日本人ともみじの深い関係
いにしえの日本人も愛でたもみじ
「もみじ」と呼ばれるようになったのはいつから?
奈良時代にはすでに、紅葉することを意味する「もみつ」という言葉がありました。その名詞形である「もみち」が今のもみじの名前の由来であると考えられています。さらに平安時代には「もみつ」は「もみづ」に、「もみち」は「もみぢ」と変化し、より現代の「もみじ」に近い呼び名となりました。
もみじが登場する文献はこんなに!
万葉集には「我がやどにもみつかへるで見るごとに妹をかけつつ恋ひぬ日はなし」(我が家の紅葉を見るたびにあなたのことを恋しく思わない日はない)という歌がおさめられています。また、源氏物語のなかにも平安時代の宮廷において紅葉を鑑賞しながら宴を楽しんだ描写が描かれています。
時を超え愛され続けるもみじ
今なお私たち日本人の心を惹きつけてやまない、もみじ。庭木として失敗なく育てるには、いつ、どのようなお世話をしたらいいのでしょうか。今回は、もみじの剪定の仕方や季節ごとの手入れの方法をみていきます。
もみじの剪定スケジュール①春
春の時期のもみじの様子
春の訪れとともに、枝のさきに白っぽくあらわれ始めたもみじの小さな葉は日ごとに育ち、やがてはっきりとした形に整っていきます。柔らかく初々しいその葉が赤子の手にたとえられるのも納得です。4月5月には黄色~紅色の小さな花を咲かせますが、ごく控えめな花なので気づかれないこともままあります。
春の時期の剪定
春めいてきて枝の先に小さな若葉が芽吹くころには、すでに剪定の適期を過ぎています。根から旺盛に吸い上げる水分が、枝の切り口から樹液となって流れ出してしまい、枯れの原因になります。この時期は太い枝はもちろん、細い枝でも切るのはやめておきましょう。
春の時期の手入れの仕方
柔らかい若葉はアブラムシの恰好のすみか。アブラムシの中には羽のある種類のものもいて、どこからかともなく飛んできて、あっという間に増えてしまいます。専用の殺虫剤も市販されていますが、テントウムシを放して捕食させるのもよい手です。自然にやさしくお金もかかりません。木の幹にテントウムシの卵をみつけたら取らずにふ化させて、アブラムシを退治してもらいましょう。
もみじの剪定スケジュール②夏
夏の時期のもみじの様子
初夏にあたる5月から6月にかけて青々とした葉を茂らせていくもみじ。梅雨のあいだ、雨に濡れそぼる様子にもしっとりとした風情がありますね。盛夏には日陰をつくり、涼をとどけてくれます。暑いさなかの7~9月に翼のついた種をつけ、風に乗って遠くまで子孫を旅に出します。
夏の時期の剪定
本来、半日蔭から日陰で育つもみじにとって夏の日差しはきついもの。ただでさえダメージを受けているところに枝まで切ろうとするのは、人間でいえば過労で体力が落ちているところに不要な手術を強制するようなものといえます。梅雨時期にかぎり伸びすぎた枝を切ることは可能ですが、暑くなってからは気になる枝があったとしても肌寒くなるまで待ちましょう。
夏の時期の手入れの仕方
照りつける日差しが強すぎると葉が焼けて変色したり、木の幹に直射日光が当たりすぎるとあらぬ場所から徒長枝が噴出したりします。あらかじめ日当たりを考えて植え付ける場所を選ぶべきではありますが、移植が無理な場合は、せめて朝夕に霧状のシャワーをかけて葉を湿らせてあげましょう。近年は地球温暖化の影響で5月や6月ごろから夏日になることも珍しくなく、注意が必要です。
もみじの剪定スケジュール③秋
秋の時期のもみじの様子
萌黄いろの新緑の春のもみじ、涼しげな夏のもみじもいいものですが、なんといっても秋がもみじの真骨頂。燃えるような深紅に、夕焼けに似た茜いろ、ひときわ輝く金茶いろ…。その姿はまさに山の上に織る錦のよう。色づくもみじを愛でながら、つくづく四季のある国に生まれてよかったと実感する人も多いのではないでしょうか。
秋の時期の剪定
晩秋、紅葉が盛りをすぎて黒ずんできたら、樹形を乱す方向にのびようとする細い枝や込み合った部分の枝を間引きます。本格的な剪定の季節である真冬はもう少し先なので、ここでは整理する程度にしておきましょう。
秋の時期の手入れの仕方
意外に見過ごされがちな台風による被害。とくに風が強く吹くと、風の当たる向きによっては枝が折れてしまったりします。台風のあとは木の状態を観察して、折れてしまった所はそのままにせず切り口を整えておきましょう。
もみじの剪定スケジュール④冬
冬の時期のもみじの様子
もみじの目覚めは早く、まだ寒さの厳しい正月明けから樹液が動き出します。凍てつく寒さのなかで、人知れず着々と春の準備をすすめているのです。今はどんなに寒くても、いつか必ず春がやってくることをもみじは知っているのですね。
冬の時期の剪定
葉が落ちた12~2月が剪定の適期。とくに太い枝の剪定は、樹液が動き出す年明けまでには済ませましょう。成長の旺盛な徒長枝を中途半端に切るとかえって樹形を乱すので、かならず枝の根元から切り落とします。また、樹高を押さえるために主幹を切る場合は、節の出ている場所のすぐ上で切ります。
冬の時期の手入れの仕方
葉がすっかり落ちると、木の幹がよく見えるようになります。その状態で、幹をくまなく観察してみましょう。1.5センチほどのまだら模様のたまごがついていたりしませんか?一見うずらのたまごのようなそれは、イラガのたまごです。見逃すと春に幼虫になって、するどい毒針で刺されるはめになりかねません。いまのうちに取り去ってしまいましょう。案外しっかりとくっついているので、木を傷つけないよう慎重に取り除きます。
5月のゴールデンウイーク前後、小さく控えめに咲くもみじの花。花期を過ぎると茶色く枯れて地面に落ちます。