ユキモチソウをご存じですか?
ユキモチソウとは
別名 | 雪持草 カンキソウ(歓喜草) |
属性 | サトイモ科テンナンショウ属 |
分類 | 塊茎性多年草 |
原産地 | 日本(近畿地方、四国に分布) |
草丈 | 50cm前後 |
耐寒暑性 | 耐暑性:強い 耐寒性:-10℃ |
神秘的で美しい花姿
画像の神秘的な美しい姿に思わず見入ってしまわれた方も多いのではないでしょうか。ユキモチソウ(雪餅草)はその名の通り、花の中心に雪を思わせる白い餅状の付属体を持った植物です。球根植物なのですが分球しないため、増やし方は実生でという形になります。直射日光に弱いため遮光が必須だったり、間違えた水やりにより球根が腐るなど、栽培の難易度は高いですが、それだけに熱心な愛好家も多い植物です。
絶滅危惧種であるユキモチソウ
日本に自生するユキモチソウですが、環境省からは絶滅危惧種として取り扱われています。原因の一つは、珍しい特徴のある美しい花姿を求める園芸採種の際の乱獲だといわれています。そしてもう一つは、そうした個体数の減少により、雄株雌株を必要とする自然交配が難しくなってしまったということです。愛好家の多いユキモチソウですが、自生が難しくなった現在、園芸種として人の手で種を絶やさないよう守っていきたいものですね。
ユキモチソウの特徴
白い餅の部分は何なのか
餅の正体は付属体
ユキモチソウの特徴で、なんといっても注目を集めるのはその白く美しい餅状の付属体でしょう。この白い付属体は、虫の好む匂いを出し、虫を花の奥へと誘い込む役割を担っているといわれています。触感は小さいうちは硬く、大きくなるにつれ餅のように柔らかくなります。この付属体を半分に切ってみても餅や発泡スチロールのような状態で、特に中に何かが入っているわけではありません。
性転換する雄花と雌花
栄養状態で変化する性別
ユキモチソウのもう一つの大きな特徴として、生育過程の栄養状態によって、雄花と雌花の性別が変化するという点があります。これはテンナンショウ属によくある特徴で、最初は雌雄どちらでもなく育つのですが、栄養状況がよければ【花がつかない<雄花<雌花】とグレードアップしていくのです。そして栄養状況が悪ければ、雌花から雄花へと戻ってしまうこともあります。これには、種を作るのに株が体力を消耗するため、栄養を必要としているからではないかとの説もあります。
こちらでユキモチソウの仲間であるテンナンショウ属の【ムサシアブミ】のご紹介をしています。
ユキモチソウの生態
花のしくみ
外から見えない場所にある雄花と雌花
ユキモチソウの花の形態は肉穂花序と呼ばれるもので、粒々としたヤングコーンのような見た目をしています。白い餅のような付属体の下にある苞で隠された根元の部分に、雄花なら紫色、雌花なら緑色の肉穂花序がそれぞれにあります。
虫を媒介とした巧妙な受粉システム
ユキモチソウは、人間には分からない虫を引き付ける匂いを出し、長い壺状の苞の中に虫を誘い込んで受粉をさせる虫媒花です。そのシステムは以下のようになります。
- 虫がユキモチソウの匂いに誘われ、雄花の苞の中に入り込み、身体に花粉を付着させる。
- 雄花の苞の付け根には虫の出られる隙間が空いており、虫はそこから出て、今度は雌花の苞の中に入る。
- 虫は雌花の中に入り込んだが、雌花の苞の付け根には虫の出られる隙間はなく、苞は虫がよじ登れない構造になっている。
- 雌花の中に花粉を付着させると、行き場のなくなった虫は雌花の中で息絶える。
- 受粉完了。
ということで、受粉の終わった雌花の苞を剥いてみると、雌花の肉穂花序に付着するように大量の虫の死骸が出てきます。虫には気の毒ですが、計算しつくされた自然界のしくみには驚かされるばかりですね。
苞の役割
花序を守り、虫を閉じ込める役割の仏炎苞
ユキモチソウの肉穂花序を包み込む苞は、特徴のある美しい形をしています。これは仏炎苞と呼ばれ、仏像の光背と様相が似ていることからこの名がつけられました。上の二枚の画像を見比べると納得できますね。仏炎苞は花弁の代わりに肉穂花序を守ると同時に、花の内部に侵入してきた虫を長時間閉じ込めておく役割を果たしていると考えられています。虫が苞の中に滞在する時間が長ければ、それだけ花粉が虫に付着しますから受粉の確率も上がるというわけですね。
雌花の付け根にできる実
大量の種と毒性のある液果
受粉が終わると雌花の肉穂花序の部分が実となり、熟するとともに膨らみ、赤くなっていきます。この実は果汁が多い液果と呼ばれるもので、ユキモチソウの場合、毒性があるので直接触らないよう注意が必要です。赤く熟した粒の中には白い1~4個の種が入っており、一つの肉穂花序から採れる種は、小さいものからでも200個以上になります。
ユキモチソウの増やし方
増やしにくいユキモチソウ
増やし方は実生のみ
ユキモチソウの球根は分球せず子球もできないため、栽培での増やし方は実生でのみになります。直接果実に触れないように、水を入れたビニール袋の中で果実をもみほぐすようにして種を取り出しますが、種を乾燥させてしまうと死滅してしまうので、取り出した種はすぐにまくことになります。
発芽抑制物質をもつ果肉
上記のように果実からわざわざ種を取り出すのには理由があります。それはユキモチソウの果実には発芽を抑制する物質が含まれているからです。ちなみに果実のついたままの状態で種をまくと、発芽が一年遅れるといわれています。複数株を栽培して同時期に受粉させることを目的とした場合には、発芽時期を揃える必要があります。そのためにも発芽抑制物質を含む果実は取り除いておいたほうがよいでしょう。
受粉は人の手で
雄株と雌株が揃った時点で確実に受粉させるには、雄花の下の部分を花粉がこぼれないように切り取り、仏炎苞を開いた雌花の肉穂花序に振りかけるとよいでしょう。また開かずに綿棒やスポイトで花粉をかける方法もあります。受粉が成功すると仏炎苞は枯れ、花序が大きくなってきます。
ユキモチソウの育て方
ユキモチソウを栽培する前に
デリケートな栽培条件
ここまでユキモチソウの生態をご説明してきましたが、非常に変わった特徴を持つ植物だということがお分かりでしょう。不確定要素が多く、日照や防寒、肥料、水やりの管理なども時期によって違い、栽培方法をまちがうと枯れてしまうことにつながります。そこで育て方の重要なポイントを先にまとめてみました。
ユキモチソウの栽培をする前に確認しておきたいこと
- 種から花が咲くまでには早くても3年かかる
- 果実から取り出した種は絶対に乾かしてはいけない
- 発芽抑制物質の影響がある場合、春に発芽するか1年後に発芽するかは分からない
- 雄花と雌花がないと受粉しないので、種の採取を目的とした栽培には複数株が必要
- 雌雄は育ってみないと分からない
- 水分を好むが、梅雨時や休眠期に与えすぎると球根が腐る。
- 暑さには強いが夏場の直射日光はダメージが大きく、枯れることもある
- 虫からの食害にあいやすく、葉ダニによって枯れることもある
- 2年目以降は葉が枯れたら新しい土に植え替えること
- 2年目以降の植え替えの際には、腐る原因となるので、球根や根のはがれかけた部分を取り除くこと
- 数年放置して肥大化した球根は、分球できない性質のため夏場に腐ってしまうことがある
- 雨に当たると花が痛むので、地植えの際は雨を遮るものが必要
注意事項だけでも栽培の大変さが分かりますね。ユキモチソウは、基本的に水はけのよい肥沃な土壌と適度な湿り気、風通しのよい半日かげの環境を好みます。雨を嫌いますので、鉢植えで育てて植え替えをするほうがよいかもしれませんね。それではユキモチソウの年間栽培歴です。
1~3月 | 休眠期 | 2月は植え付け可能 水やりを控える |
4~10月 | 生育期 | 液肥を与える |
5月 | 開花期 | 開花期 仏炎苞が開いたら人工授粉 置肥を与える |
9月 | 採種期 | 受粉が成功していれば採種可能 |
10月 | 地上部が枯れる 置肥を与える | |
11~1月 | 休眠期 | 11月は植え替え可能 水やりを控える |
まとめ
ユキモチソウは生育や受粉条件も難しい上に、珍しい特徴のある山野草ということで乱獲され、減少の一途を辿っています。野山に自生している山野草は、自然のままにあるのが一番美しい姿ですよね。縁あって球根や種を手に入れる機会がありましたら、大切に栽培して次の世代へと種を託していきたいものですね。
出典:写真AC