラ油は、1kgを製造するために約3.5tのバラの花びらが必要になるほど、採取量が低いからです。
ダマスクローズから採れるバラ油が高級品とされているのは、採取量が少ない貴重品というのが大きいんですよ。
ダマスクローズの名前は、16世紀にヨーロッパの十字軍が、シリアのダマスカスから花を持ち帰った逸話に由来しているんだ。
バラの谷があるブルガリア
ブルガリアは正式名称を「ブルガリア共和国」といい、ヨーロッパ・バルカン半島に位置する共和制国家です。首都はソフィアといいます。ブルガリアの漢字表記は「勃牙利」です。通常は「勃」の一文字で表されています。7世紀までは東ローマ帝国領でしたが、その後は遊牧民族の侵攻を受けたり、オスマン帝国領になったりと波乱の歴史を歩みました。
ブルガリアの音楽、芸術など、あらゆる文化に多種多様な異文化要素が見られるのも、歩んできた歴史の影響が大きいです。
世界有数のバラ油生産国
日本ではヨーグルトが有名なブルガリアですが、世界最大級のバラ生産地であるバラの谷を有するため、世界トップクラスのバラ油生産国です。バラの谷はバラ栽培に最適な環境をそなえており、良質なバラ油を採取できます。バラ油は、すばらしい芳香と大量採取が難しいことから「金の液体」と呼ばれるほどの高級品です。ブルガリアが世界に誇る国家的名産品でもあります。
世界市場におけるバラ油の約7割が、ブルガリア産なんだよ。
教科書にあるバラの谷はブルガリア?
国語の教科書に採用された物語の一つに「ばらの谷」というタイトルを持つ物語がありました。バラ作りの名人である主人公が、理想の美しいバラを作ることに情熱を傾ける物語です。架空の物語ですが、主人公が住まう場所が高い山に囲まれた谷間の村と設定されていることなど、ブルガリアのバラの谷を意識したと考えられています。
バラの谷のバラ祭りとは
バラ祭りはバラの谷で開催される祭りです。バラの谷の中心都市であるカザンラクで、ダマスクローズの開花時期にあわせて開催されます。「ブルガリアの三大祭り」の一つとされるほど、規模の大きな祭りです。もともとはバラの収穫を各村で祝う小規模なものでしたが、近年は観光客を招き、大々的に祝う一大フェスティバルとなりました。
カザンラクは、ブルガリアの首都ソフィアから約200kmの場所にあるバラの谷の中心地です。
カザンラクという地名も、バラが関係しているんだ。香油を精製するときに使う蒸留窯カザンに由来しているんだよ。
バラ祭りの開催日は?
カザンラクのバラ祭りの開催日と日程は、5月中旬~6月初旬、メインイベントは6月の第一週の金曜日~日曜日とされています。しかしダマスクローズの生育状態にあわせて開催するため、実際は未定です。バラ祭りの歴史は古く、第1回目は1903年に開催された記録が残されています。しかし、資金不足や不況などで中止、もしくは規模を縮小して開催されたこともありました。
アクセス
- 開催場所のカザンラクは、ブルガリアの首都ソフィアから200kmの場所にある
- 首都ソフィアからバスや電車が出ているが、本数が少なく時間もかかる(バス:約3時間半、電車:約4時間半)
- 旅慣れない方にはツアー旅行がおすすめ
バラ祭りの見どころ
見どころ①民族舞踊フェスティバル
バラ祭りのメインイベントの一つは、カザンラク市北西のバラ公園で開かれる国際民族舞踊フェスティバルです。ブルガリア近隣諸国の舞踊団が集まり、踊りと演奏に興じます。さまざまな国から集まった人たちが色鮮やかな民族衣装をまとい、伝統音楽を奏でる光景は「文化のるつぼ」と呼ばれるブルガリアの祭りにふさわしいでしょう。
見どころ②バラの女王
バラ祭りの初日には「バラの女王」が選ばれます。バラの女王とは、いわゆるミス・コンテストと同じものです。その年に高校を卒業する女生徒のなかから選ばれ、バラ祭りの中心的存在としてパレードに参加します。また、翌年のバラ祭りで新しいバラの女王が決まるまでの一年間、カザンラク市の顔として、バラの谷のダマスクローズを世界に発信する役目も担う、重要ポジションです。
見どころ③パレード
バラ祭りのクライマックスとして、特に盛り上がるのがパレードです。カザンラク市の大通りを、バラをたくさん積んだ車やバラの女王、民族舞踊フェスティバルにも参加した民族舞踊団が練り歩きます。パレードの参加者たちがバラの花びらをまいたり、ローズウォーターを散布機で吹きかけたりするため、辺りがうっとりするような甘い香りに包まれる華やかで香り高いパレードです。
見どころ④花摘み
バラの花摘みは、バラ祭りの最終日の朝に行うイベントです。広大なバラ畑で、ブルガリアの伝統的な民族衣装に身をつつんだ人たちが、手で花を摘んでいきます。バラ油を採るバラは、花が開ききらないうちに摘み取らなければなりません。バラが開ききってしまうと、バラ油が蒸発してしまいます。大人も子どもも真剣です。
バラの栽培と収穫は、大変な苦労と繊細さが必要な作業です。少しの気候の変化で、生育状態も収穫期間も変わってしまいます。
バラ祭りは生産者たちの苦労をねぎらい、無事に収穫できたことを感謝する気持ちもこめられているんだよ。
見どころ⑤バラ製品の販売
バラ祭りの期間中は町中に出店が立ち並び、ローズウォーターや、オーガニックローズオイルなどのバラ製品、バラの造花で作った花冠、ブルガリアの刺繡品、銀細工や木彫りの細工物などが販売されています。地元ということもあり、日本で購入するよりも安価で入手できます。土産品にもおすすめです。
モロッコにもあるバラの谷
「バラの谷」と呼ばれる地域を有する国は、ブルガリアだけではありません。モロッコにもバラの谷と呼ばれる場所があります。モロッコは北アフリカに位置する立憲君主制国家で、正式名称はモロッコ王国です。首都はラバトといいます。モロッコでバラの谷と呼ばれているダマスクローズの生産地は、カスバ街道沿いにある村ケラア・ムゴナという場所です。
モロッコは、ブルガリアやトルコと並ぶダマスクローズの世界的生産国なんですよ。
ブルガリア、フランス、トルコ、モロッコの4カ国は、ダマスクローズの世界四大産地と呼ばれているよ。
バラ祭りもある
ブルガリアのバラの谷と同じく、モロッコのバラの谷も年に一度、ダマスクローズの開花時期にあわせてバラ祭りを開催しています。モロッコのバラは4月~5月が開花時期にあたるため、5月の1週~2週目と、ブルガリアよりも早いです。しかし、モロッコのバラ祭りもバラの生育状態や宗教的事情によって、開催日が変わることがあります。
宗教的事情とは
モロッコの国教はイスラム教です。イスラム教には「ラマダン」と呼ばれる一定期間断食を行うしきたりがあります。ラマダンの時期は年によって異なるため、バラ祭りの時期と重なる場合はバラ祭りの時期をずらして開催します。
バラの谷の香りを楽しもう
ブルガリアのバラ祭りは、日本からは簡単に行ける場所ではありません。しかしブルガリアのダマスクローズを使った製品は多く流通しています。高級品のため、高価な品物が多いですが、香りのすばらしさと満足感はそれだけの価値がある逸品ぞろいです。機会があれば、自分へのごほうとして、ダマスクローズの香りを堪能してみましょう。
有名なシャネルの香水「N゜5(ナンバーファイブ)」にも、バラの谷のダマスクローズが使用されているんだよ。