植物からできる糸の原料にはどんなものがある?
糸は、大きく分けて2種類の原料から作られています。ひとつは植物や動物から採取した「天然繊維」、もうひとつは石油などから人工的に作られている「化学繊維」と呼ばれるものです。しかし、繊維の状態では短くて細いため、使い物になりません。繊維を数本束ねてより合わせることで、糸として使えるようになります。
天然繊維
天然繊維とは、植物の茎や動物の毛皮などを利用して作られています。天然繊維は長さが短くて不揃いなのが特徴で、水濡れに弱いですが、保温性、通気性ともに優れています。洋服など直接肌に触れるものに使用されることが多いです。紀元前より用いられてきたといわれており、カイコなど虫から作る絹糸も天然繊維にカテゴライズされています。
ボタニ子
動物繊維のなかでも、カシミヤはごく少量しか採れない貴重なものですよ。
化学繊維
化学繊維とは、工場などで人の手によって人工的に作られたものです。ペットボトルや石炭などがおもな材料ですが、植物に薬品をかけて繊維を取り出す手法も化学繊維と呼ばれています。天然繊維と比較すると長さが均等で扱いやすく、安価なものが多いのが特徴的です。
植物が化学繊維に分類されるケース
植物は本来、天然繊維と呼ばれるものですが、天然繊維として使われるのは表面のごく一部です。植物の細胞であるセルロースを取り出して繊維状にするには、科学の力が欠かせません。天然繊維としては使用しない種子や木くずなどは、エコな「再生繊維」として注目されています。
ボタニ子
繊維を束ねてより合わせたものが「糸」、その糸を使った物が「織物」として洋服などに変身しますよ。
ボタ爺
繊維は2本、3本とたくさん束ねることでより太くて頑丈な糸になるんじゃよ。
糸の原料【天然繊維】
①綿花
綿花は、コットンとも呼ばれる綿毛が原料です。綿花の歴史は古く、紀元前から世界各地で栽培されていたといわれています。コットン製の糸は肌触りがよく、吸湿性・吸水性にも優れる一方、乾きにくくて縮れやすいのが特徴です。コットンの細胞壁に含まれているセルロースは、科学的に取り出すことでレーヨンとして活用されています。
綿花の基本データ
科目 | アオイ科ワタ属 |
原産国 | 北アメリカ大陸 |
草丈 | 約150cm |
その他の用途 | とくになし |
ボタニ子
綿花は家庭菜園でも育てられます。こちらの育て方を参考に、手作り糸に挑戦するのも面白いですよ。
②麻
麻は大麻や亜麻などから作られる繊維の総称で、「ヘンプ」や「リネン」とも呼ばれます。亜麻などさらっとした肌触りのものもありますが、種類によってはチクチクするのが特徴的です。麻の繊維は強靭で壊れにくく、風通しがよいことから、衣料のほかに袋などに利用します。
おもな麻の種類と特徴
種類 | 科目 | 特徴 |
亜麻 (リネン) |
アマ科アマ属 | ・汚れに強く、年中素材に向く ・丈夫で長持ちするものの、しわがつきやすい |
苧麻 (ラミー) |
イラクサ科 カラムシ属 |
・通気性がよく、夏衣料向き ・繊維は太くて、絹のような光沢がある |
大麻 (ヘンプ) |
アサ科アサ属 | ・抗菌・抗臭に優れる ・通気性がよく、夏衣料向き |
黄麻 (ジュート) |
アオイ科 ツナソ属 |
・強靭で扱いやすい ・しわになりやすく、水濡れに弱い |
サイザル麻 | キジカクシ科 リュウゼツラン属 |
・柔軟性・弾力性がある ・耐久性が高い |
ケナフ | アオイ科 フヨウ属 |
・軽量で風通しがよい ・やや素朴な風合いがある |
麻と表記できるのは2種類だけ
衣料品として多く使われる麻は、「リネン」「ラミー」「ヘンプ」の3つです。しかし、このなかで「麻」と表記してよいのは、「リネン」と「ラミー」だけです。これは「家庭用品品質管理法」に基づくルールとして決められています。「ヘンプ」に関しては、「指定外繊維」と表記されていることがあるため、素材チェック時の参考にしてみてください。
麻って、毒物で有名な大麻草と同じじゃないの?
ボタニ子
確かに、毒物の大麻と衣料で使う麻(ヘンプ)は同じものです。しかし、成長しきって毒性がない麻を衣料に使っているので、心配ありません!
ボタ爺
でも、繊維採取を目的とする場合は栽培の許可を取らねばならんぞ!勝手に栽培すると、法律違反じゃ!
③クマザサ
クマザサは、日本海側を中心に分布しているイネ科の植物です。冬時期に葉が隈取りのような模様になることから、名づけられました。クマザサで作られた糸は、クマザサを和紙にすき込み、それを細くカットしてより合わせてから使用します。抗菌防臭に優れ、肌触りがよいのが特徴です。
クマザサの基本データ
科目 | イネ科ササ属 |
原産国 | 日本 |
草丈 | 約2m |
その他の用途 | 和紙の原料、漢方薬 |
④ラフィアヤシ
ラフィアヤシは、マダガスカルが原産の大型の植物です。おもに、葉の繊維を糸の材料として利用します。アフリカではポピュラーな繊維材で、古くから敷物やかごなどに加工されてきました。ラフィアヤシで作られた糸は、単に「ラフィア」と表記されることもあります。滑らかで太陽光にも強く、型崩れしにくいです。夏用の帽子やかごバッグの加工に使われていますよ。
ラフィアヤシの基本データ
科目 | ヤシ科ラフィア属 |
原産国 | アフリカ |
草丈 | 約20m |
その他の用途 | 工芸品、竿、樹液は酒の原料になる |
糸の原料【再生繊維】
再生繊維とは、不要となった植物を特別な薬品で溶かして新たに作られた繊維です。綿花や麻など、一度繊維として加工したものでも、科学の力を使えば再生繊維としてよみがえります。再生繊維は、天然繊維と化学繊維のハイブリッドともいえるでしょう。
①キュプラ
キュプラは、絹のような美しさと肌触りが特徴的です。コットンリンターという、綿花の種子の周りに生えている細かい繊維を、銅アンモニア液に溶かして作ります。キュプラは、土に埋めると自然に還るため、エコの観点からも注目の再生繊維です。
名前の由来は製造法によるもの
キュプラの正式名称は「cupurammonium rayon(キュプラニウム・レーヨン)」です。もともとは製造で使用する「銅アンモニア液」を指しており、略称して「キュプラ」と呼ぶようになりました。
②レーヨン
レーヨンは、絹のような滑らかさが特徴的な化学繊維です。マツなどの木材や綿花など植物の細胞から取り出したセルロースと、綿花の種子から取り出した天然繊維を合わせて作られました。コストパフォーマンスがよく高級感がありますが、縮みやすいのが欠点です。
名前の由来は「光」
レーヨンは英語で「rayon」と表記します。これは光のような美しさと、コットンを利用して作られたことが由来です。しかし、レーヨンという呼び方は日本のみの主流で、欧米などでは「ビスコース」と呼ばれています。
③ポリノジック
ポリノジックは、レーヨンを改良して作られた再生繊維です。本来は、絹を人工的に作るために技術開発されました。レーヨンと比較すると強い繊維質で、しわになりにくいのが特徴です。ポリエステルなどの化学繊維と混紡することが多く、通気性・保温性ともに優れています。
ボタニ子
ポリノジックは、おもに着物用肌着の材料として使われています。着心地がなめらかで、動きやすいです。
④リヨセル
リヨセルは、ユーカリなどの木材パルプに溶液を加えて作られています。さらっとしていて肌触りがよく、洗濯しても型崩れしにくい素材です。リヨセルは、化学薬品も安全性が確認されているため、水質汚染などの心配がありません。また、レーヨンやキュプラと同様に土に埋めると自然に還ります。環境に配慮した新素材として注目ですね。
ボタニ子
リヨセルは加工に利用した溶液も再利用します!とてもエコな再生繊維ですね。
糸は身近な植物も原料になっている
糸は、編み物用も縫製用も同じ繊維から作られています。加工の方法によって、質感や肌触りに違いが出るのが、糸の面白いところです。また、糸の原料にあった取り扱いをすれば、製品を長く愛用できます。綿花やクマザサであれば家庭でも栽培できるので、手作りに挑戦してみるのもよいですね。
動物の繊維としては、カシミヤやアルパカ、羊の毛などが有名ですね。