道端の「青い果実」の正体
ある秋の昼下がり、近所の公園を歩いていると鮮やかな青色が目に飛び込んできました。近づいて見てみると、植え込みの影からツル植物が這って伸び、茎の所々から青や紫の丸い果実が顔を覗かせていました。果実の色は白から青、紫まで様々なグラデーションがあります。
ボタニ子
この草、青い実がついてるね!宝石みたいで綺麗。
ボタ爺
これはノブドウじゃな。別名イヌブドウ、ウマブドウなどともいう。実が無い時期だと気づきにくいが、いろんな場所に生えてるぞ。
ノブドウ基本情報
生息地は日当たりのいい場所全般
ノブドウは日本全国に分布する、落葉性のツル植物です。「野に生えるブドウ」という名前の由来の通り、野山に普通に生えます。日当たりのいい場所を好み、山や公園、道端など生息地は様々です。花の時期は8月頃ですが、花は小さく緑色〜乳白色なので目立ちません。結実する時期は9月以降で、秋には実が青〜紫色に染まります。
ノブドウ基本データ
- 標準和名:ノブドウ
- 学名:Ampelopsis brevipedunculata var. heterophylla
- 分類:ブドウ科ノブドウ属
- 分布:北海道〜沖縄
ボタ爺
別名「イヌブドウ」とも呼ばれるのだが、名前に「イヌ」とつくのは大抵「利用価値がない」という意味だぞ。イヌガヤとかイヌザンショウとかもそうだな。
青い色は害虫の色?
ノブドウの実に関するウワサ
ノブドウの最大の特徴が、青系統の色に染まる果実です。
ボタニ子
きれいな色だね!
ボタ爺
ちまたでは「ノブドウは害虫に寄生されることで青くなる」という説があるぞ。
ボタニ子
害虫!?青い実がたくさんついてるのは、害虫にたかられてるの!?
ボタ爺
断定はできんなあ。確かにタマバエというブドウの害虫がよくつくが、青い実を割ってみても中に虫なんかいないことも多い。
ボタニ子
ふむふむ。
ボタ爺
そもそも果実に色がつくのは、鳥に食べてもらって種を遠くへ運ぶという意味があるのだから、害虫がつかないと着色しない……というのは変な話じゃ。まあ、真相は実験してみないと分からんな。
ボタニ子
勇気のある人は、ノブドウの青い実を見かけたら、本当に中に虫がいるのか確認してみてね!
ノブドウは食べられる?
色は毒々しいけれど
毒はないが美味しくもない
ボタニ子
ブドウの仲間ってことは、食べられるんですか?
ボタ爺
毒はないので食べることはできる。でもあまり美味しくないし、よく虫がついているので、普通は食べないぞ。別名の「イヌブドウ」も、食べられないから「イヌ」がついているんだ。ノブドウを食用にするなら、葉を使った料理にするといい。
ノブドウの葉を食べよう
ノブドウの若い葉やツルは山菜として食べることができます。育つと繊維が硬くなるので、春先のまだ柔らかい時期に先端部分を採集しましょう。
葉の特徴
ノブドウは切れ込みの入った葉をつけ、ひげのようなツルを伸ばすのが特徴です。ヤブガラシというツル植物に少し似ており、生息地も公園や道端など同じような場所です。葉の形で見分けられますが、ヤブガラシも食べられる野草なので、間違えて食べてしまっても大丈夫です。
新芽の炒め物
ノブドウは炒め物に適しています。エグ味や臭味が無いので、様々な料理に使えるでしょう。ただし、何か際立った旨味があるわけでもないので、スープに加えたり、肉と一緒に炒めたりといった「脇役」としての使い方がメインになるでしょう。
ボタニ子
お肉と一緒に炒めるときは、まずフライパンの上でお肉を炒めよう。火が通ったら、細かく刻んだノブドウの葉を加えてね。
炊き込みご飯
葉を刻んで炊き込みご飯にする方法もあります。たくさん採集してきて、炒め物だけで消費できないときにおすすめです。炊き込みご飯にすると香りが際立つので、まず少量の葉で試してください。
ボタニ子
食べるだけじゃなくて、ノブドウは民間薬にも使われるみたい。次のページで紹介するよ。
民間薬に使われるノブドウ
ボタ爺
ノブドウの葉や根っこは民間薬に使われるぞ。民間薬として使われるときは、「ジャホトウ(蛇葡萄)」や「ウマブドウ」などの別名で呼ばれることも多い。
使う場所や効果は様々
ノブドウの葉、茎、根などさまざまな場所が民間薬として使われます。言い伝えられている薬効や効能は様々で、内臓の不調に煎じて飲んだり、膝の痛みに外用したりといった用法が伝統的に行われています。服用するときの処理は漢方薬と同じで、刻んだ茎や葉を煎じて飲みます。
茎葉は慢性腎炎,肝炎,嘔吐,尿閉などに用いる。
根は関節痛に用い、煎液を服用、外用したり、つき汁を外用したりする。
面白い薬効としては、屋久島・種子島に伝わっている目薬としての効能が挙げられます。ノブドウのツルを切って一方の切り口を口に咥え、もう一方の切り口を目に向けて、ツルの中の水分を吹いて目にかけます。
目の充血や目をついたときに目薬として(例:カズラの節間十五センチぐらい切り取り、切り口を吹いて出る液を目の中にいれて洗う)
あくまで民間薬なので注意
ただしノブドウはあくまで民間薬であり、法律上の医薬品ではありません。ここで紹介した薬効や効能も、あくまで伝統的な使われ方であり、医薬品としてしっかり検証されているわけではないので注意してください。ちなみに、法律で医薬品・医薬品原料と判断されている植物は、以下の文献で確認できます(どちらも、ノブドウは掲載されていません)。
医薬品になる植物は以下の文献でチェック
- 第十七改正日本薬局方:生薬の名前、規格、由来となる植物などを確認できます。
- 専ら医薬品として使用される成分本質(原材料)リスト:「この材料を使っていたら、医薬品として規制を受けるよ」というリストです。
まとめ
ノブドウの青い実は野山でとてもよく目立ちます。その特徴的な色彩が「何か特別な薬効があるかもしれない」と人々の想像を誘ったのか、民間薬としての利用が多岐に渡っています。人里でもよく見かける植物であり、たくさん採集できるので、料理に活用してみましょう。
出典:写真AC