ゲルセミウム・エレガンスの概要
ゲルセミウム・エレガンスは、ゲルセミウム科(マチン科という説もある)ゲルセミウム属のつる性常緑低木です。ゲルセミウム・エレガンスは雑木林や草むら、低木の生えている場所や日当たりのよい山の斜面などに自生しています。楕円形の葉には厚みと光沢があり、直径2cmほどでよい香りの黄色い花を咲かせます。実は、熟すと刺激でサヤが割れて種を飛ばす蒴果です。
ボタニ子
基本情報
科属 | ゲルセミウム科(マチン科)・ゲルセミウム属 |
形態 | ツル性常緑低木 |
学名 | Gelsemium elegans |
自生地 | 中国南部、東南アジア、タイ、ベトナムなど |
開花時期 | 5月~11月 |
花色 | 黄色 |
英名 | chinese gelsemium |
別名 | 冶葛、断腸草、シュア・ノーツァ、黄藤など |
ゲルセミウム・エレガンスの歴史と謎
正倉院で保管されていた
奈良県の東大寺の敷地内にある正倉院は宝物庫で、工芸品や美術品などを保管する倉庫でした。奈良時代の宝物の中には薬も含まれており、植物や動物由来の60種類以上の漢方薬だったといわれています。その中にはゲルセミウム・エレガンスを乾燥させて粉にした、別名「ヤカツ(冶葛)」が入った冶葛壺(ヤカツツボ)も含まれていました。
ボタニ子
千年以上もたっているのに、成分がほとんど変っていなかったのでゲルセミウム・エレガンスが合致したの。
ボタ爺
4種類の有毒物質がゲルセミウム・エレガンスのもので、そのままのこっていたんだの。
消えたヤカツ
奈良時代の漢方薬は貴重品だったため、管理記録されていました。しかし、756年に32斤(約19kg)あったヤカツは856年には2斤あまり(約1.2kg)に減っているものの、持ち出しが記録されていません。さらに1996年の調査時には390gほどになっていて、やはり記録がないため、大量のヤカツの行方はわからないままです。カヤツは乾燥させたもので、蒸発したとは考えにくいでしょう。
斤(キン)とは
斤(キン)とは、中国から入った奈良時代当時の分量の単位で、1斤が600gとも670gともいわれています。そのため、現代の単位に直すと多少の誤差がうまれます。
ボタニ子
中国では鎮痛や解熱用の漢方薬として使われていたらしいけれど、あまりにも毒性が強いから内服厳禁だったの。
ボタ爺
そんな毒性が強い薬が大量に行方不明なんて、誰がなんの目的で持ち出したのか、想像すると怖いのお。
ゲルセミウム・エレガンスは日本にも自生している?
ゲルセミウム・エレガンスは日本には自生していない
日本には、ゲルセミウム・エレガンスは自生していません。日本新薬株式会社の山科植物資料館で栽培していましたが、現在は扱っていません。中国南部やインド、ベトナムやタイなどでは自生しており、おもに害獣や猛獣駆除の罠、毒矢の原料として利用されています。少数部族の言葉では「食べると死ぬもの」という意味の、「シュア・ノーツァ」と呼ばれているそうです。
ボタニ子
「世界最強の毒草」って異名をゲルセミウム・エレガンスは持っているの。自殺や誤食、誤飲での死亡例もあるわ。
ボタ爺
日本での入手方法はないぞ。現地に行けば自生しているが、危険だから手を出してはいかんぞ。
ゲルセミウム・エレガンスの毒性
ゲルセミウム・エレガンスの毒素
ゲルセミウム・エレガンスは、植物がもつアルカロイド系の毒性を持っています。おもな成分は、コウミン、ゲルセミン、ゲルセミシン、ゲルセジン、ゲルセヴェリン、フマンテニリンなどです。1996年の調査で正倉院に保管されているヤカツに、ゲルセミンやコウミン、ゲルセヴェリンなどが含まれていたため、ゲルセミウム・エレガンスであると断定されました。
ゲルセミウム・エレガンスの中毒症状
ゲルセミウム・エレガンスの代表的な中毒症状は、呼吸困難や呼吸麻痺です。ゲルセミウム・エレガンスのもつ猛毒が、脊髄の呼吸神経に大きく影響するからです。そのほかにも舌のもつれやめまい、筋弛緩、失神や昏迷など多くの症状があります。毒の成分は消化器官からよく吸収されるため、下痢や嘔吐をともなった、腸がねじ切られるような激痛もあるそうです。
ボタニ子
そんな症状から、「断腸草」なんて別名もあるくらいよ。「毒根」とか「毒極大茶葉」「亡藤」なんて別名もあるわ。
ゲルセミウム・エレガンスの致死量
日本三大毒草のトリカブトは致死量が3mg~4mgといわれ、症状があらわれるのに6時間前後かかるそうです。厚生労働省の猛毒の定義は5mg以下でトリカブトも猛毒に分類されますが、ゲルセミウム・エレガンスの場合は比べものになりません。致死量はわずか0.05mgで、1時間前後で中毒症状が出るそうです。
ボタニ子
ゲルセミウム・エレガンスの葉をお湯で煎じて飲めば、たった3枚で死んでしまうという話もあるわ。
ゲルセミウム・エレガンスの有毒部分
ゲルセミウム・エレガンスには花、茎、葉、根、すべてに毒があります。誤飲、誤食をした部分によって中毒症状の出る速度が変化しますが、最も強いのは新芽です。乾燥させて粉にした葉や根を煎じた汁なども強く、水やアルコールに成分が溶け出すようです。根自体はほかの部分より強くないといわれますが、それでも猛毒には変わりません。
ゲルセミウム・エレガンスの薬効
ゲルセミウム・エレガンスの自生地では、薬として使用されていたという情報があります。毒性があまりにも強いため内服は厳禁で、外用としても30分程度の貼付で取りのぞかないといけません。薬効としては、天然痘、水腫、関節炎や打ち身、神経痛や頭痛の鎮痛、性病、リューマチ、喘息や解熱などがあるそうです。
ボタニ子
外用として湿布しても、長く放置するとかぶれたり水泡ができたりするんですって。
ボタ爺
毒性が強いから薬としても効いたんだろうけれど、あまりにも強すぎて扱いづらい部分もあるの。
ゲルセミウム・エレガンスと似ている植物
カロライナジャスミン
カロライナジャスミンは、ゲルセミウム・エレガンスによく似ています。ゲルセミウム・エレガンスの花びらは先が少し尖り、一方のカロライナジャスミンの花びらの先端が丸く、加えて開花時期が4月~5月と短いです。カロライナジャスミンは園芸種として流通しているため栽培している人もいますが、ゲルセミシンという毒が全草にあります。特に根と花の蜜に多く含まれる点に注意が必要です。
ボタニ子
ジャスミンというだけあって、花はとてもよい香りがするわ。でも、毒があるから子どもが蜜をなめないようにね。
ボタ爺
花はきれいだし香りもよいが、毒草だからの。偽ジャスミンなんて別名もあるんだよ。
ランキンジャスミン
ランキンジャスミンは、アメリカ南東部のルイジアナあたりの沼地に自生しています。別名はランキントランペットフラワーや沼ジャスミン、スワンプジャスミンなどがあります。開花時期は春と秋の2回で、香りはありません。ゲルセミウム・エレガンスと同じ、ゲルセミウム科ゲルセミウム属で毒草です。
ゲルセミウム属の仲間
- ゲルセミウム属には、ゲルセミウム・エレガンスとカロライナジャスミン、ランキンジャスミンのほかに、センピルヴィレンスとランキニという種類が北米に自生しています。
ゲルセミウム・エレガンスは見るだけにしよう
ゲルセミウム・エレガンスは、日本で見かけることはまずありません。しかし、中国や東南アジアなどでは普通に自生している植物です。甘い香りと黄色くかいわいらしい花は魅力的ですが、世界最強と謳われる猛毒をもつ毒草で、触ったりとったりするのは非常に危険です。もしも海外でゲルセミウム・エレガンスを見かけたら、目で観察するだけにしましょう。
ゲルセミウム・エレガンスの根は黄色いのよ。開花時期は5月~11月と、結構長いのね。