イタヤカエデ(板屋楓)とは?
イタヤカエデとは、ムクロジ科の落葉広葉樹で、5~7つに切れ込みの入った葉が特徴です。秋ごろになると黄色やオレンジ色に紅葉する姿を見ることができます。日本で流通している国産木材のうち、楓材の材料はこのイタヤカエデがほとんどです。イタヤカエデにはたくさんの種類があり、それぞれに名前がついていますが、すべての種類を総称してイタヤカエデと呼びます。
イタヤカエデの基本情報
分類 | ムクロジ科(カエデ科) カエデ属 |
学名 | Acer mono |
別名 | イタギ、ツタモミジ |
分布 | 日本、中国、西アジア、ヨーロッパ |
樹高 | 15~20m |
花色 | 黄色 |
開花時期 | 4~5月 |
イタヤカエデは、日本全国の森林や里山に自生しています。カエデ属の植物は、光合成のときに強い光を必要としません。この特徴は陰樹と呼ばれており、光のあまり差さない森の深くにも生息することができます。光が全く届かないと枯れてしまいますが、地上部に生えている幹や葉を一度枯らして光を取り込み、根から新しい芽を出して生き延びることのできる、生命力の強い樹木です。
イタヤカエデの名前の由来
イタヤカエデは、樹高が高く枝がしっかりしており、たくさんの葉を茂らせるのが特徴です。雨の日には雨宿りできるほどしっかりしている様子から、板で作られた屋根のようだと言われ、「板屋」の名前がつけられました。また、「楓」の名前の由来は、カエデ属の葉の形がカエルの手に似ていることからです。
イタヤカエデの紅葉の時期とは?
イタヤカエデは、カエデ属の中でもっとも大きく成長し、茂らせる葉も多いため、紅葉の時期になると圧倒的な存在感を示します。イタヤカエデはどのように紅葉するのか、また、紅葉の見ごろの時期はいつ頃なのか、詳しくご説明します。
イタヤカエデの紅葉の特徴
葉が紅葉するときの色には、赤色、黄色、褐色の3パターンがありますが、イタヤカエデの葉は、イチョウなどと同様で、紅葉すると黄色に変色します。ややオレンジ色っぽく変色する場合もありますが、赤色や褐色に変色することはありません。
紅葉の見ごろ時期とは
イタヤカエデは日本全国に分布しており、紅葉の時期は地域によって異なります。北海道などの寒い地域から順に、10月下旬頃から紅葉が観測され始めます。1本の木の葉が一気に紅葉するのが特徴で、本州では11月中旬から12月下旬に紅葉する地域が多いです。落葉樹のため、葉は紅葉した後、散ってしまいます。
イタヤカエデの特徴
イタヤカエデは、他のカエデ科の植物とは、葉の形や花のつき方に異なる特徴を持っています。また、イタヤカエデにはたくさんの種類が存在しますが、種類ごとにそれぞれ異なる点があるのが特徴です。イタヤカエデの葉や花の詳しい特徴と、日本に自生している主な7種類の特徴について、それぞれご紹介します。
葉の特徴
イタヤカエデの葉には切れ込みがあり、通常5~7つに分かれる形をしています。カエデ属の葉は、葉の縁がギザギザとした鋸葉の形をしているものがほとんどです。しかし、イタヤカエデはカエデ属の中で唯一、葉の縁がつるんとした全縁の形をしています。
暗い森の中でも大きく育つための工夫
イタヤカエデの葉は、葉と葉が重ならないように生えるのが特徴です。これは、多くの葉に日光を当て、光合成の効率をよくするためだといわれています。イタヤカエデは陰樹のため、森や里山の深くに自生することも多いです。葉が重ならないように生える特徴は、あまり日光の当たらない暗い場所で少しでも日光を吸収し、大きく育つことができるよう進化した結果です。
花の特徴
4~5月頃のまだ葉が生えていない時期に、緑がかった黄色の小さな花を、密集して咲かせます。イタヤカエデは雄性同株という、1本の木に、雄花と、雄花と雌花のどちらの役割もある両性花をつけるのが特徴です。花茎は比較的長く、花びらは5枚あり、平たい形に開きます。
葉より先に花がつく理由
イタヤカエデは、まだ葉が生える前に花を咲かせます。これは、イタヤカエデの葉が大きく、たくさん茂らせる特徴があるため、葉がついたあとに花が咲くと、花が生えているかどうか分かりにくいからです。動物や昆虫に花を見つけやすくすることで、花粉を運びやすくさせる、子孫繁栄の理由からだと言われています。
イタヤカエデの種類による特徴
イタヤカエデには変種、亜種が多く、全世界に十種類以上の仲間がいます。日本に分布している主な種類だけでも、エンコウカエデ、エゾイタヤ、イトマキイタヤ、オニイタヤ、ウラジロイタヤ、アカイタヤ、タイシャクイタヤの7種類が存在します。中でもエンコウカエデは主流で、エンコウカエデのことをイタヤカエデと呼ぶこともあります。
エンコウカエデの見分け方
エンコウカエデは本州と四国に広く分布しており、特に標高の低い山によく自生します。他の種類との違いは葉の形にあり、切れ込みが深く、細長くしぼんだような形をしています。
エゾイタヤの見分け方
エゾイタヤは、「蝦夷」の名前がついている通り、日本の北海道周辺に分布しています。イタヤカエデの中でも大木に育ち、木材加工して利用されることが多いです。他の種類との違いは、葉の裏側にある毛にあり、エゾイタヤは主脈沿いに毛が生えています。
イトマキイタヤの見分け方
イトマキイタヤは、本州の中部近郊に分布しています。イトマキイタヤの見分け方は、葉が他の種類と異なり、葉部分には全く毛がなく、葉の裏側にあたる葉柄の付け根あたりのみ赤褐色の毛が密集して生えています。
オニイタヤの見分け方
オニイタヤは日本全国どこにでも分布しています。エゾイタヤ同様、大木に成長するため、木材としての用途が多いです。他の種類と違い、葉の裏側全体に細かい毛がびっしりと生えており、触ることによって見分けることができます。
ウラジロイタヤの見分け方
ウラジロイタヤは、本州の北部や日本海側の寒い地域に分布しています。陰樹であるカエデ属は葉の厚みが薄いのが特徴ですが、ウラジロイタヤはやや肉厚で、名前のとおり、葉の裏側が粉っぽい白色なのが特徴です。
アカイタヤの見分け方
アカイタヤは、北海道と本州の日本海側で見られる、大木に成長する種類です。他の種類のイタヤカエデは、春から夏にかけて青々とした緑色の葉を茂らせますが、アカイタヤは紅葉の時期ではなくても、ほんのりと葉が赤く色づいています。また、切れ込みが浅く、5つに分かれているものが多いのも特徴です。
タイシャクイタヤの見分け方
タイシャクイタヤは、広島県の帝釈峡にのみ分布している珍しい種類です。また、分布先以外にも他の種類と異なっている特徴があり、葉の表裏どちらにも毛が生えていることや、イタヤカエデの中では比較的小さな樹高であることなどから見分けることができます。
出典:写真AC