ドクウツギとは
ドクウツギ(毒空木)とはドクウツギ科ドクウツギ属の落葉低木です。致死性の神経毒を含む有毒植物として知られ「イチロベゴロシ(一郎兵衛殺し)」「オニゴロシ(鬼殺し)」「ネズコロシ」「ヒトコロビの木」などの別名があります。
ドクウツギの基本情報
学名 | Coriaria japonica |
科 | ドクウツギ科 |
属 | ドクウツギ属 |
生息地 | 日本(北海道から近畿以北) |
樹高 | 1.5m~2m |
開花期 | 4月~5月 |
花色 | 黄緑 |
ドクウツギの自生地
ドクウツギは日本固有の植物で、生息地は北海道から近畿以北です。日当たりのよい川原や、山地、海岸、荒地などに自生し、なかでも風よけとなるものがある場所を好むとされています。生息地の農村や海岸などでは、誤食事故を防ぐためドクウツギ刈りが行われています。
ドクウツギの特徴
ドクウツギは落葉低木で、樹高は1m~2mです。果期である5月~8月になると、1cm弱の赤い実が房のように付いてよく目立ち、熟すと黒く変色します。姿は美しいといえますが、ドクウツギの大きな特徴は強い神経毒です。うっかり口にしてはいけない毒が含まれています。接触については問題なく、触れたり伐ったりしても、かぶれなどの症状がでることはありません。
ドクウツギは日本三大有毒植物
ドクウツギの有毒部位は全木です。特に実の誤食が危険で、戦前の子どもの誤食事故は、植物中毒事故の約10%を占めるほど多発していました。また、ドクウツギに含まれる有毒成分はアルコールに溶けやすく、ほかの木の実と間違えて、果実酒にして口にしてしまったことで救急搬送されたという人もいます。その致死性の高さから「トリカブト」「ドクゼリ」と並び、日本三大有毒植物と称されます。
ドクウツギの毒性
ドクウツギには「コリアミルチン」「ツチン」といった即効性の高い神経毒が含まれています。誤って口に入れてしまうと途端に嘔吐、痙攣、呼吸困難を引き起こし、死に至る場合もあります。コリアミルチンの致死量は、体重1kgに対して0.1mgともいわれます。体重50kgの大人で5mgもあれば死に至るほどです。ちなみにトリカブトの毒素であるアコニチンの致死量は2~6mgとされています。やはりトリカブトと同等の強い毒性があるといえます。
ドクウツギに解毒剤はある?
ドクウツギの主な毒であるコリアミルチンの作用による中枢神経の興奮・痙攣には、ベンゾジアゼピン系の薬剤などが効果的であるとされています。もし誤って口にしてしまった場合は、そのような薬剤の点滴が解毒剤として用いられるでしょう。
ドクウツギはウツギの仲間ではない
ウツギという名前の植物は数多くありますが、ウツギとドクウツギは全く分類の違う植物です。ウツギという名前は、漢字で「空木」と書き、茎の中心が空洞になっていることに由来します。ウツギと名の付く植物は、この特徴から名づけられているため、違う種類の植物に似た名前が多いのです。他にも、低木~亜低木で、根本から枝分かれした細い幹がたくさん出る樹形、葉が対性、開花期が5月~6月ごろである点などもあります。
ウツギの基本情報
一般的にウツギといわれている、アジサイ科のウツギの基本情報を表にまとめました。ドクウツギとの違いが見えてくるでしょう。
学名 | Deutzia crenata |
科 | アジサイ科 |
属 | ウツギ属 |
生息地 | 北海道南部、本州、四国、九州 |
樹高 | 2m~4m |
開花期 | 5月~7月 |
花色 | 白 |
ウツギに香りはない
唱歌「夏は来ぬ」の歌詞の中で「卯の花の匂う垣根に」というフレーズがありますが、この「卯の花」はウツギの別名です。バイカウツギ以外のウツギの名を持つ植物は、香りがあるものはありません。ここでの「匂う」は、「香りがする」という意味ではなく、古語の「にほふ(匂ふ)」の「美しく咲いている・美しく映える」という意味が近いとされます。
「ウツギ」と名の付く植物
ウツギ ヒメウツギ マルバウツギ |
アジサイ科ウツギ属 |
バイカウツギ | アジサイ科バイカウツギ属 |
ノリウツギ | アジサイ科アジサイ属 |
タニウツギ ハコネウツギ |
スイカズラ科タニウツギ属 |
ツクバネウツギ ハナツクバネウツギ |
スイカズラ科ツクバネウツギ属 |
フジウツギ | フジウツギ科フジウツギ属 |
ミツバウツギ | ミツバウツギ科ミツバウツギ属 |
コゴメウツギ | バラ科コゴメウツギ属 |
ウツギの仲間の見分け方
アジサイ科ウツギの見分け方
アジサイ科ウツギ属のウツギは、全て房状に白い花が咲きます。ウツギは細い葉で葉の両面に毛があり、ヒメウツギは楕円の葉で毛がありません。マルバウツギは幅広の卵型の葉の形状が特徴的です。アジサイ科バイカウツギ属のバイカウツギは、梅の花に似た白い花で香りがあります。見た目に違いが分かりやすいのはアジサイ科アジサイ属のノリウツギです。ピラミッドアジサイとも呼ばれ、円錐型に花を咲かせます。
スイカズラ科ウツギの見分け方
スイカズラ科のウツギは漏斗状の合弁花が特徴的です。タニウツギ属のタニウツギはピンクの花、ハコネウツギ(ニシキウツギ)は白から赤に変化する花が目を惹きます。一方ツクバネウツギ属のツクバネウツギや、アベリアとも呼ばれるハナツクバネウツギは1mm~3mm程度の小さな葉を持ち、白や黄白色の花を咲かせます。
ドクウツギの見分け方
ドクウツギはあまり群生せず、点々とまばらに生える傾向があります。根本から細い枝がたくさん出ていて、左右対称に15対ほどの葉がまとまって鳥の羽のような形状です。葉の形は細く、一見ウツギと似ていますが、ドクウツギの方が表面にツヤがあります。また、ウツギは1本の主脈から側脈が出ているのに対し、ドクウツギは3本の主脈がはっきりしている点も見分け方のポイントです。
ドクウツギの不思議
ドクウツギは「生きた化石」
ドクウツギの赤い実は花弁が果実化したもので、そのなかにある種のような部分が本当の実です。現代では、化石のなかにしか見られない、とても珍しい特徴を持つ「生きた化石」というべき植物です。
ドクウツギの分布の謎
ドクウツギ科には約30種あり、その生息地は地中海付近、中国のヒマラヤ山脈、日本、台湾、ニューギニア、ニュージーランド、チリ南部、ボリビア、ペルー、エクアドルからメキシコ南部に点在しています。この生息地分布が歪んだ帯状になっていることなどから、植物学者の前川文夫氏は、白亜紀から第三紀のころの赤道がこの帯状にあったという古赤道分布説を唱えました。のちのゲノム解析で、この説は否定されましたが、ドクウツギの分布の謎はまだ解明されていません。
まとめ
かわいらしい実を付けるドクウツギは、とても危険な植物でした。近年、駆除されて数を減らしているようですが、このような危険な植物が身近に自生しているということを知らない人も多いのではないでしょうか。間違って実や葉を口にしてしまわないように、ドクウツギの姿や特徴を知って自衛することが大切です。
出典:写真AC