オニドコロとはどんな植物?
名前からしておどろおどろしい感じのする「オニドコロ」は、漢字では「鬼野老」と書きます。別名「トコロ」や「ナガトコロ」と呼ばれることもあります。見た目はヤマノイモに似ていますが、あまり聞き慣れない名前です。ここでは、そんな不思議なオニドコロという植物について、ご紹介いたします。
名前の由来
オニドコロの名前の由来には、いくつもの説がありますが、いまだ正確にはわかっていません。ここでは、2つほどご紹介します。
由来①:根の形から
根に塊(凝塊)ができることから「凝(とこ)り」とよばれ、それがなまって「トコロ」となり、葉が大きいことから「鬼」がついて「オニドコロ」となったという説です。
由来②:インドネシア語「トンコロ」から
インドネシア語でイモの根・根茎を「トンコロ」と呼ぶことから「トコロ」となり、さらに大きさが大きいため「鬼」がついたという説です。
【番外編】漢字【鬼野老】の由来
名前の由来が不明なのに対し、漢字の由来ははっきりしています。見た目から、海の老人で「海老(エビ)」になぞらえて、根茎から生えている根が老人のヒゲのように見えることから、野山の老人で「野老(トコロ)」となり、【鬼野老】と漢字があてられたとのことです。
分類
分類は、ヤマノイモ科のヤマノイモ属で、ツル性の多年草です。見た目通り、山芋や自然薯と同じ仲間になります。
分布
日本では北海道から九州まで幅広く分布し、山地ややぶに生息しています。他の国では、中国や朝鮮半島にも分布しています。
特徴
特徴①:葉
とんがり部分がシャープできれいなハート型といった感じです。大きさは5センチ~14センチほどで、1節ごとに1枚葉が生え、次の節には逆の位置に、というように互い違いに葉が生え、ツルを伸ばしていきます。
特徴②:花
花は7月~8月に咲きます。特徴としては、雄花と雌花がそれぞれ別の花茎(花だけつく茎、葉がつかない)に咲き、雄花のほうが多くの花をつけることです。花の色は黄緑色で、雄花は葉の横から飛び出すように直立して伸びますが、雌花は下に垂れ下がるように伸びます。上の写真では、左が雄花、右が雌花になります。
特徴③:根
正確には根茎や地下茎という部分に大きな特徴があります。ヤマノイモより細く、ゴツゴツした見た目です。そして、とても苦く、毒性があります。生で食べると、嘔吐や胃腸炎を引き起こす可能性があるため、食べる際は注意が必要です。
オニドコロの歴史
オニドコロは古くから日本に自生している在来種で、昔は救荒植物(飢饉の際などに食料にする、自生している自然の非常食)として重宝されていたとう歴史があります。別名「トコロ」として、江戸時代の書物に記述があるほど昔から親しまれている植物です。毒性があるオニドコロですが、灰汁や重曹で煮ることで毒抜きができます。そのため今でも青森県あたりでは、市場などに並び、嗜好品として食べる地域もあります。
オニドコロの食べ方
調理方法
オニドコロは根茎部分を食べることができますが、毒抜きが必要です。時期としては、11月~12月頃が食べごろです。食べ方は、灰汁か重曹で3時間から4時間煮て、水に晒し、皮をむいてそのまま食べます。煮物としても使われます。
味と香り
香りはさつまいものようで、モチモチした食感ですが、とにかく苦味が強いです。一般的に食用とされている地域では、スーパーなどで販売しており、この苦味が病みつきになるという方もいるようです。
【豆知識】オニドコロの意外な一面
毒があるのに縁起物
オニドコロは別名「トコロ」とも呼ばれます。昔は「所領(ところ)」=領地を意味する植物とされ、正月飾りとして、領地の安泰を願う意味で飾られていました。他にも、ひげ根が老人のヒゲのように見えることから、長寿を祝う意味で正月飾りに使われたという説もあります。
毒草なのに薬草?
毒性のあるオニドコロですが、薬として今でも使われています。生薬名は「菟薢(ひかい)」といい、関節痛などの痛み止めや湿疹などに効果があります。
オニドコロとヤマノイモの違い
毒性のあるオニドコロと、普段から食用とされているヤマノイモは、見た目がよく似ています。しかし、よくよく観察すると違う部分もあります。間違って毒性のあるオニドコロを食べてしまわないよう、わかりやすい見分け方のポイントをご紹介します。
違い①:むかご
見分ける方法として最もわかりやすいのが、むかごがあるかどうかです。ヤマノイモにはむかごがつきますが、オニドコロにはつきません。見ただけで判別できるとても確実な方法ですが、この方法は期間限定となります。むかごは9月~11月頃までしかつかないため、他の時期は別の方法で見分ける必要があります。
【豆知識】「むかご」とは?
むかごとは、葉の根元のツルにできる小さな丸い肉芽です。大豆ぐらいの大きさで、食べることができます。あまり量がとれないため、スーパーなどで見かけることはほぼありません。食べ方は、茹でたり、炊いたりして食べます。栗と似たホクホク感があるとのことです。むかごは種子と同じように、土に植えると芽をだすため、むかごから栽培することもできます。
【注意】むかご=食用とは限らない
むかご自体に少量の毒がある「ニガカシュウ」という植物があります。上の写真がニガカシュウのむかごです。ヤマノイモの仲間で、ヤマノイモと同じようにつるを伸ばし、似たような葉をつけます。ヤマノイモとの大きな違いは、むかごの形です。食用のヤマノイモのむかごは表面がつるっとした球体ですが、ニガカシュウのむかごは表面にゴツゴツした突起があります。むかごで迷ったら、表面の凹凸を確認することがポイントです。
違い②:葉の形とツルの巻き方
オニドコロ
ヤマノイモの葉より幅が広く、丸っこい印象です。しかし、葉の大きさや形には個体差があるので、葉では見分けがつかない場合もあります。ツルの巻き方は右巻き(時計回り)で、ヤマノイモとは逆になります。確実に見分けるなら、ツルの巻いている方向を確認する必要がありますね。
ヤマノイモ
ヤマノイモの葉はとてもシャープな細長い形です。葉の生え方は1つの節に向かい合うように2枚の葉が生えます。ツルの巻き方は左巻き(反時計回り)です。
違い③:実
オニドコロ
オニドコロの実は、ヤマノイモより細長く楕円形に近いです。そして、向きがヤマノイモと真逆の上向きにつきます。実で見分けるなら、向きで見分けるとわかりやすいですね。
ヤマノイモ
ヤマノイモの実は丸っこく、垂れ下がるように下向きに実をつけます。
違い④:種子
オニドコロ
種子も実と同じように細長く、翼(よく)と呼ばれる楕円形の羽のようなものが片方についています。この翼で風を受け、遠くまで飛ぶためと考えられていますが、実際は種子自体が重く、すぐに落ちてしまうとのことです。
ヤマノイモ
ヤマノイモの種子にも翼がついていますが、こちらは丸っこく、種子を覆うように翼があり、オニドコロと見比べると一目瞭然です。
まとめ
葉の形は愛らしいハート型なのに、毒性がある根茎を持つという少し怖い一面を持つオニドコロ、「鬼」の名前はダテではありません。食用であるヤマノイモとよく似ているため、食べる目的の場合は注意が必要です。しかし、葉や花は可愛らしく、実はドライフラワーとしても扱われます。観賞用として育てるのもいいですね。
出典:写真AC