ナンキンハゼとは
属名と学名が変わった
ナンキンハゼ(南京黄櫨・南京櫨)は、トウダイグサ科ナンキンハゼ属の落葉高木です。以前はトウダイグサ科シラキ属に分類されSapium sebiferumという学名で呼ばれていました。研究が進んだ結果、ナンキンハゼ属として独立し、学名も変わったのです。
学名は「3」と脂肪が豊富なことから
現在の学名はTriadica sebiferaです。TriadicaのTriは「3」の意味で、三数性を表しています。三数性とは葉や花の基本数が3で、単子葉植物のほとんどがこのタイプです。ナンキンハゼは双子葉植物ですが、後述する花や実の特徴が三数性になっています。sebiferaは「脂肪のある」の意味で、種子に脂肪が豊富であることが由来です。別名をトウハゼ、カンテラギ、中国名を烏臼(うきゅう)といいます。
名前の由来
「ハゼ」と呼ばれるがハゼとは違う種類
名前は、「中国原産」で「ハゼと同様にロウを採取できる木」ということに由来します。ハゼの名前がついていますが、ハゼノキはウルシ科ウルシ属です。ハゼの仲間ではないため、樹液に触れてもかぶれません。しかし、秋に紅葉した赤い葉が美しく、種子からロウ(蝋)を取って利用できる点が共通しています。ちなみに、南京(ナンキン)とは、中国から渡ってきたものを指す言葉です。
「ハゼ」は埴輪の粘土の色から
それでは、「ハゼノキ」の「ハゼ」の由来は何でしょうか。「ハゼノキ」は古名を「はにし」といいます。「はにし」とは、埴輪(はにわ)を作る職人のことです。漢字では埴師、一般的には土師(はにし、はし、はじ)と書きます。ハゼノキの紅葉した葉の色が、埴輪の粘土の色に似ていることから、名前をもらったのです。後に「ハニシ」が「ハジ」となり、さらに「ハゼ」に変わりました。
原産地と歴史
昔は有用植物、今は侵略的外来種
ナンキンハゼは中国原産の外来植物です。日本でも種子の化石が見つかることから、昔は自生していたとされています。ナンキンハゼは江戸時代に長崎を経由して、有用植物として日本にやって来ました。しかし、現代ではその生命力から侵略的外来種として問題になりつつあります。ナンキンハゼは水の流れや鳥に運ばれて野生化し、西日本に分布を広げているのです。
利用には環境への配慮が必要
ナンキンハゼは日本の河原や山地、空き地や植え込みなど、どこにでも入り込んでいます。樹木を食害することで害獣視されるシカですら、ナンキンハゼを食べません。最近では環境省の「我が国の生態系等に被害を及ぼすおそれのある外来種リスト」に名前が挙がるほどです。利用の留意点として、「環境に影響を及ぼす場所や、自然水域では利用を控えるよう配慮が必要である」との記載があります。
ナンキンハゼの花言葉
ナンキンハゼの花言葉は、「真心」「心が通じる」です。ハゼノキも「真心」という花言葉を持っています。どちらも、種子がロウの採取に利用され、火をつけると最初はおとなしいものの、急にぱっと燃え上がることが共通点です。このことから、内に秘めた炎のような想いを連想してつけられたのでしょう。また、まっすぐに伸びる姿や、葉が赤く色づいてゆく様子からきた言葉かもしれません。
ナンキンハゼの特徴
ナンキンハゼは形の葉や紅葉が印象的で、覚えやすい樹木です。ナンキンハゼにはどのような特徴があるのでしょうか。早速ご紹介しましょう。
樹形や樹高などの特徴
ナンキンハゼは樹高5~15mで、まっすぐに伸びる樹木です。幹の直径は35cmほどになることもあるのです。樹形は不整形で枝が広がりやすく、横幅が3~10mにもなります。樹皮は灰褐色で、不規則な縦の裂け目が入ります。
葉の特徴
縦よりも横幅が広い葉
季節が春に向かっても、ナンキンハゼはなかなか目を覚ましません。春の芽吹きは遅めで、4~5月です。「新緑」とはいっても若い芽は黄~赤い色をしており、とても美しく見えます。葉は互生し、4~15cmくらいの大きさです。葉というと縦長のイメージがありますが、縦の長さ(基部から葉先まで)よりも横幅の方が長くなる傾向があります。
ひし形やスペードの形
葉はひし形あるいはスペードのような形で、先が鋭くとがる印象的な形です。ナンキンハゼの葉の縁は滑らかで、表にも裏にも毛はありません。葉柄は長く、明るい色です。葉の基部にいぼのような腺点が1対あります。枝葉を傷つけると乳液がにじみ出ることも特徴です。
秋の季節に紅葉する
季節が秋に向かうと、ナンキンハゼの葉は美しく紅葉します。普通の樹木が紅葉するには寒さが必要ですが、ナンキンハゼは暖かい地方でもカラフルに色づくため珍重されてきました。赤い葉だけでなく、黄色、オレンジ、赤紫、緑色と、実に色とりどりです。葉の表と裏でも色が違い、風が吹くと表と裏がちらちら光るように見えます。
落葉した落ち葉も美しい
ナンキンハゼは、落葉した落ち葉も美しく地面を彩り、赤い絨毯のように見えます。しかし、掃除は少し大変かもしれません。落ち葉は、押し葉にしても色が残りやすく、おすすめです。
花の特徴
初夏~夏に黄色い花穂をつける
ナンキンハゼは雌雄同株で、花の季節は初夏~夏(5~7月)です。雄花と雌花がありますが、花弁はありません。黄色い雄花が集まって穂となり、穂の付け根近くに雌花が0~数個つきます。花穂の長さは6~18cmで、黄色い尾のように垂れ下がるのも特徴です。雄花は、雄しべは2本ですが、がくは浅く3裂します。雌花もがくが3裂し、花柱の数は3個です(三数性)。花には微香があります。
雄花と雌花が咲く時期がずれる
しかし、雄花と雌花が一緒に咲いたのでは、自分の花粉で受粉が起こってしまいます。そこでナンキンハゼは、より強い子孫を残す工夫をしました。ナンキンハゼには、雄花から先に咲く雄性成熟型の木と、雌花から先に咲く雌性成熟型の木があります。雄花と雌花の咲く時期をずらすことにより、自分以外の木から花粉をもらうのです。蜜につられてやってくる虫たちが、花粉の受け渡しに貢献しています。
実の特徴
実がはじけると白い星を散らしたよう
実の季節は10月頃です。直径1.3~1.5cmの、少し三角っぽい球形の蒴果(さくか)をつけます。蒴果とは、乾燥してはじけて種子を放出する形式の実のことです。最初は緑色ですが、熟すと緑褐色~黒褐色になって3つに裂け、3つの白い種子があらわれます(三数性)。白いものは、種子の表面を覆う仮種皮で、脂肪に富んだ白いロウのような物質です。この中に黒褐色の種子が入っています。
白い種子が樹上にとどまる
蒴果がはじけると殻は脱落していきますが、種子は落ちません。紅葉期、落葉後も長く木の上に残っているため、まるで白い花か星のように見えます。種子にエゴサポニンという有毒成分を含むという記述も散見されますが、不明であるとする文献もあり、確かなことはいえません。自生しているものを見る限り、ある程度大きくならないと実がつかないようです。
白い実は鳥が大好き
ナンキンハゼの種子を覆う仮種皮には、豊富な脂肪分があります。寒い冬に向かう季節に脂肪を蓄えたい野鳥たちにとって、とてもありがたい実です。キジバト、ヒヨドリ、ムクドリ、スズメ、シジュウカラ、カラスなど、さまざまな鳥がこの恩恵にあずかります。鳥たちは白いロウのような部分を体内で消化吸収し、種子は糞と一緒に排出します。ナンキンハゼは鳥たちに運んでもらって、分布を拡大しているのです。
カラスは知恵を使って実を食べる
実がなったナンキンハゼの木の下に、実のついた小枝がたくさん散らばっていることがあります。これはカラスの仕業です。カラスは、実がついた枝先を20cmほどのところで折って落とします。カラスは地上でゆっくりと、脂肪分たっぷりの美味しい実を食べられるのです。
ボタ爺
次項ではナンキンハゼの育て方をまとめます。
出典:写真AC