冬虫夏草とは
冬虫夏草(トウチュウカソウ)は、古来から中国で利用されてきた素材です。漢方の生薬として使われたり、薬膳料理などで食用にされたりしてきました。冬虫夏草は、虫と植物が一体になったような姿が特徴的で、初見では虫なのか、植物なのかわからないほどです。
冬虫夏草はキノコの総称
冬虫夏草は、植物のような、虫のような名前が付けられていますが、正体は「キノコ」です。冬虫夏草は子囊(しのう)菌類の総称で、昆虫や幼虫に寄生し、成長するとキノコとして地上に現れるいう不思議なライフサイクルを持ちます。菌の種類によって寄生する生物が異なり、セミに寄生するものはセミタケ、蛾に寄生するものはサナギタケと呼びますが、日本ではすべて冬虫夏草と呼ぶことが一般的です。
殺虫キノコと呼ばれることもある
冬虫夏草の別名は、中華虫草やセミタケなどですが、なかでも恐ろしいものが「殺人キノコ」です。昆虫に寄生した冬虫夏草の菌は、昆虫の体内で菌糸を増やし、最終的に虫の部分から殻を破って、子実体(人々が日ごろ「キノコ」と認識する部分)が地上へ出きます。冬虫夏草に寄生された虫は養分を吸われ、体は菌糸にむしばまれて命を奪われるため、「殺人キノコ」と呼ばれるようになりました。
もっとも歴史ある冬虫夏草「シネンシツトウチュウカソウ」
中国で冬虫夏草と呼ぶものは、オオコウモリガの幼虫に寄生するシネンシツトウチュウカソウ(学名Ophiocordyceps sinensis)のみとされており、そのほかの昆虫に寄生するものは「虫草(チュウソウ)」と呼びます。シネンシツトウチュウカソウは、チベットなど限られた地域にのみ存在し、漢方としての効能が認められていたため、値段が高価で、チベット民族の生計を支える存在でした。
冬虫夏草の生態
冬虫夏草は、殺人キノコと呼ばれるように、宿主となる昆虫に寄生して成長します。名前に「冬」と「夏」という漢字があてがわれていますが、これは冬虫夏草の姿が季節によって異なることが理由です。
生態①冬は虫に寄生
冬虫夏草は、冬は昆虫や幼虫に寄生して生存します。冬の間は、虫の体内でゆっくりと菌糸を増やしながら成長を続けるため、人の目で冬虫夏草の姿を確認できません。普段は土の中に存在していますが、幼虫などが卵から孵化したり、地上で孵化した幼虫が土の中にもぐったりする過程で感染します。詳しい感染経路などは未だ不明です。
生態②夏はキノコになる
冬の間、虫の体内でじっくりと時間をかけて成長した冬虫夏草は、夏になると虫の殻を破って地上部へと姿を現します。地上部はキノコの見た目をしていますが、地下部は虫の部分が残されており、まるで人魚のように体の上下で違う見た目です。人が日ごろ食べるキノコも、昆虫に寄生せずとも、養分を獲得できるなんらかのもの(木やオガクズなど)に菌糸を張り巡らせています。
生態③冬虫夏草は世界で500種類以上
冬虫夏草は、世界に500種類以上存在しているといわれています。日本にも冬虫夏草の仲間といわれるものは400種類以上存在しており、2017年には栃木県で30~40種類が発見されました。ただし、厳密に冬虫夏草と呼べるチベット産のシネンシストウチュウカソウは、宿主となるオオコウモリガが日本にはいないため、日本の自然下には存在しません。
冬虫夏草は日本で栽培技術が確立
シネンシツトウチュウカソウは、チベットなど限られた場所でのみ採取できる貴重な冬虫夏草です。しかし、日本製薬メーカーが人工栽培に成功したことで、日本でも入手しやすくなりました。シネンシツトウチュウカソウ以外にもカイコのサナギに寄生するコルジセプス・ミリタリスも人工栽培可能です。シネンシツトウチュウカソウのほうが栽培技術が必要とされ、値段も高価といわれています。
冬虫夏草の利用方法①漢方
冬虫夏草は、収穫し、乾燥したものを古くから漢方(生薬)として利用されてきました。「秦の始皇帝が健康のために愛飲していた」「楊貴妃が美容のために飲んでいた」といった記述も残されているほど、歴史のある漢方といえます。書物として残されている記述のうち、もっとも古いものは710年のチベットの書籍です。
冬虫夏草の効能
冬虫夏草に期待できる効能はさまざまです。中国では、セミに寄生する冬虫夏草は、子どもの夜泣きを抑える効能があるといわれています。また、夜泣き防止の効能のほかにも、体のエネルギー生産効率をあげる、健肺効果がある、強壮効果があるなど、さまざまな効能が期待されてきました。虫と菌類の壮絶な戦いの末、誕生する冬虫夏草に強い生命力を感じたのでしょう。
β-グルカンが豊富で免疫力強化
冬虫夏草には、β-グルカンが豊富です。β-グルカンは多糖類の一種で、自然界に広く存在します。さまざまな素材のなかでも、漢方で有名やアガリクスやメシマコブ、霊芝(レイシ)由来のβ-グルカンには免疫力向上の効果があると有名です。同じように、冬虫夏草のβ-グルカンも免疫力向上が期待できるとされています。
ボタニ子
日ごろ見かける「ヨモギ」も漢方のひとつです。ヨモギについて解説した記事はこちらからどうぞ。