消石灰とは
消石灰はアルカリ性
消石灰(読み方は「しょうせっかい」)とは、水酸化カルシウム(Ca(OH)2)の通称です。水に少し溶け、pH12くらいのアルカリ性になります。このアルカリ性という性状が、消石灰の用途・危険性を理解する鍵です。

なるほど、消石灰はアルカリ性ってことね
日本の土壌は酸性になりがち
日本の土壌は酸性に偏りがちです。これは日本に雨が多いことに起因します。日本列島は季節風の通り道。季節風が太平洋・日本海から膨大な量の水蒸気をもたらすため、地域によっては年間3000〜4000mmもの降水があるのです。
(そういえば日本の古称に「葦原中国(あしはらのなかつくに)」というのがありますね。アシの生い茂る湿地が広がる、水の豊かな環境だったのでしょう。)
消石灰の用途

雨が多いのは分かったけど、なんで土が酸性になるのさ
そもそも雨水自体が弱い酸性(pH5〜6)です。これは、生物や火山の活動で二酸化炭素や硫黄酸化物が生じ、雨に溶け込むためです。
さらに雨は、土から様々なものを洗い流してしまいます。特に石灰石や灰分などのアルカリ性物質は、徐々に溶けて流失してしまうのです。
酸が供給され、アルカリが流される。その結果、土は酸性に偏ります。
消石灰は酸性の土を中和
酸性土壌をアルカリで中和
「酸性の土にアルカリを加えて、中性に戻してやろう」というのが消石灰のコンセプト。
作物によって生育に適したpHは異なるので、土が酸性のままだと不具合が出ます。そこで消石灰を土に混ぜると、ゆっくり溶けて中和してくれるのです。
消石灰の工業的な作り方
家庭菜園でお世話になる消石灰。工業的な作り方も知っておきましょう。
消石灰の原料は石灰石です。石灰石の主成分は炭酸カルシウム(CaCO3)であり、加熱すると酸化カルシウム(CaO)が生じます。酸化カルシウムに水を加えると激しい発熱反応を起こし、水酸化カルシウムが生成されます。
- CaCO3 → CaO + CO2
- CaO + H2O → Ca(OH)2
(中間物の酸化カルシウムは、「消石灰の安全な使い方」で改めて解説します。)
土を中和する目的は?
養分を吸収しやすい環境を作る!
「日本の土壌は酸性に偏りがち。だから消石灰で中和する」
ここまでは良いとして、そもそも酸性土壌は何が悪いのでしょうか?それには、養分の吸収効率が関わっています。

……養分を吸収するってどういうこと?
「養分を吸収する」とは、養分を土壌粒子から引き剥がして根に取り込むこと。これは、土との綱引きなのです。
特に窒素、リン、カリウムは「肥料の三要素」と呼ばれるほど重要であり、これらの吸収効率が栽培の肝になります。
肥料の三大要素とは
窒素はアミノ酸の材料。植物の体を作ります。
リンはエネルギー輸送体やDNAを構成。特に開花・結実に必要です。
カリウムは細胞の浸透圧調整、栄養分の輸送などに関わります。
酸性土壌は窒素とカリウムを強く吸着し、植物が取り込みにくくなります。
さらに、酸性土壌ではアルミニウムがリンの吸収を阻害します。アルミニウムがリンを捕獲し、植物が吸収できない形(難溶塩)になってしまうのです。土を中和してやれば、これらの影響が緩和され、効率よく養分を吸収できるのです。
土壌の性質により、肥料からの養分吸収に違いが出る
スライドのように、中性土壌であれば、N・P・Kを吸収しやすくなり、栽培が成功しやすくなるわけです。

ただし、中性を通り越してアルカリ性になると、リンの吸収効率が落ちて開花不良を起こす可能性があるよ!
消石灰の雑草対策としての可能性
日本の土壌は放っておけば酸性に偏ります。ということは、日本の自然でたくましく生きている野生植物(つまり雑草)は、酸性土壌で生き残る術を身につけているはずです。
一方、野菜の多くは地中海沿岸や中近東、南米高地など、中性土壌の多い地域にルーツをもちます。日本の酸性土壌は、本来彼ら(野菜たち)の土俵ではないのです。
さて、酸性土壌で両者が競い合えば、どちらが有利でしょうか?

野菜にとってアウェイ戦だね。雑草が有利だ。
そうですね。だからこそ、消石灰で土を中和する意味があります。少しでも野菜にとって有利な環境を作り、雑草対策の基礎固めをする。土の中和には、雑草対策という側面もあるのです。
消石灰の土壌消毒効果
土壌消毒としての使い方
消石灰は強いアルカリ性なのでタンパク質を破壊する危険性があります。その危険性を逆手に取ったのが、消毒効果。消石灰は細菌やウイルスを殺す効果が大きく、水の浄化や家畜伝染病の予防に利用されています。その効き目は絶大なようです。
石灰系化合物は金属銀より強い殺菌剤であり、また水酸化カルシウムはクロラミンにほぼ匹敵する殺菌剤であることがわかる。
※この文献では、大腸菌に対する殺菌効果を比較しています。
- 石灰系化合物:ここでは水酸化カルシウム、酸化カルシウム、炭酸カルシウムを指します。
- 金属銀:抗菌製品に使われます。
- クロラミン:水道水の消毒に使われます。

消石灰を土にまけば、土壌消毒効果が期待できますね。
消石灰の虫除け効果

細菌やウイルスが防げるなら、虫除けにもなる?
実際、消石灰は畑や堆肥の虫除けとして利用されています。アルカリ性の粉は、古くから虫除けに使われてきました。江戸時代の文献にも、防虫・殺虫剤として「灰類」「石灰」が載っているそうです。
古くから防虫・殺虫剤として全国的にかなり頻度高く使用されてきたものは表1の中に○印を付したものであり、灰類、石灰、煤、油類 ・アセビ、クララ、センダン、モモの葉、タバコ、ヨモギなどはいまでも民間で使用される。
安全性との兼ね合いが大事
とはいえ、消毒や防虫のためと言って家中を消石灰まみれにするのはダメですよ。アルカリ性であることをお忘れなく。

安全性と効果の兼ね合いが大事なんだな。
消石灰の安全な使い方
アルカリであることを忘れないで
安全な服装でアルカリ対策
消石灰はアルカリです。皮膚や粘膜に触れると爛れる危険性があります。「俺は肌が丈夫だから・・・」と油断している方もいますが、粉塵を吸えば気管支炎、目に入れば失明するおそれも。消石灰を扱うときは長袖長ズボンを着用し、ゴム手袋を着けましょう。舞い上がった粉に曝露しないよう、マスクとゴーグルも必ず着用するようにします。
中性の土の作り方
服装を整えたら、いよいよ消石灰を土に加えます。袋から粉をすくうときは、なるべく手で掴まずスコップを使いましょう。土に散布するとき、豪快に撒き散らすと通行人に危害を加えるかもしれません。「土の上に置く」くらいの感覚で、丁寧にふりかけます。
その後は鍬や土起こしで土をかき混ぜ、なるべく均一にします。混合が不十分だとpHが不均一になり、作物の生育にムラが出るかもしれません。丁寧に混ぜましょう。
早めに撒く
消石灰を撒くのは原則、「種まき・植え付けの2週間以上前」です。消石灰はゆっくり溶けるため、散布直後は固体のまま残っている可能性があります。固体の消石灰が植物の根に直接触れると、強いアルカリで組織を傷めてしまいます。消石灰を撒いた後は、しっかり溶けるまで2週間以上(作物によってはもっと長く)待ちましょう。
消石灰と生石灰の違い
生石灰と間違えないで!
そして何より、絶対に「生石灰」と間違えないでください!生石灰(読み方は「せいせっかい」または「きせっかい」)は酸化カルシウム(CaO)の通称です。「工業的な作り方」の項に少し登場しましたね。
読み方は似ているけれど違います!
消石灰との違いは、水との反応性の高さ。消石灰は水に少し溶けるだけですが、生石灰は水に触れると激しく発熱して消石灰を生じます。汗や唾液、空気中の水分とも反応するため、乳幼児がしゃぶって火傷をしたり、雨水が染み込んで火災が起きたりした事例もあります。
字面と読み方が似ているため、通販などで購入する場合に誤発注の可能性があります。土壌中和に使うのは、「さんずい」のある石灰と憶えるようにしましょう。
安全かつ有効に使用
作物の養分吸収を補佐し、雑草の抑制効果も期待できる消石灰。安全に気をつけて、有効に使うようにしましょう。
写真:消石灰の結晶