備中鍬とは
備中鍬(備中ぐわ)は、刃の先の部分が2本から5本に分かれた農具です。よく見かける刃が平べったい鍬は平鍬(ひらぐわ)と呼ばれます。備中鍬は平鍬よりも、土起こしの用途に優れている鍬です。刃の先は平たいものや爪のように尖ったものなどいろいろな形があるのが特徴で、「万能(まんのう)」、「マンガ」などの呼び名が使われることもあります。
備中鍬の用途
土起こしで活躍する備中鍬
備中鍬の主な用途は、土起こしです。特に春先や収穫後に畑を荒く起こす作業に適しています。刃が細く、小さな力で、地面に刺すことができるのが備中鍬の利点で、土が固い畑では備中鍬を使うとよいでしょう。刃に土がつきにくく、どんどん耕すことができるのも備中鍬のメリットです。土を砕く作業や、根菜の収穫作業にも使われます。
ボタニ子
細く鋭い刃で硬い地面でも耕せるんだね。
ボタ爺
それが備中鍬の最大のメリットじゃ。
備中鍬の歴史
備中鍬の歴史は弥生時代から
備中鍬は日本史では古くから登場します。弥生時代から使われていた股鍬(またぐわ)という農具が徐々に改良され、現在の備中鍬に近いものになっていきました。股鍬の主な用途は、深く土起こしをしたり、水田を耕したりすることであり、備中鍬とほぼ同じです。弥生時時代の股鍬の刃は木製で、いつから金属の刃が使われていたのかは詳しくわかっていません。
備中鍬は備中が原産地
備中鍬は江戸時代に備中(岡山県の昔の呼び名)の学者であった山田方谷(やまだほうこく)が考案して生産販売された鍬です。備中は鉄の産地でもあり、大量に生産され、いつからか、その名は全国に広まるようになります。備中鍬の呼び名は「備中の鍬」というそのままの意味です。
ボタニ子
備中鍬って呼ばれるようになったのは、江戸時代からなんだね。
ボタ爺
そして、いつからか、こういった形の鍬の呼び名はみんな「備中鍬」と呼ばれるようになっていったのじゃ。
備中鍬の使い方
備中鍬の基本的な使い方は普通の鍬と同じです。ここでは、備中鍬の持ち方や姿勢など使い方の基本や、備中鍬を使った実際の作業について詳しく解説していきます。
使い方の基本
基本の持ち方
鍬の持ち方は、右利きの場合、左手で柄の後ろ端(刃と反対側の端)を持ち、左手から拳1つ分程度を空けて、右手で柄の前側を持つようにします。このとき、左右の持ち手はくっつけないように注意してください。メーカーにもよりますが鍬の柄のサイズは3尺(約90cm)~3.5尺(約105cm)のものが多いので、体にあったサイズを選びましょう。
基本の姿勢
鍬を持つ姿勢は、右利きの場合、左右の足を肩幅くらいに開き、右足を前にだします。このとき、左足はつま先を約45°くらい左に開くと、楽な姿勢がとれます。膝はやや曲げて、中腰でリラックスした状態がベストです。スポーツでは、腰をひねる動きが多いですが、日本史に出てくる伝統芸能や昔の農具の動きは腰のひねりが少なく、体に負担が少ないのが特徴です。
基本の動作
鍬はあまり高く振り上げる必要はありません。腕の力で耕すのではなく、刃の重さで地面に落とすようにして使う農具です。刃が重いものほど、重さを活かせる利点がありますが、重いと扱いが大変なので体力や土の硬さにあわせるとよいでしょう。鍬の作業の進行方向は後向きです。少しずつ後退しながら、耕していきます。
備中鍬の具体的な使い方
①土起こしに使う
備中鍬は野菜の収穫後や、春先の土起こしに使うことができます。平鍬に比べて、固い土でも耕しやすく、湿り気のある土でも刃につきにくいので、作業の効率がよいのが備中鍬のいいところです。基本の動きで腰などに負担のないように使います。
②草の根の掘り起こしに使う
備中鍬は、土起こしが得意なので、植物を根ごと掘り出す作業にも大活躍します。掘り起こしたい植物の根元に刃を突き刺して、鍬の柄をテコのように起こすと、小さい力で、掘り起こすことができるのが備中鍬のメリットです。耕作放棄地や庭の一部を開墾して畑にしたいときにとても役立つ農具で、備中鍬ならではの役割といえるでしょう。
③土を砕くのに使う
備中鍬には平鍬よりも土を細かく砕くことができる利点があります。耕した土が塊になっていると、畝立てや植え付けの作業がやりにくくなるので、土の塊を細かく砕くことが必要です。
④資材を混ぜるのに使う
備中鍬には土と肥料などを混ぜてなじませるときにも使います。平鍬は大雑把にしか混ぜることができませんが、備中鍬は細かく混ぜることができるのが利点です。特に果樹を植えつけるときに資材と土を混ぜる作業には重宝します。
やってはいけない使い方
①持ち手をくっつけて持つ
備中鍬は左右の持ち手をくっつけて持つと腕に負担がかかります。野球やゴルフのように遠心力で強く振れる利点もありますが、実際にこの態勢で長く作業をすると、腕を痛める原因になるので、この持ち方はやめましょう。左右の持ち手は拳1つ分程度を空けてもつようにします。
②柄の前側を持つ
持ち手が柄の前側(刃に近い方)に近すぎると、体が全体的に前のめりの姿勢になり、腰に負担がかかります。この姿勢で作業をすると、腰を痛める原因になりますので、この持ち方はやめましょう。このように、農具にはちょうどよく設計された重さのバランスがあるので、持ち方にも注意すると楽に作業ができます。
次のページからは、備中鍬のメンテナンスや備中鍬はいつから買えばいいのか、備中鍬の選び方について解説します。
出典:筆者撮影