生芋こんにゃくの定義
こんにゃくは植物の「コンニャク」を原料とします。コンニャクはサトイモ科に分類され、球茎にあたる部分からこんにゃくを作ります。原産はインドシナ半島といわれており、その見た目から現地では「象の足」とも呼ばれていました。この球茎にあたる部分をこんにゃく芋と呼び、これをすりおろして固めたものが「生芋こんにゃく」と定義されます。
ボタニ子
こんにゃくの花は強烈なにおいを放つんですよ。こんにゃくの原料となるこんにゃく芋について詳しく知りたい方はこちらの記事をどうぞ。
生芋こんにゃくの特徴
特徴①季節限定の食べ物
こんにゃく芋の収穫時期は春~秋にかけてです。こんにゃく芋の保存期間は短いため、収穫時期にのみ生芋こんにゃくは食べられます。毎年、生芋こんにゃくの時期を楽しみにしている人もいるほどですよ。
こんにゃく芋は保存期間が短い
生のこんにゃく芋は腐りやすく保存期間が短いため、生芋こんにゃくは高級食品でした。こんにゃく粉の製粉技術は1776年に常陸国久慈郡諸沢村(現・茨城県那珂郡山方町)の農民、中島藤右衛門(なかじまとうえもん)の手によって確立されました。その功績の大きさは、水戸藩から苗字、帯刀、裃(かみしも)着用が許されたことにもあらわれています。
ボタニ子
製粉こんにゃくと生芋こんにゃくにはっきりとした定義があるのは、こういった製粉技術誕生までに大きな苦労があったからなのかもしれませんね。
特徴②歯ごたえのあるしっかりした食感
こんにゃく芋に含まれる食物繊維、「グルコマンナン」をしっかりと練り上げて作る生芋こんにゃくは弾力ある食感が特徴です。むちっとした歯ごたえと弾力ある食感は、まさに生芋こんにゃくならではでしょう。
特徴③味しみがいい
生芋こんにゃくは製粉こんにゃくに比べ、粘りが強いので製造工程で空気が入りやすくなります。できあがった生芋こんにゃくには、スポンジのような小さな穴がたくさんあり、そのおかげで味しみがよくなります。
生芋こんにゃくと製粉こんにゃくとの違い
違い①製造工程
製粉こんにゃくと生芋こんにゃくの製法の違いは最初の工程にあります。製粉こんにゃくはこんにゃく粉を水になじませるところからはじまりますが、生芋こんにゃくはこんにゃく芋をすりつぶす工程からです。こんにゃく芋の皮を剥き、ペースト状になるまで根気強くすりおろす作業は簡単なものとはいえず、重労働といえるほどでしょう。
こんにゃく作りは分業制
こんにゃく作りはその工程の大変さから分業制をとっていました。栽培~収穫まで時間も技術も必要なこんにゃく芋を栽培する「農家」、技術と労力が必要な「粉屋(製粉業者)」、そして練り上げという力のいる作業を受け持つ「練り屋(加工業者)」の3つにわかれていました。こんにゃくの名産地である群馬県では、今もこの分業制が残っています。
ボタニ子
より昔ながらの作り方に近いものが生芋こんにゃくともいえそうですね。
違い②色
生芋こんにゃくは製粉こんにゃくに比べて薄い茶色をしていますが、これはこんにゃく芋の皮やそこに含まれる色素が一緒に混ざるためです。生芋こんにゃくの色をあらわす言葉には「栗色」といったものもあります。
白こんにゃくは当初好まれなかった
こんにゃく粉は白いので、本来は製粉こんにゃくを作ると白いこんにゃくができるはずですが、市販されている製粉こんにゃくの中にも黒い色をしているものがありますね。これは、生芋こんにゃくの色を見慣れている人に白いこんにゃくが好まれなかったためといわれています。より生芋こんにゃくの色に近づけるため、白い製粉こんにゃくに海藻を混ぜて色をつけていました。
違い③味
生のこんにゃく芋をそのまますりおろして作るため、生芋こんにゃくはこんにゃく芋が持つ風味が強く、味も濃いといわれます。製粉化の工程でどうしても失われてしまうミネラルなど微量元素も、生芋こんにゃくには多く残っています。
生芋こんにゃくの手作り方法
生のこんにゃく芋が手に入ったときは、ぜひ手作りに挑戦してみましょう。できたてのこんにゃくの風味は格別です。家庭で作る量であれば比較的簡単に作れますよ。こんにゃく作りの工程は「グルコマンナン抽出」と「アルカリ反応によるゲル化」の2つに大きく分かれます。
生芋こんにゃくの材料・道具
道具
- 包丁
- まな板
- ミキサー
- 鍋
- ホイッパー、ヘラなどかき混ぜるもの
- バットなどこんにゃくを冷やし固める容器
材料(こんにゃく8枚分)
- こんにゃく芋:500g
- 水:500mL
- 熱湯:2L
- 炭酸ソーダ(こんにゃく用):10g
- 塩:一握り
生芋こんにゃくの作り方①グルコマンナン抽出
- こんにゃくの生芋を洗い、芽をとって皮を剥く(皮を多く残すと色が黒いこんにゃくになる)
- ダイス状に切り分けたこんにゃく芋と水をミキサーにいれ、こまかくすりおろす
- すりおろしたこんにゃく芋を鍋にうつし、ひとまとまりになるまで静置する
- 熱湯1Lをそっと鍋にそそぎ、こんにゃくを熱湯に浮かばせる
- 弱火で加熱しながらゆっくりと混ぜる
- 煮立ってきたら火を止めて、もう一度静置する(約7分)
- 6の鍋に熱湯800mLを加え、ゆっくりとさらに混ぜる
ボタ爺
この工程はこんにゃく芋をペースト状にし、芋の中にある「グルコマンナン」を抽出することが目的じゃ。
生芋こんにゃくの作り方②アルカリ反応によるゲル化
- 炭酸ソーダの粉末を熱湯200mLに溶かす
- 鍋のこんにゃくに透明感が出て、ひと固まりになってきたところで8の炭酸ソーダを流し込んでバットへうつす(あっという間に固まりだすので手早く!)
- バットの中で1分間強く早くしっかりと練り上げる
- バットのこんにゃくを平らにならし、30分ほど静置する
- こんにゃくが固まったら適度な大きさに切り分け、塩をいれたお湯でゆでてアクを抜いて完成
ボタ爺
続いてのこの工程で、抽出したグルコマンナンを炭酸ソーダを使ってアルカリ性にし、ゲル化させているのじゃ。
ボタニ子
あっという間に固まりだすのは、グルコマンナンの固形化がはじまるからなんですね。手早くがポイントですね!
色をつけてアレンジを楽しもう
生芋こんにゃくを練り上げるときに、にんじんのすりおろしをいれれば赤いこんにゃくが、アオサなど海藻をいれれば緑のこんにゃくができあがりますよ。家で手作りするからこそいろいろなアレンジを楽しんでみましょう。
おすすめの生芋こんにゃくの食べ方
食べ方①刺身こんにゃく
生芋こんにゃくはなんといってもその豊かな風味が魅力でしょう。薄くスライスして、食感とこんにゃく芋の風味を満喫するには「刺身こんにゃく」がおすすめですよ。食物繊維が不足しがちな飲み会の場でもありがたいヘルシーなおつまみですね。
食べ方②煮込み料理
生芋こんにゃくは弾力のある食感と味しみのよさがあるので、煮込み料理にもおすすめですよ。おでんはもちろん、筑前煮やもつ煮込みなどどんな料理でも存在感を発揮してくれます。煮込み料理に使うときは包丁などで切らず、手で生芋こんにゃくをちぎるのがポイントです。こんにゃくの表面積が増えるので味しみがアップしますよ。
食べ方③炒め煮
生芋こんにゃくの香りや食感を楽しむには炒め煮もいいですよ。表面に少し焼き目をつけて、醤油とみりんの甘じょっぱい味をつければヘルシーな1品料理があっという間に完成します。お弁当のおかずにもおすすめです。
食べ方③デザート
こんにゃくはデザートにもおすすめです。弾力があり、食物繊維が豊富なので腹持ちもよく、ダイエットの心強い味方になってくれますよ。きな粉やあんこ、黒蜜などをかけて和風デザートにしてみましょう。
切り方で食感が変わるこんにゃく
こんにゃくは切り方で食感が変わります。スライスすれば歯切れのよい涼やかな食感に、ダイス状に切れば弾力のあるものに、食べ方にあわせて切り方を変えるとそれだけで違った印象になります。生芋こんにゃくを手作りするときは、丸めて団子状にしてもいいですね。
知れば知るほど奥深い生芋こんにゃく
1人の農民の努力によって高級食材であったこんにゃくが簡単に手に入るようになり、私たちの食卓に当たり前に並んでいると考えると、日本の食文化の豊かさを感じることでしょう。昔ながらの作り方で作られる生芋こんにゃくは、そんな歴史を感じさせてくれる風味豊かな季節の食べ物です。食べたことのない人はぜひ試してみてくださいね。
出典:写真AC