ユリの歴史
日本のユリの歴史
日本においてユリと人との関わりは古く、縄文遺跡からユリの球根が出土して文献に記載されているほどです。以後、古事記、万葉集の中にもユリの姿は語られ、祭りや祈りの儀式に捧げられてきました。こういったことから、ユリは人々にとって想いや願いを託した存在だったと考えられるのではないでしょうか。ユリの語源は花が揺られる「揺り」からとも、球根の小さい鱗片(りんぺん)の重なり合う「寄り」からともいわれています。
海外のユリの歴史
キリスト教圏ではマドンナリリー(和名ニワシロユリ)である白ユリを神聖な植物として扱っています。これらのことから、ユリは人々の生活に身近な存在であると同時に、かけがえのない神聖な花でもあったといえるでしょう。
オリエンタルリリー・東洋へのあこがれ
1862年に英国の園芸商が日本からヤマユリの球根を持ち帰った結果、ヤマユリはヨーロッパの園芸界に多大な衝撃を与えました。清楚なマドンナリリーとは異なり、豪華な大輪で強い芳香のあるヤマユリはそのままオリエンタルリリーへの憧憬となったことでしょう。その情熱は名花・カサブランカの誕生へとつながっていきました。
ユリの特徴
多彩な種類
ユリは切り花としてはもちろんガーデニングの主役としても人々の生活を潤してきました。その種類はおよそ100種といわれ、そのうちの15種が日本に自生しています。
花のつくり
ユリの花は6枚の花被と6本の雄しべと1本の雌しべから成り立ちます。花の形状は、ラッパ状、漏斗状、盃状、球状の4種類あり、これがそのまま原種を分ける属性となっています。栽培においては、雄しべの葯(やく)をそのままにしておくと受粉して種ができてしまうので、花がらを早急に摘み取ることが必要です。というのも種ができれば株全体が消耗して球根の肥大が悪くなり、翌年の花が小さいものとなってしまうからです。
花の大きさと色
花径は、最も大きいといわれるヤマユリで20~26cm。小さいものではマルタゴンリリーの5cmほどと花の大きさには幅があります。色は白、ピンク、赤、橙、黄色といったところで、赤でも緋赤とよばれる鮮やかなものから朱橙とよばれるオレンジ色に近いものや、アジアティック・ハイブリッド種であるロリポップのように白い花被の先端だけがピンク色といったものまでさまざまです。
球根のようす
ユリは球根類ではチューリップなどと同じ鱗茎ですが、球根に外皮がなく、小さい鱗片がたくさん集まって球状になっています。この鱗片をはがして土に挿すことで切り口に小球を作り、新しい株が成長していきます。
根のようす
ユリの球根には上根と下根があり、それぞれ違う役割を担っています。上根は球根の上の茎にあり、主に水分と栄養分を吸収します。下根はユリの株そのものを土中に固定し、安定させる役割を持っています。冬に茎が枯れると同時に上根は枯死しますが、下根は球根と一緒に数年間育ちます。上根の付け根には小さい木子(きご)と呼ばれる小鱗茎ができることもあります。
ユリのふやし方
ユリのふやし方には種と球根のほかに、葉の付け根にできる小さい珠芽(むかご)や木子を、球根と同様に使う方法もあります。種でふえる一例としては、野生化しているタカサゴユリを見たことはありませんか?タカサゴユリの薄く小さい種子は、風に乗って周囲に広がり1年で開花します。放置するとあっという間にあたりに増えるので管理が必要です。
ユリの種類と分類
ユリ科ユリ属に属するユリには様々な品種があり、色や咲き方の特徴や形状も異なります。ユリの分類は野生種である原種、原種を交雑させた園芸種、園芸種をさらに交雑させた下位分類となるものに分けられます。後ほど、詳しく説明しますが、下位分類といっても花として劣っているわけではありません。
ユリは大きく3つの分類に分けられる
- ①原種:ユリの野生種
- ②園芸種:ユリの原種を交雑させたもの
- ③下位分類:ユリの園芸種をさらに交雑させたもの
原種の種類と見分け方
原種とは人の手が加えられることなく現存する野生の品種のことです。原種には4種類の属性があります。ユリの原種はおよそ100種ともいわれています。
亜族 | 特徴 | 品種例 |
テッポウユリ亜族 | 花形がラッパ状。花は横向きに咲く。花弁の基が筒状。 | テッポウユリ |
ヤマユリ亜族 | 花形が漏斗状。花は横向きに咲く。花弁の基が裂開。大輪。 | ヤマユリ |
スカシユリ亜族 | 花形が盃状。花は上向きに咲く | エゾスカシユリ |
カノコユリ亜族 | 開花時に花被が巻く球状。花は下向きに咲き多花性。 | カノコユリ |
テッポウユリ【テッポウユリ亜族】
テッポウユリは、奄美・沖縄地方に自生しています。純白の花は、野生種であることとネーミングに反してあまりにも清楚な雰囲気ですが、テッポウユリの名前の由来は古式ラッパ銃の形からきています。
テッポウユリ亜族の特徴と見分け方
- その名の通りラッパ状の花が横向きに咲くこと
ヤマユリ【ヤマユリ亜族】
ヤマユリは東北地方から関西地方まで広く自生する日本を代表する野生種ですが、ウィルス病に弱いという特徴もあります。この亜族は日本にだけ自生しているヤマユリとサクユリのみになります。
ヤマユリ亜族の特徴と見分け方
- 花が漏斗状で横向きに咲くこと
- 大輪の花を咲かせること
エゾスカシユリ【スカシユリ亜族】
エゾスカシユリは日本では千島から北海道に自生している野生種です。芳香はなく食用に向き、花色は橙赤色から黄橙色までがあります。生育条件としては日当たりのよい場所を好みます。
スカシユリ亜族の特徴と見分け方
- 花形が盃状で上を向いて咲くこと
カノコユリ【カノコユリ亜族】
カノコユリは九州、四国、台湾、中国の江南省に自生しています。名前の由来は花被の内部に鹿の子模様があるところからきています。色は赤味がかったピンク色に赤の鹿の子模様になります。
カノコユリ亜族の特徴と見分け方
- 多花性であること
- 開花時に花被が外側に巻くため、雄しべ、雌しべが花被の外に飛び出す形になること
出典:BOTANICA