「アケボノソウ」とはどんな植物?
花びらに特徴的な斑点模様があるアケボノソウは、リンドウ科センブリ属の2年草です。発芽してから1年目は葉だけが成長し、2年目にようやく花を咲かせます。背丈が50cmから高くて1mにまで育ち、花の数も100個と多いのが特徴です。花の見頃は9月~10月。夏から秋にかけて楽しめる山野草です。
茎と葉の特徴
植物の茎はだいたい丸いストローのような形ですが、アケボノソウの茎は変わった形をしています。茎を横に切ると断面が四角形で、茎の四隅には硬いヒダがあります。ヒダのおかげで茎は折れにくく丈夫です。緑色の茎は地面から直立して伸び、先端で枝分かれ、枝の1本に1つだけ花をつけます。
茎の根元から中間にかけての葉は、大きな長い楕円形です。葉の表面にくっきりとした3本の葉脈が走っています。大きい葉は花の時期になると枯れてしまいますが、茎上部の小さい葉は枯れません。花の周りの小さな葉は尖ったクサビ形や卵形をしていて、花びらのあいだから可愛い姿をのぞかせます。
花の特徴
花の色は白やクリーム色で、花びらは先端が尖っています。花の中央にある雌しべを囲むように雄しべが並びます。雄しべの数は花びらの枚数と同じです。基本、花びらの枚数は4枚~6枚ですが、写真のように7枚や珍しいものでは8枚の花びらもあります。
そしてアケボノソウの大きな特徴である花びらの斑点模様ですが、黄緑色の斑点は「蜜腺」と呼ばれ、ここから甘い蜜がでて虫を呼びます。先端近くの小さな斑点模様は緑黒色や暗紫色で、まれに斑点のない品種もあり「ホシナシアケボノソウ」や「フシナシアケボノソウ」と呼ばれています。
種の特徴
アケボノソウの種は大きさが1mmほどで色は黒褐色です。種には細かな突起があり、いびつな形をしています。花が終わったあと雌しべは実となり、中にたくさんの種ができます。種を作り大きくなった実は時期がくるとぱっくりと割れ、地面に種をこぼします。
アケボノソウの名前の由来は?
アケボノソウは漢字で「曙草」と書きます。名前の由来はその漢字にも表れていています。白い花の色を、夜が穏やかに明けはじめた空の白みになぞらえ、花びらの斑点はその空に残る星に見立て名前がつけられました。とてもロマンティックな由来です。
アケボノソウの生息地はどこ?
アケボノソウは、北海道から九州までの広い範囲に生息しています。平地より山地に育ち、やや湿り気のある場所や木の陰、水辺でその姿が見られます。日本百名山の1つ青森県の「岩木山」や、日本三百名山に指定された長野県の「茶臼岳」、そして「天空の湖」と称される群馬県の「野反湖」など、有名な山や湖でも愛でることができる野草です。
アケボノソウの仲間「ミヤマアケボノソウ」
ミヤマアケボノソウ(深山曙草)は、高山地帯の草地に生える多年草です。アケボノソウとは違ってリンドウに近い紫色の花を咲かせます。ミヤマアケボノソウは成長しても高さが10cm~30cmほどにしかなりません。茎は直立して伸び、あまり枝分かれせずに10個ほどの花芽をつけます。葉の形はアケボノソウより丸みを帯び、くっきりとした葉脈があります。
5枚の花びらには紫色のスジと斑点があります。花びら全体が細く先端に行くにつれ尖った姿は、真上から見ると星を思わせる美しい形をしています。花の時期は8月~9月で短いのが特徴。登山に訪れた人の心をつかのま楽しませてくれます。
ミヤマアケボノソウの名前の由来
ミヤマアケボノソウもアケボノソウと同じく、明け方の空が名前の由来になっています。白みかけた空というより、夜が明ける前の、わずかに明るくなった空に残る星に見立てた名前です。「深山」と言うだけあって、高い山が生息地というのも由来の一部になっています。
アケボノソウの育て方
じつは、山地で育つアケボノソウを平地で育てることもできます。2年草なので種から育てるのが一番ですが、育成が悪いと花が咲くまでに2年以上かかることもあります。おすすめの育て方は苗から育てる方法です。アケボノソウの苗はネット通販で買えます。
アケボノソウを苗から育てる
栽培場所
よく風の通る半日陰で育てましょう。夏場は雨水が直接あたらないようにするのがポイントです。ポイントさえ押さえておけば、人口の多い住宅地でも増やすことができます。
用土
アケボノソウの用土は、小粒や中粒の硬質鹿沼土・赤玉土・軽石を使います。水はけのよさに気をつけましょう。初心者や土の配合に自信がないときは、迷わず配合済みの土を使っても大丈夫です。ホームセンターやネットで山野草専用の土が手に入ります。
肥料
濃度の強い肥料は適しません。春や秋に1000倍に薄めた液体肥料をやります。頻度は1週間~10日に一度。やりすぎにも注意が必要です。
水やり
湿った場所を好むアケボノソウですが、水やりは表土が乾いてからでも問題ありません。鉢の底から水がでるくらいたっぷり与えましょう。与えすぎは根ぐされの元になるので気をつけて。冬の休眠期間は水やりを控えます。冬はあたたかい日の暖かい時間帯に、土の状態を確認してから水やりします。
アケボノソウとアリの関係
ネットで見られるアケボノソウの写真には、よくアリがいます。害虫というわけではなく、花びらの蜜腺からでる甘い蜜を目的にアリが集まるのです。アケボノソウにとってアリは、結実に必要な受粉の手助けをしてくれる大切な存在です。
まとめ
花びらに星を散りばめたアケボノソウは、見る人の心をひきつけます。その茎や花の形はとても特徴的。花を楽しむ期間は短く、山野や湖など自生している場所も限られていますが、山で実際にその姿を見れば疲れも吹き飛びます。
育てることもできる野草なので、アケボノソウを間近で見たい人は栽培にチャレンジするのもおすすめ。虫たちの協力を得て実をつけるアケボノソウの、魅力的な一生を観察するのもおつなものです。
出典:写真AC