なぜ街路樹にイチョウ(銀杏)が多い?
街路樹は名前のとおり、道路沿いに植えられ、街の景観をよくするために欠かせない樹木です。いろいろな種類の樹木が街路樹として植えられていますが、特に多いのはイチョウ(銀杏)といわれています。しかし、落葉樹であるイチョウは落ち葉の掃除が大変です。おまけに独特の臭いを放つ実もつけます。「なぜ街路樹にイチョウが多いのか」と疑問に思う方も少なくないでしょう。
日本の街路樹に多い樹木はイチョウのほか、サクラ、ケヤキ、ハナミズキ、トウカエデなどだよ。なぜか落葉樹が多いんだよね。
質問内容
日本の街路樹になっている樹木の種類はなにが多いか。なぜその種類が選ばれるのか。
回答内容
一番多い種類がイチョウ。2位がサクラ類。3位はケヤキ。
①は国土交通省の国土技術政策総合研究所が2007年に行った調査結果を基に、記事が作成されている。1位のイチョウは57万本。2位のサクラは49万本。3位のケヤキは48万本。
落葉樹なのは気にならない?
イチョウは落葉樹です。落葉樹は寒くなると落ち葉掃除するため、街路樹には不向きのように思われますが、日本の街路樹に選ばれる樹木は、イチョウ、サクラ、ハナミズキ、トウカエデと落葉樹が多いのです。これは日本人の感性が影響しているのではないか、と推測されています。日本人は四季の変化を楽しむ傾向が強いため、常緑樹よりも落葉樹が好まれるのでしょう。
日本には四季の変化を楽しむ文化が根づいています。そのため一年中緑をたもつ常緑樹よりも、季節ごとに姿を変える落葉樹が好まれるのですね。
日本の場合、秋の落ち葉についても「完全に除去するよりも、ある程度葉が落ちている景色が風流を感じる」という考え方もあるよね。
ギンナンの臭いは気にならない?
イチョウの問題点は実(ギンナン)をつけることです。地面に落ちたギンナンをうっかり踏んでしまうと、独特の臭いが広がってしまったり、地面を汚したりする恐れがあります。このことも「なぜイチョウが街路樹によく利用されるのか」という疑問を生じさせる理由でしょう。この件に関しては、いろいろな対策が各地で練られています。
イチョウは雌雄異株の木なので、実をつけない雄株を植える方法も考えられています。
地域によってはギンナンが食べられることを利用して、地元の人たちにギンナンを持って帰ってもらう取り組みも行っているそうだよ。
街路樹にイチョウが選ばれる理由
イチョウが街路樹によく利用されるのには、はっきりとした理由があります。イチョウには秋以降の掃除が大変な落葉樹であることや、ギンナンの臭いなど、懸念される要素を補ってあまりあるほどのすばらしい長所があるのです。
理由①成長が早く手間がかからない
イチョウは成長が早い樹木です。しかも丈夫で寒さや病害虫に強いため、栽培管理にあまり手間がかかりません。生命力も強く、剪定しても木が衰弱せず、しっかりと芽吹きます。街路樹は景観の美化という目的上、早く美しい樹形に成長することや、管理が容易であることが望ましいです。成長が早く丈夫で手間がかからないイチョウは、街路樹として理想的な性質をそなえています。
イチョウは公園樹としてもよく利用されています。その理由のひとつは街路樹と同じく、丈夫で手間がかからない性質です。
イチョウは長生きすると30m以上の高木に成長するんだ。この点も、広い土地に植える公園樹にぴったりなんだよ。
理由②大気汚染や排気ガスに強い
イチョウは大気汚染や排気ガスにも強い樹木です。道路沿いに植えられる街路樹はほぼ毎日、自動車から出る排気ガスにさらされます。また、街路樹が植えられる道は多くの人が使うため地面も固くなりやすく、植物が育つには非常に過酷な環境といえるでしょう。イチョウはそんな環境下でも問題なく育ちます。
理由③美しい見た目
イチョウが街路樹に利用される理由として、見た目の美しさもあげられるでしょう。イチョウの堂々とした高木に葉が生い茂った姿は見事の一言につきます。特に秋の黄葉は圧巻の美しさです。街路樹は景観の美化という役目もあるため、見た目の美しさも重視されます。イチョウはその点でも、街路樹にふさわしい樹木といえますね。
イチョウが選ばれる理由④火に強い
イチョウは火に強い樹木です。イチョウには、ほかの樹木に比べて葉や幹が含む水分量が多いという特徴があります。つまりほかの樹木に比べて燃えにくいのです。この性質からイチョウは、火災の際に延焼を防ぐ防災効果も期待できます。実際に関東大震災時にも、多くのイチョウが燃え残りました。
理由⑤長寿である
イチョウは成長が早いわりには長寿の木とされています。樹齢1000年以上とされる巨木もあるほどです。街路樹は植え替えが容易ではないため、長命種であることも重要な条件とされています。しかし、栽培環境が過酷であることから、本来の寿命ほどには生きられないでしょう。街路樹のイチョウの場合は、100年は生きられるのではないかと推測されています。
明治神宮外苑の絵画館前の銀杏並木は、1918年に種まきされた記録が残っています。
街路樹も植栽された場所によって環境は異なるから、どれだけ生きられるのかはよくわからないんだ。
イチョウの街路樹の歴史
街路樹の始まりは明治時代
日本で街路樹が植えられたのは明治時代のことです。当時、都市の近代化を目指していた日本政府はヨーロッパの街並みを参考にして、東京に街路樹を植えることを決めました。ただし、最初からイチョウが多く植えられていたわけではありません。当時の日本は欧米に追いつこうとするあまり、日本古来のものよりも海外のものを重視する傾向がありました。街路樹も外来種の樹木が多く選ばれたのです。
イチョウはもともとは中国原産種ですが、古くから日本で親しまれていたため、在来種として扱われていました。
当時は「なんでも海外のものが最良」という風潮が強かったんだ。だから街路樹もスズカケノキやユリノキなどの外来種が多く採用されたんだよ。
イチョウが増えたのは関東大震災後
イチョウが街路樹として多く植えられるようになったのは、大正時代末期以降です。大正12年9月、のちに関東大震災と呼ばれる大地震により、東京は壊滅的被害を受けました。東京だけでも6万5千人以上の死者を出したとされる大災害で、街路樹も6割以上が焼失してしまいます。そんななか、イチョウは多くが燃え残り、延焼を防いだ例すらあったのです。
イチョウは火に強いため、震災による大火にも耐えられたのですね。
それから復興後、新たに植える街路樹にイチョウが多く採用されたんだよ。景観だけでなく防災面も考慮された結果なんだね。
イチョウの繁殖方法
雌雄異株の風媒花
イチョウは雌雄異株の植物で、風を媒介として受粉を行う風媒花です。春に咲いた雄花が花粉を飛ばすと、風に乗って雌花まで運ばれます。雌花は花粉を数カ月間保持し、秋頃になってようやく受精します。このためギンナンは秋に成熟するのです。ギンナンは独特の臭いがあるため、近年はイチョウを街路樹として植える場合は、ギンナンをつけない雄株を植える地域が増えています。
挿し木や接ぎ木で繁殖可能
イチョウは挿し木や接ぎ木で増やせます。種から育てるよりも、挿し木や接ぎ木から育てるほうが早いため、近年は挿し木や接ぎ木から育てた苗を植えることが多くなりました。また、挿し木や接ぎ木で繁殖させるのはギンナン対策でもあります。ギンナンの悪臭被害を防ぐには、結実しない雄株を植えるのが最良の方法です。ところがイチョウの雌雄の区別は、木が幼いうちはわかりません。
イチョウが雄株か雌株か区別がつくのは、ある程度成長して花を咲かせたときなんですよ。
だから最初から雄株だとわかっている木から挿し木や接ぎ木を作り、増やす方法が有効なんだね。
イチョウの街路樹を楽しもう
春に芽吹き、夏に優しい緑の葉を茂らせるイチョウの並木道は美しいです。特に秋の黄葉の美しさは、毎年期待している方も少なくないでしょう。じつはイチョウの街路樹は美しさで人を楽しませるだけではなく、いざというときは恐ろしい火災から人を守る防災木の役目も担っているのです。近所にイチョウの木があるならば、隠れた役目にも思いをはせながら会いに行ってみましょう。
実際にイチョウは、街路樹のなかで特に多く植えられているんですよ。