精霊馬とは
精霊馬(しょうりょううま)というお盆の飾りをご存知でしょうか。お盆の時期になると見かける、なすときゅうりで作ったものです。少しユーモラスな感じのするこの飾りはいったい何なのか、なぜ野菜の中のなすときゅうりという選び方になったのか、意味や由来を調査しました。この記事では、小さな野菜の飾りに込められた、さまざまな意味合いをご紹介いたします。また簡単に作れるのでその方法もご紹介しています。
お盆について
まず、精霊馬を作る「お盆」には、どのような意味があるのでしょう。日本では以前から8月の15日前後のお盆の時期になると、よそから働きに出てきている人たちがそれぞれの故郷に帰る習慣がありました。その名残で近年も、多くの人々が家族とともに自分の実家に里帰りをします。人々が交通機関を利用する光景は夏の風物詩ともなっています。高速道路は混みあい、新幹線は人であふれるという状態になるのです。
お盆にはご先祖様がお帰りになる
どうしてお盆の時期に実家へ帰るのかというと、亡くなったご先祖様の魂がこの世へ帰ってくるのをお迎えするためです。生きている家族、一族が揃ってご先祖様をお迎えするという考えです。多くの家庭では墓所に出かけて掃除をし、僧侶にお経をあげてもらってご先祖様の魂が帰って来れるように準備をします。家族や一族が無事に過ごしていますという姿を、ご先祖に報告する意味合いもあります。
お盆は祖先崇拝と仏教の思想が融合している
仏教では死んだ人は生まれ変わっていくと考えられています。「輪廻転生」という言葉があるように、亡くなった人は生きている人には影響を与えないとされています。これに対し、「ご先祖様が帰ってくる」というのは祖先崇拝と呼ばれる、日本人に古くからある先祖をあがめる習慣からきている考えです。長い歴史の中で、仏教と祖先崇拝の考えがいつの間にか融合したと考えられています。
日本人は宗教に寛容な民族
日本では神道と仏教がいっしょになって私たちの生活の中で生きてきました。宗教に対してあまり厳格ではないので、こういった寛容な考えが受け入れられたとされています。仏教の教えも信じながら、伝統的に伝えられている祖先崇拝の考えを尊ぶという選び方をするようになりました。精霊馬はそういった考え方の中から生まれたと考えられます。
なすときゅうりの精霊馬は魂の乗り物
ご先祖様の魂がこの世へ帰って来られるときに、移動手段に使うのが精霊馬です。きゅうりの馬、またはなすの牛に乗っていただきます。きゅうりの馬で急いで帰ってきてもらい、この世でゆっくり過ごしていただいて、帰りは名残を惜しみながらなすの牛に乗って帰るという考え方と、反対にゆったり牛に乗ってきて、急ぎ馬で帰るという考え方があるようで、地域によって違っています。ご先祖様の乗り物の選び方が違うのが興味深いです。
なぜ、なすときゅうりを使うのか
野菜を使って乗り物を作るのなら、なぜ他の野菜にせず、なすときゅうりを選んだのでしょうか。お盆の時期でしたら他にも野菜があるのに、なすときゅうりが必ず使われるという選び方を不思議に思う方もおられるでしょう。これには人々の暮らしとお盆の季節が大きくかかわっています。
昔は生活が質素だった
現代でこそスーパーの店先には季節を問わずいろいろな野菜が並んでいますが、昔はいつでも食べ物が手に入るということはありえませんでした。お供えをするのにも、供え物のために特別な準備ができない暮らしでした。そのため、お盆の夏の時期に手に入りやすく、おいしくて旬のものということで、きゅうりとなすが選ばれたのです。とても素朴な選び方でした。
お盆は収穫への感謝を表す機会だった
お盆までは収穫物の少ない時期です。米もまだ生育中ですし、春に種まきした野菜などもまだ収穫できません。人々は前年にとれた作物の備蓄で食いつないでいました。そのため夏になり、なすやきゅうりが実る頃には、人々の生活は潤い、その感謝の報告も込めて精霊馬を作ったといわれています。
次のページでは、地域による精霊馬の飾り方の違い、なすときゅうりの精霊馬の作り方、近年見られる愉快な精霊馬についてご紹介します。
出典:写真AC